鳥取の美意識が育んだ、
民藝とアート。
|脈々と受け継がれる民藝の神髄に触れる
鳥取砂丘に代表される雄大な自然、豊饒な海と大地が育む食文化が息づいた鳥取県。新作民藝運動が興った鳥取市を中心とした東部、歴史的な街に新鋭のアートが芽吹きはじめた中部の“美意識”を体感する旅へ――。今回は、鳥取の暮らしに息づく民藝文化についてご紹介。
line
鳥取の“美意識”を求めて
中国地方の北東部に位置する鳥取県。日本最大級の砂丘である鳥取砂丘をはじめ、変化に富んだ美しい日本海の海岸線、中国地方最高峰の大山といったダイナミックな景観は訪れる旅人を瞬く間に魅了する。また、日本一のカニの水揚げ量を誇り、美食家を虜にする“カニの王さま”「松葉がに」に代表される海の幸や「二十世紀梨」などの山の幸、多様な10の温泉地も名高い。

多彩な魅力の宝庫であるこの地には、「牛ノ戸焼」などの陶磁器で知られる民藝の精神が息づく。そして2025年に開館した「鳥取県立美術館」など、新しいアートの風も吹き込んでいる。鳥取の“美意識”を求めて、県東部と倉吉市周辺をめぐる旅に出よう。
鳥取で受け継がれる民藝とは?
鳥取で受け継がれる「民藝」とは民衆的工芸の略で、美術評論家・柳宗悦らが提唱した生活文化運動のこと。華美な装飾を施した工芸ではなく、名もなき職人が手仕事でつくる実用品に着目し、暮らしの中で輝く機能的な「用の美」を見出した。

吉田璋也(よしだ しょうや)
民藝活動家で医師。工人集団「鳥取民藝協団」を組織し、「たくみ工芸店」、生活的美術館として「たくみ割烹店」などを設立し、「民藝のプロデューサー」を自認した
その理念に共感し、鳥取の地で民藝の美を現代生活に取り入れる新作民藝運動を興したのが吉田璋也だ。生活雑貨を製作していた牛ノ戸焼などで自らデザインしながら指導し、陶芸のみならず木工、金工、竹工、染織など多岐にわたる職人を育て、この地の材料で民藝の美を宿した新しい工芸品を次々と生み出した。
line
民藝の神髄に触れる

新作民藝の拠点となったのが「鳥取民藝美術館」だ。常務理事の木谷清人さんはこう話す。
「吉田先生は企画・デザイン、生産だけでなく、市民や職人に“美の標準”を示すために鳥取民藝美術館を創設。さらに流通、販売、消費に至る体制を確立し、その先進的な活動は全国に波及しました」
重厚な建築に、細部にまで民藝の美意識が貫かれた空間では、貴重な古民藝から新作民藝まで多岐にわたる工芸品が展示されている。

美術館で民藝を学んだ後は、隣接する「鳥取たくみ工芸店」へ。吉田璋也が民藝の販売の場として設立した日本初の民藝専門店では、牛ノ戸焼や「山根窯」、「延興寺窯」といった鳥取の窯元の陶器を中心に染織など多種多彩な民藝品を販売。双方を訪れ、鳥取で紡がれる美を深く知り、触れる体験は新たな感性の扉を開いてくれる。

そこから東へと足を運び、山陰最古の湯と伝わる岩井温泉の「岩井屋」へ。江戸時代にルーツをもつ名宿は、手すきの因州和紙や型絵染、各部屋に配された陶器の湯茶道具、木工の調度品など民藝に包まれた温かみあふれる空間が魅力だ。さらに、自然湧出の100%天然かけ流し温泉の癒し、冬期には老舗網元から仕入れる松葉がにだけにこだわった極上の会席まで、風土が育んだ魅力を体感する滞在は、心に豊かさをもたらしてくれる。
〈鳥取民藝美術館〉
暮らしの中に息づく民藝文化を知る

1949年、吉田璋也が民藝の美の普及と創造の指針を示す場として創設。鳥取や国内の古民藝をはじめ、中国や朝鮮の陶磁器類、吉田璋也がプロデュースした新作民藝など、収蔵品は5000点以上に及ぶ。職人の手仕事による実用性と美しさの調和を体感し、民藝を深く理解する上でまず訪れたい。

鳥取民藝美術館
住所|鳥取県鳥取市栄町651
Tel|0857-21-3504
開館時間|10:00~17:00
休館日|水曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般500円、学生300円、高校生以下無料
アクセス|電車/JR鳥取駅から徒歩約3分
www.tottori-mingei.jp
line
〈鳥取たくみ工芸店〉
国内現存最古の専門店へ

「鳥取民藝美術館」に隣接し、新作民藝の販売と職人技術の継承の場として設立。鳥取の風土を反映し、新作民藝の流れをくむ“鳥取民藝のいま”を表現した工芸品が揃う。地元窯元の陶器を中心に島根の「出西窯」、大阪の「中ノ畑窯」など全国の手仕事にも触れられる。2階では展示会やオーダー会を開催。
鳥取たくみ工芸店
Tel|0857-26-2367
営業時間|10:00~18:00
定休日|水曜

(右)地元の素材にこだわる岩美町「延興寺窯」のピッチャーは、もみ殻からつくる釉薬をまとった素朴な美が魅力。9350円

(右)倉吉市で明治時代から続く「国造焼」。釉薬を大胆にかき取り、星座を連想させる文様を描いた「線文」シリーズが名高い。4400円
〈岩井屋〉
民藝の精神が宿る、世界にも評価される温泉旅館

859年に開湯された平安時代の「八古湯」のひとつと伝わる秘湯、岩井温泉の名宿。木造3階建ての建物の中は全館畳敷きで、ロビーやフロント、客室に至るまで民藝の美に包まれた空間が魅力。心身を整える名湯と山陰の四季の恵みを凝縮した料理は、忙しい日々を忘れさせてくれる。
line

岩井屋
住所|鳥取県岩美郡岩美町岩井544
Tel|0857-72-1525
客室数|13室 料金|1泊1室2食付2万5300円~(税・サ込)
カード|AMEX、DINERS、JCB、Master、VISAほか
IN|15:00
OUT|10:00
夕・朝食|和食(食事処)
アクセス|車/鳥取自動車道鳥取ICから約30分 電車/JR岩美駅からタクシーで約7分
施設|ラウンジ、ギャラリー
https://iwaiya.jp
新鋭のアートが芽吹く!
≫次の記事を読む
text: Ryosuke Fujitani photo: Atsushi Yamahira
2025年10月号「行きたいまち、住みたいまち。/九州」


































