あべのハルカス美術館《楳図かずお大美術展》
27年ぶりの新作公開も!独創的な世界観に染まる
傑出した漫画作品を多く世に送り出した楳図かずお。漫画という既存の分野だけでは語りきることができない先見的な世界観、幻視的なヴィジョンが発揮された「楳図かずおの世界」を読み解く展覧会が、あべのハルカス美術館で2022年9月17日(土)~11月20日(日)にかけて開催。27年ぶりとなる新作公開でも話題の本展の見どころを紹介しよう。
楳図かずお(うめず かずお)
1936年、和歌山県高野山に生まれ、奈良県で育つ。小学校4年生で漫画を描き始め、高校3年生の時、『別世界』『森の兄妹』をトモブック社から単行本で出版し、デビュー。『へび少女』『猫目小僧』などのヒット作により、“ホラー漫画の神様”と呼ばれる。『漂流教室』で小学館漫画賞受賞。一方、『まことちゃん』でギャグの才能も発揮。作中のギャグ、“グワシ”は社会現象となった。このほか、『おろち』『洗礼』『わたしは真悟』『神の左手悪魔の右手』『14歳』など、数多くのヒット作を生み出す。その他、タレント、歌手、映画監督など多数の肩書きを持ち、様々なジャンルで活躍中。2018年、『わたしは真悟』で仏・アングレーム国際漫画祭「遺産賞」受賞。また同年度、文化庁長官表彰受賞。
“マンガ”のドラマ性と“美術”の
豊かな感性がひとつに
長きにわたり歴史に名を刻む傑出したマンガ作品を多く世に送り出した楳図かずお。その作品にはマンガという既存の分野だけでは語りきることができない先見的な世界観、幻視的なヴィジョンが至るところに発揮されている。
あべのハルカス美術館で2022年9月17日(土)~11月20日(日)にかけて開催される「楳図かずお大美術展」は、そんな楳図かずおの比類なき芸術性に焦点を当て、代表作を通じて、気鋭のアーティストらとともに「楳図かずおの世界」を表現する、今までにない展覧会だ。
地球規模の気候変動や自然災害の多発による人新世の到来、AIやロボット工学が暗示するシンギュラリティの予感、さらには人が神の領域に立ち入る遺伝子工学やハイブリッド生命体の誕生……。本展では、驚くほど生々しく描かれた、楳図かずおの先見性に満ちた代表作『漂流教室』、『わたしは真悟』と『14歳』に焦点を当てる。そして、比類なき芸術家楳図かずおの27年ぶりとなる新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』を公開。全101点の原画で鑑賞できる。
巨匠・楳図かずおが語り描く“アイ” の行方
シンゴの物語〔第二章〕
1990年代の『14歳』以来、楳図かずおにとって実に27年ぶりの新作となる『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』が展示される本展。1980年代に描かれた『わたしは真悟』の続編であり、同時に時空を超えたそのパラレル・ビジョン(並行世界)でもある。制作に4年の期間を費やし、完成した本作は、アクリル絵画による101点の連作という方式を採っている。生き生きとして目を見張らされる筆触や、煌びやかで吸い込まれるような色彩で表現され、時系列に沿って展開される物語性を持つ点ではマンガに近い部分もあるが、マンガと違ってコマ割りはなく、一枚一枚が独立して鑑賞できる作品となっている。「かつて子どもだった私たちへ」40年の時を超え、楳図かずおが生み出した、新たなシンゴの世界だ。
『わたしは真悟』
12歳の悟(さとる)と真鈴(まりん)の手によって、一介の工業用ロボットが意識を持ち、やがて自らを“真悟”と名付け動き始める。大人によって引き裂かれた、悟と真鈴の愛。変わらぬその思いを、お互いの元に伝えるという目的を持った真悟の意識は無限に拡大していき、やがてそれは神のレベルに達していった…。(1982~1986年連載)’80年代に描かれた本作は、コンピュータ・ネットワークが拡大した現在のニューエイジ感覚を、楳図が無意識の内に予知し、表現していたかのよう。緻密に描かれた絵画のような作風の見事さや、コンピュータ社会への警告など、あらためて評価されるべき作品と言える。
3組の現代アーティストが
楳図作品をテーマにインスタレーションを展示
