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《発酵文化芸術祭 金沢》開催中!
仕掛け人が語る唯一無二の魅力とは?
|アートでめぐる、石川・金沢の発酵文化

2024.10.7
《発酵文化芸術祭 金沢》開催中!<br>仕掛け人が語る唯一無二の魅力とは?<br><small>|アートでめぐる、石川・金沢の発酵文化</small>

独自の発酵食文化が育まれる石川県で、9月21日(土)より「発酵文化芸術祭 金沢」が開催されている。
 
その魅力を探るべく総合プロデューサーを務める発酵デザイナーの小倉ヒラクさん、キュレーションを担当する発酵メディア研究者のドミニク・チェンさんの元へうかがった。

総合プロデューサー 小倉ヒラクさん(写真左)
発酵デザイナー。「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指す。2020年には、発酵食品専門店「発酵デパートメント」を東京・下北沢にオープン。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)など
 
共同キュレーター ドミニク・チェンさん(右)
早稲田大学文化構想学部教授。人と微生物が会話するぬか床発酵ロボット「Nukabot」の開発など、テクノロジー、人間、自然の関係性を研究中。著書に『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために―』(新潮社)など

金沢の冬の味覚・かぶら寿し

石川県には醤油や味噌、酢などの醸造蔵が点在しているほか、「かぶら寿し」や「ふぐの子」といった糀を使った伝統的な発酵食なども多く、住民にとって発酵文化が身近な街。そんな石川県で2024年9月21日(土)より、“発酵”と“アート”が融合した芸術祭「発酵文化芸術祭 金沢―みえないものを感じる旅へ」が開催されている。舞台となるのは、世界的建築ユニット・SANAAが手掛けた「金沢21世紀美術館」と、金沢市を中心とする5つのエリアにある醸造蔵など。地域の発酵食文化を支えてきた老舗蔵がインスタレーション会場となり、蔵内にアート作品が展示される。

東山地区の風情ある住宅街に調和する「みそ」の看板

総合プロデューサーを務めるのは、発酵デザイナー・小倉ヒラクさん。「金沢の食文化を支えてきた醸造蔵とアーティストが共同でひとつの作品を制作し、それを蔵に展示します。訪れた人には、“発酵的アート”を楽しんでもらいながら金沢の醸造蔵をめぐり、文化を肌で感じていただきたいです」
 
金沢21世紀美術館のプロジェクト工房には金沢の発酵文化を紹介するパネルや写真を設置。街歩きの情報を手に入れる場としても機能する。美術館を拠点に蔵のホッピングを楽しめる仕掛けだ。
 
微生物の力で醸造される“発酵食”と“アート”。このふたつが醸造蔵で出合うとき、どのような反応が生まれるのだろうか。

100年余り使われてきた杉桶

参加アーティストは地域に息づく発酵食をテーマに作品を制作していく。発酵をテーマに活動している作家に限らず、食文化や人間の五感を追求するアーティスト、さらにはミュージシャンなど活動の幅はさまざまだ。キュレーションを担当したのは発酵メディア研究者のドミニク・チェンさん。
 
「長い時間をかけて自身の作品を育てている作家や、たとえば自然など人間以外の力を借りて作品をつくっている方々にお声を掛けさせていただきました」
 
アーティストたちが醸造蔵と共同で作品をつくるにあたり、ドミニクさんが注目したのは糀を扱う蔵元の「謙虚さ」だった。「醸造蔵の方たちは、微生物に『つくってもらっている』という意識をもつ人が多いんです」
 
「アーティストも蔵元の姿勢に感化され、自己表現が前のめりに出ていない作品ができてきています。土地や蔵の特色、記憶、微生物の生態系に基づいた、これまでの芸術祭とは少し異なる、サイトスペシフィックな作品を見ていただきたいです」と小倉さん。
 
醸造蔵は、微生物とともに職人たちが活動する場。そこに10組の表現者が加わり、3者による化学反応から生まれる作品は、同じものは二度とつくれない発酵食品のようで、まさに“発酵的アート”といえよう。目に見えないものを五感で体験する唯一無二の芸術祭。微生物が生み出す発酵文化をぜひその目で見てほしい。

「金沢21世紀美術館」と芸術祭の仕掛け人たち

「芸術祭の一番の特色は、“食べること”に主軸が置かれていること。旅の醍醐味である“食”を楽しみながら、“その場所で”生まれたアートを見る。食べることと見ることが一体になる体験をしてもらえたらと思います。各蔵をじっくり回るためにも、1泊2日や長期滞在で遊びに来ていただけたらうれしいです」とお二人。

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金沢21世紀美術館と、県内5つのエリアが舞台

大野地区
金沢市北西部に位置する港町で、藩政期には北前船の寄港地として栄えた。歴史ある3つの醤油蔵や味噌蔵が会場となる

東山地区
石川を流れる浅野川の右岸に広がる地域。茶屋様式の町家が連なる風情ある街並みが残り、金沢市唯一の糀専門店が会場に

石引地区
金沢城や兼六園に近い歴史的なエリア。近隣に大学があることから若者も多い。空き家を改装した施設で展示が行われる

野町・弥生地区
金沢中心部の南に位置する地域で、伝統的な街並みを残す旧街道筋がある。2カ所の老舗商店で展示を開催

鶴来地区
白山から日本海へ流れる手取川近くの地域で、山と街の交易地として栄えた。伏流水が豊かなことから醸造業も盛ん

金沢21世紀美術館
発酵とアートを結ぶ拠点となり、石川の発酵文化を紹介するパネル展示を開催。街歩きの情報を手に入れられる

夕暮れの大野川沿いに建つ「ヤマト醤油味噌」
昔ながらの製法を受け継ぐ「髙木糀商店」の商品

インスタレーション会場×参加アーティスト一覧

大野地区
ヤマト醤油味噌×Ferment Media Research
直源醤油×secca
紺市醤油×三原聡一郎

東山地区
髙木糀商店×遠藤 薫

石引地区
じょーの箱×VIDEOTAPEMUSIC

野町・弥生地区
四十萬谷本舗、中初商店、元印刷所×関口涼子

鶴来地区
額三(掲示板)×津田道子/and run実行委員会
野町駅、旧加賀一ノ宮駅×with Rhythms
野町駅ホーム、鶴来駅廃線跡×深田拓哉
萬歳楽 本店×沖田愛有美

 

“発酵的アート”を
五感で愉しむ蔵めぐり

 
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text: Discover Japan photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2024年10月号「自然とアートの旅」

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