民藝の精神が息づく
鳥取の街をめぐる旅|前編
鳥取砂丘の雄大な自然が広がる鳥取県は、昭和のはじめに民藝プロデューサー・吉田璋也が興した新作民藝運動の聖地のひとつ。民藝の精神が息づく鳥取の街をめぐろう。
鳥取を民藝天国にした立役者
吉田璋也
明治31年、鳥取市生まれ。新潟医学専門学校(現:新潟大 学医学部)卒業。昭和6年に故郷に戻り、耳鼻咽喉科医院を開業するかたわら、新作民藝運動を開始。民藝のプロデューサーとして多岐にわたる工人を指導し、鳥取の民藝の礎を築いた。昭和47年逝去
たゆたうと青く澄み渡る日本海、その波間から吹き寄せる風が偶然の造形美を生み出す砂丘の神秘的な景色。日本三大砂丘のひとつ、鳥取砂丘をはじめ、夜には「星取県」と名乗るように星に手が届きそうな夜空を観察できるなど、鳥取には人々の心を惹き付ける美しい風景が広がっている。また、自然豊かな土地として知られる一方で、鳥取の街に色濃く息づくのが〝民藝の精神〞だ。
県内では陶芸、木工、染織、和紙な どのものづくりが盛んに行われ、中でも〝用の美〞を伝える窯元が多く存在している。鳥取では、そ んなつくり手の工房を訪ねながら民藝に触れる旅を楽しみたい。日々の暮らしにすっと馴染む、堅牢な美しさをたたえる工芸品との出合いを通し、鳥取という街の新たな魅力を発見できるだろう。
まずは鳥取の民藝を知る上で、キーワードとなるのが「新作民藝」。そして、キーパーソンとなるのが「吉田璋也」だ。吉田璋也は無名の職人の手から生まれた日用品の中に美を見出し、民藝運動を提唱した柳宗悦の思想に共感と影響を受け、昭和初期から医師として耳鼻咽喉科医院を営みながら、鳥取の民藝の発展に大きく貢献してきた。
その活動の中心となったのが新作民藝運動。県内に伝わる手仕事を掘り起こし、民藝のプロデューサーとして職人の指導とデザインを自ら行い、現代の暮らしに合う新作民藝と呼ばれる新しい工芸品を次々と生み出していった。
民藝といえばおおらかで素朴な表情の品々を思い浮かべるが、彼の指導によって生まれた工芸品はどこかモダン。たとえば、青と黒の染分皿からは、クリエイティブ なセンスの高さと美意識がうかがえる。吉田璋也の新作民藝に寄せた情熱は、彼の薫陶を受けた職人たちから次世代の職人へと継承されている。
県内の窯元では、伝統の技術を守りながら独自のスタイルを伝える魅力あふれるうつわが製作されているので、心に響く一枚を旅の思い出に手に入れたい。吉田璋也の足跡をたどると、新作民藝の聖地という鳥取の街の横顔が見えてくる。新しくて美しい、民藝の世界に浸りに行こう。
鳥取民藝の美意識が詰まった品々
鳥取民藝 ホッピング!
新作民藝運動にゆかりのある窯元やショップ、食事処など、鳥取に息づく民藝の心を五感を通して感じられるスポットを紹介。
【見る】
創作の源に5000点を収集した「参考館」も見どころ
「クラフト館 岩井窯」
山本教行さんが16歳のときに出会った吉田璋也の新作民藝運動に影響を受け、1971年に築窯。象嵌技法の結び模様や掻き落としの牡丹柄など、個性豊かなうつわを製作。参考資料の工芸品を展示する参考館、喫茶室、食事処を併設。
クラフト館 岩井窯
住所|鳥取県岩美郡岩美町宇治134-1
Tel|0857-73-0339
営業時間|10:00〜16:00
定休日|毎週月・火曜(祝日は開館)
http://www.iwaigama.com/
地元の陶土にこだわり無駄のない造形美を追求
「延興寺窯」
河井寛次郎の弟子の、丹波(現丹波篠山市 今田町釜屋)の陶芸家の下で修業した山下 清志さんの窯元。地元の陶土、黒石などの釉薬原料を使い、親娘でうつわを製作。
延興寺窯
住所|鳥取県岩美郡岩美町延興寺525-4
Tel|0857-73-1219
営業時間|9:00〜18:00 ※訪問時は要連絡
染分皿は予約待ち!民藝ブームの火つけ役
「因州・中井窯」
牛ノ戸焼窯元とともに吉田璋也の指導の下で新作民藝に取り組んできた窯元。白黒緑の染分皿、工業デザイナー・柳宗理とのコラボーレション作品のうつわが人気。
因州・中井窯
住所|鳥取県鳥取市河原町中井243-5
Tel|0858-85-0239
営業時間|9:00〜17:00
定休日|不定休 ※訪問時は要連絡
https://www.nakaigama.jp/
バーナード・リーチや吉田璋也とゆかりの深い窯元
「牛ノ戸焼窯元」
吉田璋也の指導と4代目の尽力によって復 活を遂げた牛ノ戸焼の窯元。地元の陶土で 粘土づくりから行い、バーナード・リーチ直伝のコーヒーカップなども製作。
牛ノ戸焼窯元
住所|鳥取県鳥取市河原町牛戸 185
Tel|0858-85-0655 ※訪問時は要連絡
text: Mimi Murota photo: Makoto Ito
2019年10月号 特集「京都令和の古都を上ル下ル」