『わたしは真悟』、『14歳』は描かれた時代の社会的な背景や文脈を超えて、いま読んでも驚くほど生々しく、その先見性にはあらためて感服させられる。本展では新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』とこれらの楳図かずお作品を、ニューヨークを拠点に活動するアートユニット・エキソニモ、現実と非現実の狭間をモチーフにした作品を数多く発表する冨安由真、芸術の根源的な問い直しを試みる鴻池朋子ら、アート界の気鋭の才能を持つ三者に委ね、インスタレーションとして拡張して展開する。
エキソニモ×『わたしは真悟』
映像インスタレーション
エキソニモ
千房けん輔(せんぼう けんすけ)と赤岩やえ(あかいわ やえ)により、1996年よりインターネット上で活動開始。2000年以降は、表現の場を実空間へと拡張し、デジタルとアナログ、バーチャル空間と実空間など、ふたつの世界を自由に横断しながらその境界線にフォーカスしたプロジェクトを数多く手がけている。2015年よりニューヨークを拠点に活動。2020年に個展「UN-DEAD-LINK」(東京都写真美術館)開催。2021年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
冨安由真×『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』
素描101点のインスタレーション
冨安由真(とみやす ゆま)
2005年に渡英し、ロンドン芸術大学Chelsea College of Artsの学部と修士課程で学ぶ。帰国後、2017年に東京藝術大学にて博士号(美術)取得。現実と非現実の狭間をモチーフに大型のインスタレーション作品や絵画作品を数多く発表する。主な個展に「アペルト15 冨安由真 The Pale Horse」(金沢21世紀美術館、2021年)、「漂泊する幻影」(KAAT 神奈川芸術劇場、2021年)、「くりかえしみるゆめ Obsessed With Dreams」(資生堂ギャラリー、2018年)など。主な受賞歴に第21回岡本太郎現代芸術賞特別賞受賞(2018年)など。
鴻池朋子×『14歳』
鴻池朋子(こうのいけ ともこ)
玩具のデザインを経て、様々なメディアを用いて言語の境界、現代の神話をトータルインスタレーション表現。地形や気候なども巻き込むサイトスペシフィックな展示や、触覚の可能性を探るプロジェクトも行い芸術の根源的な問い直しを試みている。個展「根源的暴力」(群馬県立近代美術館、2017年)にて芸術選奨文部科学大臣賞、個展「ちゅうがえり」(アーティゾン美術館、2020年)にて毎日芸術賞受賞。1960年秋田県生まれ。
数多くの歴史に名を刻む傑出したマンガ作品を届けてきた楳図かずお。そのジャンルは恐怖マンガからギャグマンガ、少年・少女もの、劇画、SF、アクション、さらにはウメズ・ワールドとしか呼びようのない、余人ではとうてい分類不能な領域に至るまで、ひとりの作家の手によるものとは思えないほど幅広く、深い。前人未到の業績は、まさしくマンガ界の宝と言っても過言ではない。
しかし同時に楳図作品には、マンガという既存の分野だけでは語りきれない先見的な世界観や幻視的なヴィジョンが、至るところで発揮されている。これらの側面を捉えるため、より普遍的な意味での「芸術家としての楳図かずお」を提示するのが本展の趣旨だ。
その核心に存在するのは、未来への希望をつくり出すのが、どんな危機を前にしても勇気を持って一歩を踏み出す、常に若々しい私たち一人ひとりの内なる生命活動。たとえ破滅的な苦境にあっても、決して希望を捨てず、不滅と呼んでよい他者への汲み尽くせぬ愛に導かれて奔放に想像し、大胆に行動する! それが楳図かずおを「大美術」として読み解く最大の鍵なのだ。
アーティスト・楳図かずおはどうやって生まれたのか? 作品を通じて、何を伝えようとしているのか? 漫画家の枠に収まらない “アーティスト・楳図かずお” の「大美術」を堪能しよう。
楳図かずお大美術展
会期|2022年9月17日(土)~11月20日(日)
会場|あべのハルカス美術館
住所|大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16F
時間|火~金曜10:00~20:00、月土日曜・祝日10:00~18:00 ※入館は閉館30分前まで
休館日|9月26日(月)
料金|一般1700円、大高生1300円、中小生500円
https://umezz-art.jp