福岡・糸島市《前田和子・大串幸男(白糸の森)》
里山の風景を守る体験型観光農園のまちづくり
|九州観光まちづくりAWARD2025 大賞
今回で4回目の開催となった、JR九州が手掛ける「九州観光まちづくりAWARD」が2025年も始動。宿・食・ものづくり・にぎわいづくりなど、旅心をくすぐる、魅力的な取り組みとの出会い。今回、九州観光まちづくりAWARD2025の大賞を受賞したのは、福岡・糸島で「白糸の森」を営む、前田和子さん・大串幸男さん夫婦。自然と調和しながら賑わいを生む、夫婦の情熱あふれる取り組みを追った。
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第2の人生に山を切り開き
人を集める場に

福岡・糸島市の山深くにある、「プランニングマエダ」が手掛ける体験型観光農園「白糸の森」。広大な敷地に、畑やうどん店、スイーツショップが並び、森の奥には、ツリーハウスの野外カフェがある。木々がざわめき、鳥の声がこだまする、緑豊かな癒しスポットだ。
「実はここ、病んでいる森なんです」と語るのは大串幸男さん。一級建築士の大串さんと、飲食店を営んでいた前田和子さん夫婦が、第2の人生に人が集う場所をつくりたいと山を買ったことから森を再生する活動がはじまった。
「はじめて森に入ったとき、40本近く木々が倒れていたことに驚きました」と言う前田さん。放置された人工林は、人の手が入らず間伐されないので、木々が根を張るスペースがなく倒れてしまうのだという。

二人は森の現状を知ってもらおうと、あえて倒木も残してカフェをオープン。「森を愛でながらコーヒーを一杯飲んでいただき、その売上でオイルを買ってチェーンソーで間伐し、森林環境を守っています」と大串さんは話す。
木々の間に設置されたツリーハウスは釘を使わず、間伐材を重ねて製作。木の成長に合わせて、デッキを移動できる仕組みになっている。「私たちは経済中心で森を荒らしてしまっていた。だからこそ、今度は私たちが森に合わせて動けるようにできたら」という二人の想いが込められている。
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1万坪の開墾からはじまった
循環農園の広がり。

もうひとつの柱は農業だ。休耕作地を耕して、化学肥料や農薬を使わずに米・麦・大豆・野菜を育てている。収穫したものはうどん店やスイーツショップで提供。

娘夫婦と孫が手掛ける白糸うどんやすじでは、本格的な手打ちうどんを楽しめる。ニンジンや大根など自社農園で育てた7種の野菜天がのる「やすじぶっかけうどん」は、濃厚な甘さの野菜にびっくり。


スイーツショップ「緑の詩~みどりのおと~」では、山で採れたレモンやフルーツをどう生かすか、スタッフが試行錯誤しながらつくるケーキやキッシュが人気
さらに、年10回開催するキッズファームでは、稲を植え、収穫し、餅をつき、しめ縄づくりまで学べるほか、一年を通して自然に触れられる体験も用意する。
「この森で皆さんが楽しむ姿を見ると、涙が出そうになるほどうれしいです。自然の素晴らしさ、楽しさを満喫できる場所を守り続けるために、スーパースター(後継者)も育てていきたいですね」と二人は語る。

キッズファームでは、ピーナッツや大豆の種まき、味噌づくりなど季節に合わせた体験を用意。「子どもたちには土の匂いや風を感じる体験を通して、生き方を伝えていきたいです」と前田さん
2018年の開業以来、1日最大800人、年間10万人が訪れる白糸の森。シーサイドリゾートで知られる糸島の山側に新しい魅力を生み出している。
「日本の人工林は大きな問題を抱えていますが、こんなにポジティブかつクリエイティブに間伐に向き合っている方がいらっしゃるなんてとても驚きました」と立川裕大さん。建築家・永山祐子さんも、「いままで誰も来なかった場所を家族で切り開いて、手づくりでやっていることに元気をもらえます」とこの活動をたたえた。
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糸島の空と緑を満喫できるテラスは、まるで空中庭園のよう。審査員も、大自然に抱かれ気持ちいい空気が流れる白糸の森でリラックス
柳川藩主立花邸 御花
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白糸の森(白糸うどんやすじ)
住所|福岡県糸島市白糸561
Tel|092-324-3883
営業時間|11:00~15:00
定休日|月曜、ほか不定休あり
https://shiraitonomori.com
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2|福岡・糸島市「前田和子・大串幸男(白糸の森)」
3|福岡・柳川市「柳川藩主立花邸 御花」
4|大分・宇佐市「神谷禎恵」
5|熊本・南関町「ヤマチク」
6|長崎・諫早市「陣野真理」
7|特別賞–NEXT CREATE–を受賞した皆さま①
8|特別賞–NEXT CREATE–を受賞した皆さま②
9|「九州観光まちづくりAWARD2025」を振り返ろう
text: Nozomi Kage photo: Hiromasa Otsuka
2025年10月号「行きたいまち、住みたいまち。/九州」



































