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福井に魅了される複合施設《ESHIKOTO》
黒龍酒造が目指す未来の観光【中編】

2023.4.25
福井に魅了される複合施設《ESHIKOTO》<br><small>黒龍酒造が目指す未来の観光【中編】</small>

福井の銘酒「黒龍」の酒造り、そして福井の伝統工芸にも深くかかわる九頭竜川。その雄大な景色を眺める酒蔵観光施設「ESHIKOTO」が創造するのは、日本酒を通して人と文化をつなげる酒蔵ツーリズムの未来図だった。

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福井の自然の恵みと銘酒に出合う場所
《酒樂棟》

テイスティングバーでは1800円で3種の試飲が可能。時期によって内容・価格が変わるが、ESHIKOTOブランドの限定酒のほか、黒龍の日本酒も楽しめる

九頭竜川を借景に黒龍の伝統と進化を味わう

九頭竜川と美濃越前山地を一望できるパノラマの景色を眺めながら、黒龍酒造の酒と北陸の食を楽しめるのが「酒樂棟」だ。春は川沿いに桜が咲き、夏は新緑の中で鮎を追う釣り人たちの姿。秋は黄金色の稲穂が風に揺られ、冬は一帯が雪に覆われ空は鉛色に。ここから眺める景色に内在するものが、ESHIKOTOの核になっている。酒樂棟には酒販店「石田屋 ESHIKOTO店」とレストランのアペロ&パティスリー「acoya」が並ぶ。まずは「石田屋 ESHIKOTO店」から案内しよう。
 
扉を開けて目に入るのが、北陸の伝統的工芸品の数々がディスプレイされた立派な越前箪笥。空間を取り囲む壁には越前和紙が用いられ、床に目を向ければ福井でのみ採掘される稀少な笏谷石がレイアウトされている。そして中へと歩みを進めると、左官職人の研ぎ出し技術で仕上げられたバーカウンターがある。このテイスティングバーで味わえるのが、黒龍酒造が醸す、一般流通していないESHIKOTOブランドの限定酒。そのひとつが、ESHIKOTOの施設内にあるセラーや貯蔵庫で二次発酵して造られる泡酒「ESHIKOTO AWA」である。発酵を止めることなく瓶内で二次発酵させることで、液中に天然のガスがたまり、それが極めて細かい泡となる。シャンパングラスに注がれた泡がゆっくりと立ち上る様子は、まるで昇龍のようだ。

小柳箪笥店による越前箪笥の上には、「竜仙窯」や「陶工房 Totan」など北陸の伝統工芸作家の作品が並ぶ。
漆黒の越前和紙をヘリンボーン貼りで装飾した壁も見どころのひとつ

ESHIKOTOブランドのひとつ「永」シリーズの中で、純米大吟醸の酒は生酛造りを参考に生まれたもの。“参考に”と書いたのは、江戸時代に確立した生酛造りをそのまま踏襲するのではなく、まったく新しい手法で醸しているから。道具や空調などの衛生環境、原料には現代の技術を注入しつつ、乳酸菌の繫殖は自然にゆだねるという手法だ。旧来の名称で括ることができない、黒龍酒造にとっても新たな挑戦となったのが、「永」シリーズの純米大吟醸クラスの酒である。
 
「時代とともに食の環境が変わっていく中で、お客さまに喜ばれる食中酒を造ることへの挑戦が、ESHIKOTOブランドの商品です。『ESHIKOTO AWA』と同じく『永』にも完成がありません。答えを定めず、導き出すこともしないESHIKOTOブランドならではの第一歩を、お楽しみいただければと思います」と水野直人代表は語る。
 
繰り返しになるが、ESHIKOTOブランドの酒は一般流通していない。福井に足を運び、この景色を肌で感じた人のみが、その思い出とともに持ち帰り、味わうことができる酒なのである。

<テイスティングもできる黒龍酒造の特別限定酒>

梅酒13°/3300円
福井の梅品種「新平太夫」を樹上完熟させた香り高き「黄金の梅」を使用。黒龍の粕取り焼酎に漬け込み、ESHIKOTOの施設内で熟成させている
ESHIKOTO 永 五百万石/3850円
福井の代表的な酒米・五百万石を使用した純米大吟醸。生酛酒母由来の酸を感じ、すっきりとした飲み口に。ほかにも福井の新品種・さかほまれで醸した酒がある

石田屋 ESHIKOTO店
住所|福井県吉田郡永平寺町下浄法寺12-17 酒樂棟 2F-A
Tel|0776-63-1030 
営業時間|10:00〜17:00 
定休日|水曜、第1・3・5火曜(ほか不定休あり) 
https://eshikoto.com/ishidaya

