鳥取の美意識が育んだ、
民藝とアート。
|歴史的な街に新鋭のアートが芽吹く
鳥取砂丘に代表される雄大な自然、豊饒な海と大地が育む食文化が息づいた鳥取県。新作民藝運動が興った鳥取市を中心とした東部、歴史的な街に新鋭のアートが芽吹きはじめた中部の“美意識”を体感する旅へ――。今回は、新たなに誕生した鳥取県立美術館など、アートの街として進化する倉吉のおすすめスポットをご紹介。
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新たなアートの風が吹き込む倉吉

倉吉市周辺でも芸術団体「砂丘社」や早世の鬼才画家・前田寛治、版画家・長谷川富三郎らによる民藝運動など独自の芸術が育まれてきた中、2025年3月に開館した「鳥取県立美術館」が斬新なアートの息吹をもたらした。世界的芸術家、アンディ・ウォーホルの作品の購入がアート界を賑わせた県立美術館のブランディング・ワードは“OPENNESS!”。
館内中央、3階まで吹き抜けの「ひろま」は心地よい開放感にあふれ、屋外スペースの「えんがわ」は、国史跡「大御堂廃寺跡歴史公園」とシームレスにつながり、展望テラスから大山の雄姿も望める。多くのゾーンが自由に出入りできるフリースペースとして開放され、「誰もに開かれた美術館」として市民とアートをつなぐ憩いの場だ。

また、倉吉をめぐる上で外せないのが、市のシンボル・打吹山の北側に位置する、玉川沿いの歴史地区。「倉吉絣」の生産地として栄えたかつての城下町は、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、漆喰仕上げの白壁と赤い石州瓦の白壁土蔵群が趣深い景観を生み出し、江戸・明治期に建てられた蔵や商家の建物がいまも多く残る。歩いているだけで心が和む風情豊かな街には、古くより根づいた個人商店だけでなく、移住者が新たな彩りをもたらしている。

吹きガラスと音楽のショップ「saon」を営む神戸出身の吹きガラス作家・大家具子さんもその一人。
「地元産のうつわで、地域の食材を使った料理を食べたりと、倉吉は暮らしの中にアートが息づいています。ゆったりめぐればその独特の風土が感じられますよ」
伝統の民藝と新鋭のアートが融合した鳥取の美意識にフォーカスする旅は、心に響く潤いをもたらしてくれる。
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アートを愉しむ
おすすめスポット3選
〈鳥取県立美術館〉
地域に開かれた県立美術館が誕生!

「鳥取県立博物館」の美術部門が独立するかたちで設立。画家・前田寛治や写真家・植田正治といった鳥取にゆかりのある作家を中心に約1万点の優れた美術作品を収蔵。展示だけでなく1階にショップやカフェ、キッズスペースも併設し、交流しながら毎日アートを気軽に楽しめるのが魅力だ。

鳥取県立美術館
住所|鳥取県倉吉市駄経寺町2-3-12
Tel|0858-24-5442
開館時間|9:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜
料金|入館無料、企画・コレクション展は有料(展覧会によって異なる)
アクセス|車/米子自動車道湯原ICから約50分、中国自動車道院庄ICから約60分 電車/JR倉吉駅からタクシーで約9分、バスで県立美術館前下車すぐ
https://tottori-moa.jp
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〈saon〉
倉吉の空気を作品に昇華する、吹きガラスと音楽の店

宙吹きガラス工芸作家の大家具子さん、ミュージシャンの中村好伸さん夫妻が白壁土蔵群の一画で営むガラスと音楽の店。かつて銀行と宿舎だった古い土蔵をDIYで改装した空間には心地よい音楽が流れ、大家さんの作品や作家仲間の作品、セレクトされた洋服などが並ぶ。


saon
住所|鳥取県倉吉市魚町2521
Tel|0858-38-9023
営業時間|11:00~18:00
定休日|月・火曜
アクセス|車/米子自動車道湯原ICから約45分、中国自動車道院庄ICから約1時間5分 電車/JR倉吉駅からタクシーで約15分、バスで市役所・打吹公園入口で下車、徒歩約3分
http://saon.jp
〈割烹 喜太亭 万よし〉
版画家・棟方志功ゆかりの料亭で松葉がにを堪能

白壁土蔵群から徒歩5分の場所に位置する老舗日本料理店。かつて世界に名を馳せた版画家・棟方志功や長谷川富三郎など、芸術家のサロンとして愛された。二人の作品をはじめとした多くの美術品が展示されている空間では、鳥取和牛や地元野菜、日本海の海の幸をふんだんに使用した美食が味わえる。
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割烹 喜太亭 万よし
住所|鳥取県倉吉市仲ノ町766
Tel|0858-22-2778
営業時間|11:30~14:00、17:30~21:00
定休日|月曜(祝日の場合は翌日休) ※夕食は予約制
アクセス|車/米子自動車道湯原ICから約40分、中国自動車道院庄ICから約1時間5分 電車/JR倉吉駅からタクシーで約10分、バスで瀬崎町で下車、徒歩約2分
http://kitatei-manyoshi.com
text: Ryosuke Fujitani photo: Atsushi Yamahira
2025年10月号「行きたいまち、住みたいまち。/九州」


































