TRADITION

中村勘三郎が生涯をかけて挑んだ歌舞伎の神髄!
シネマ歌舞伎〈春興鏡獅子〉

2022.11.25
中村勘三郎が生涯をかけて挑んだ歌舞伎の神髄!<br>シネマ歌舞伎〈春興鏡獅子〉
©松竹

2012年に惜しまれながら逝去した歌舞伎俳優・中村勘三郎。没後10年となった今年、最後の「春興鏡獅子」となった名舞台がスクリーンで帰ってくる。歌舞伎ファンなら一度は見ておきたい傑作の古典歌舞伎。2022年12月2日(金)から8日(木)まで全国の月イチ歌舞伎上映館で上映予定の「春興鏡獅子」、観に行く前に、あらすじや見どころをおさえておこう。

可憐な女性に宿る勇壮な獅子の魂。
傑作の古典歌舞伎

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初春を迎えた正月六日の江戸城は大広間。お鏡曳きの余興にと、上様のご所望で女小姓(屋敷の奥向きの雑務をこなす使用人の女性)の弥生が舞を披露することとなった。秘蔵の獅子頭が祭壇に祀られ、家老らは今や遅しと、弥生を待ち構えている。
突然のお声がかりで姿を現した弥生は、恥ずかしさに一度は逃げ出すが、老女と局に引き戻され観念して舞を披露し始める。若い娘らしい手踊りに始まり、習い覚えた踊りを次々と披露していく。やがて祭壇の獅子頭を手にすると、どこからともなく蝶が飛んできた。獅子頭は蝶を追ってひとりでに動き出し、弥生は抵抗するも獅子頭の力に敵わず、引っ張られて姿を消す。
すると、獅子頭から弥生に乗り移った獅子の精が姿を現し、先ほどの弥生の姿からは想像もつかない、豪快な獅子の狂いを見せはじめるのだった…。

名優・中村勘三郎の魅力

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中村勘三郎は1955年、東京生まれ。天才子役として幼少時より注目を集め、華のある存在感と、明るく奔放な人柄で多くの人に愛された。江戸時代の観劇スタイルを取り入れた仮設の芝居小屋・平成中村座や、歌舞伎とは長く縁遠かった渋谷の街でコクーン歌舞伎を立ち上げ、現代演劇の演出家とのコラボレーションにも積極的に取り組み、数々の斬新な舞台を作り上げて歌舞伎界に新たな風を吹き込んだ。

一方で、何よりも重んじたのは古典演目。「型があるから型破り 型が無ければ型なし」という言葉を好んで語ったように、先人たちから長年受け継がれてきた演目の上演と継承を何よりも尊重した。特に「春興鏡獅子」は、敬愛する祖父・六世 尾上菊五郎から父・十七世 中村勘三郎に受け継がれた芸として思い入れが深く、生涯大切に演じた。
今回シネマ歌舞伎として上映される映像は、自身にとって最後の「春興鏡獅子」となった、平成二十一年一月「歌舞伎座さよなら公演」を収録。円熟した、まさに”心・技・体”の揃った名舞台だ。
57歳の若さでこの世を去った名優を惜しみながら、必見の舞台を映画館の大スクリーンで臨場感たっぷりに堪能しよう。

「舞踊」の見どころ

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歌舞伎にはストーリー性もありながら様式美を心行くまで堪能できる歌舞伎舞踊の名作が多数ある。その中でも「春興鏡獅子」は、対照的な舞踊を一度に楽しめる演目だ。注目すべきポイントを抑えて心のままに楽しもう。
先述の通り、この演目の最大の魅力は優美な女方の所作と勇壮な獅子の舞いの違いを堪能できることにある。冒頭、本来は人前に立つ機会のない女性が、踊りを披露することに恥じらいを見せる微笑ましい場面からはじまり、指先まで神経の通った優美な動きでさまざまな踊りを披露する。獅子の精が舞う後半は、花道を堂々と登場し、舞台中央で大きく見得をし、長い毛を豪快に振って勇ましい姿を見せる。同じ俳優が、対照的な二役を鮮やかに演じ分ける。正反対の踊りの間に登場する胡蝶の精たちの可愛らしくも巧みな踊りも、別の趣があり人気の一因だ。

また、歌舞伎の音楽にはさまざまな種類があるが、この演目の音楽は「長唄」。舞踊ととくに相性がいい音楽だ。物語のナレーションも兼ねているため台詞まじりの迫力ある節回しが多い「竹本」や「清元」などとはまた別の魅力があり、音色もしっとりと涼やか。三味線と共に鼓や笛も一緒に演奏され、華やかな音色だ。舞踊の振りと歌詞が連動している部分を発見できるとさらに楽しい。最初は聞き取るのが少し難しいと感じる場合もあるので、同時音声解説のイヤホンガイドアプリを頼るのも一案。
歌舞伎舞踊の魅力を知ることは、歌舞伎“沼”への第一歩だ。歌舞伎を知るうえではずせない演目の一つ「春興鏡獅子」を、映画館で気軽に鑑賞してみよう。


©松竹

月イチ歌舞伎 2022
『春興鏡獅子』
上映日|2022年12月2日(金)~8日(木)※東劇のみ2023年1月5日(木)まで上映
上映館|東劇ほか全国の映画館にて(詳しくはこちら
料金|一般2200円、学生・小人1500円
出演|中村勘三郎、片岡千之助、中村玉太郎、中村歌江、二世 中村吉之丞、市川高麗蔵、大谷友右衛門

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