禅の考え方を大切にしたアペロ&パティスリー

酒樂棟にある「石田屋 ESHIKOTO店」でテイスティングする前後に立ち寄りたいのが、レストランのアペロ&パティスリー「acoya」だ。アペロではフランス料理店で経験を積んだシェフが福井の食材を使ったプレート膳を提供。パティスリーでは黒龍酒造の酒粕や福井の果物を使ったスイーツがいただける。
 
ここ福井県永平寺町は、禅の町。永平寺を大本山とする曹洞宗に根づく禅の教えでは、自然界の恵みやつくり手の労に対して礼を尽くすことを大切にしている。「小鉢には野菜の端材も使いますし、農家さんが大切に育てたけれど規格外で出荷できない野菜も積極的に使わせてもらっています」とシェフの竹内賢太郎さん。パティシエの岡田麻波さんも「福井の素朴な豊かさを味わっていただきたいと」と同じ価値観をもつ。ブランド食材にこだわるのではなく、地元の生産者が愛情を込めて育てた食材と向き合い、acoyaのメニューを通して禅の教えでもあるポジティブな循環を実践している。

acoyaの由来は平景清の愛人、阿古屋姫。絶世の美女にして戦姫であった二面性を、店内カラーで表現。越前和紙の特注色で、男性的な黒から女性的な白へと段階的に移行させている

また、acoyaで使用している食器類のほとんどが福井の伝統的工芸品だ。プレート膳に使われている膳を制作するのは、越前漆器の角物を手掛ける井上徳木工。箸は越前漆器の老舗・漆琳堂、茶椀や膳の漆塗装は丸廣意匠、メインプレートや小鉢は陶芸家・吉田信介さん、蓋付き茶椀や汁椀の木地はろくろ舎が製作している。工芸や技術の町として知られる福井の伝統を継承する職人たちへのリスペクトであり、訪れたお客へのメッセージでもある。
 
福井の伝統や文化、美しい景観には、多くの人の心が通っている。それは酒や食も同じ。ありがたくいただくことで心も身体も整う。これも禅の考え方だ。

Apéro acoya
アペロとは食前酒やアペリティフの略称。おつまみと一緒に軽く酒を飲むスタイルを指す。ランチの昼膳やアラカルトと一緒に、黒龍酒造の酒を楽しむことができる

黒龍吟醸豚のバラ肉のポトフ サワークリームとコルニッション 2800円
黒龍吟醸豚のバラ肉を塩漬けにしてポトフ仕立てに。ごろっと入った福井野菜の旨みも溶け出し、やさしくも満足な味わい。昼膳ではメインに加えてサラダ、スープ、小鉢、パンがセットに
ESHIKOTO 水仙 2800円(60cc)
プレミアム酒をグラス提供できるのも、acoyaならではの魅力。こうした黒龍のプレミアムシリーズを試飲してから、隣接する石田屋ESHIKOTO店で購入して帰る人も多いとか

Pâtisserie acoya
黒龍大吟醸の酒粕など副産物を原料としたパウンドケーキをはじめ、福井の果物を使ったパフェやスイーツを提供。オリジナルブレンドのコーヒー「Cozy coffee」も好評だ

大吟醸の酒粕と塩のケーキセット 1000円(写真は1カット380円)
黒龍大吟醸の酒粕と塩を使ったケーキ。低温でゆっくりと焼き上げることで、酒粕の香りを閉じ込めることに成功。ミルク感にもこだわったリッチな生地に笑みがこぼれる
acoya 大吟醸ソフトクリーム 600円
黒龍大吟醸の酒粕の華やかな香りが楽しめる、acoya限定のソフトクリーム。黒龍貴醸酒の上品な甘さが寄り添う

Apéro acoya シェフ 竹内賢太郎さん(写真右)
大阪、東京のフランス料理店を経て現職に。敦賀の出身で、実家は農業を営む。「栽培環境を熟知している実家の畑で育った野菜を使えるのは、とても幸せなこと」と竹内さん

Pâtisserie acoya パティシエ 岡田麻波さん(写真左)
地元・敦賀から神戸のパティスリーを経てacoyaのパティシエに。「若い世代の方が、地元・福井の食材を誇れるようなメニューを考えていきたいと思っています」と岡田さん

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Apéro & Pâtisserie acoya
住所|福井県吉田郡永平寺町下浄法寺12-17 酒樂棟 2F-B
Tel|0776-97-9396 
営業時間|11:30〜17:00、土・日曜、祝日8:00〜 
定休日|水曜、第1・3・5火曜
https://acoya-fukui.com

 

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text: Nobuhiko Mabuchi photo: Kenji Okazaki
Discover Japan 2023年4月号「すごいローカル見つけた!」

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