《Mt.T by 星野リゾート》
首都圏から気軽に行けるスキー旅
前編|新ルートで尾瀬の核心部へ
本州最大級の湿原をもち、山々に囲まれた尾瀬国立公園。東京駅から約2時間と好アクセスで、極上の雪が降る谷川岳。星野リゾート代表・星野佳路さんが誘う、日本の冬を楽しむスキー旅とは?
首都圏から気軽に行ける
パウダースノー天国
スキーをこよなく愛する星野リゾート代表・星野佳路さんが案内するのは、群馬県にある谷川岳と尾瀬。スキーというより登山では?と思う方もいるだろうが、実はどちらもジャパン・スノーを関東圏で楽しめる場所なのだという。
「近くてよい山」とうたわれる谷川岳は、東京から約2時間。上越国境に位置するため、豊富で良質な雪がもたらされる。
一方の尾瀬は、尾瀬ヶ原のような高層湿原がイメージされるが、至仏山などバックカントリースキーの聖地でもある。
そんな2カ所を組み合わせるとは、さすが旅の達人。星野さんとの魅力的なスキー旅に、これまた熱狂的なスキー好きである小誌統括編集長・高橋俊宏が同行する。
冬が来る。寒さが厳しく、地域によっては雪も降るが、そんな冬が好きという人も意外と多い。実際、冬ならではの楽しみというのもたくさんある。そのひとつがスキーやスノーボード。日本の冬、特に“雪”を体感するには格好のアクティビティだ。
「パウダースノー」は、いまや世界に誇るジャパニーズブランド。食事や地酒、温泉とともに日本の雪を堪能する旅のスタイルは、もはや日本人だけでなく、海外からの観光客にも定着している。
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復活した古道をたどり
雪上車で尾瀬の秘境へ
「尾瀬でキャットツアーがはじまったと聞き、どうしても行きたくなって。つい高橋さんに声を掛けてしまいましたよ」そう言って、笑顔で我々を迎えてくれた星野さん。星野さんと高橋のスキー旅は回を重ね、毎年の恒例行事となっている。
尾瀬戸倉スキー場でキャットに乗り込み、林道をガタゴト揺られながら上っていく。
「ここは、尾瀬の鳩待峠に車道が通る前、最も使われていた道なんですよ」と話すのはガイドの沼野健補さん。沼野さんは仲間とともに荒廃した登山道を整備し、2022年にキャット(雪上車)を使ったスキーツアーを開始した。
「尾瀬には湿原以外にも魅力的な場所がたくさんある」と沼野さんは言う。「今後は山小屋も整備して、もっと尾瀬を楽しんでいただけるようにしたいですね」。
富士見峠に到着し、キャットから降りる。ここからは徒歩だ。スキーにシール(滑り止め)を装着し、いざ出発!
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大自然に抱かれて滑る
プレミアムな大人のスキー
雪を被った針葉樹の森は、まるで童話の世界のように美しい。静寂に包まれた森の中を、雪を踏み締めながら歩いていく。
30分ほど登ると尾根の上に出た。風が吹いてできた雪庇が、尾根から大きくせり出して大迫力だ。眼下にはスキーに適した開けた斜面。ガイドの沼野さんに続き、皆次々に滑り込んだ。
フワッと浮くような感覚に、気分が一気に高揚する。少し重いが滑りやすい春雪。自然の雪と全力で戯れるこの瞬間は何物にも代え難い。興奮と幸福に身を任せ、夢中で滑走を楽しんだ。
キャットまで滑り降りたら、ランチタイム。沼野さんたちが焼いてくれたホットサンドとコーヒーが身体に染み渡る。屋外で食べる食事は、どうしてこんなに美味しいのだろう。
「もうひと滑りしましょう」と沼野さん。歩く距離が短いので、何度も登り返して滑走できる。バックカントリーを手軽に楽しめる、いいフィールドだ。
尾根まで登ったら今度はアヤメ平まで足を延ばす。樹林帯を抜けた瞬間、息をのんだ。
目の前に広がるのは延々と続く山並みの大パノラマ。メンバーからも歓声が上がる。「山が幾重にも重なる、この尾瀬の景観は素晴らしいですよね」と、星野さんも遠くへ目を向けた。
ありのままの自然を感じ、一本の滑りをじっくりと味わう。ゲレンデでは決してできないプレミアムな体験。これぞまさに大人のスキー旅である。
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《Mt.T by 星野リゾート》
春の谷川岳で極上スノー体験
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星野リゾート代表・星野佳路
長野県生まれ。1991年から星野リゾート代表。「星のや」、「リゾナーレ」をはじめ、温泉旅館「界」、都市観光ホテル「OMO」、カジュアルホテル「BEB」などのブランドを展開。スキー場の運営も手掛ける。無類のスキー好きで、年間80日以上の滑走が目標
ガイド・沼野健補
HIGH FIVE MOUNTAIN WORKS代表。尾瀬を拠点にスノーボーダーとして活動するほか、アウトドアガイドツアーを実施し、尾瀬の魅力を広める。また尾瀬の山小屋や登山道の整備事業なども行っている。一般社団法人尾瀬アウトドアスポーツ振興会理事
Discover Japan統括編集長・高橋俊宏
小誌『Discover Japan』の統括編集長。建築やインテリア、デザインなど幅広い分野の出版物を手掛けた後、2008年に小誌創刊。小学生からスキーに親しみ、モーグル黎明期に愛好。以降はバックカントリーにも出掛け、雪山で味わうパウダースノーに夢中
text: Ayako Yokoo photo: Wataru Sugimura
2024年12月号「米と魚」