TRADITION

片岡仁左衛門が贈る、
関西発・上方歌舞伎の代表作
|シネマ歌舞伎『女殺油地獄』

2022.5.18
片岡仁左衛門が贈る、<br>関西発・上方歌舞伎の代表作<br><small>|シネマ歌舞伎『女殺油地獄』</small>
©篠山紀信

歌舞伎の舞台を映画館で楽しめる「シネマ歌舞伎」。2022年5月の上映作品は『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』だ。関西で生まれた上方歌舞伎の代表的な作品を、名門・松嶋屋の片岡仁左衛門(かたおか にざえもん)主演で贈る。
本作は全国の映画館にて、2022年5月20日(金)から26日(木)まで上映予定。観に行く前に、あらすじや作品背景を予習しておこう。

若者の孤独と狂気を描いた、美しき地獄絵


©松竹株式会社

大坂天満の油屋河内屋の息子・与兵衛は、店の有り金を持ち出しては馴染の芸妓小菊に入れあげている。金に困った与兵衛は、継父の徳兵衛に金策を断られるや逆上して家族に暴力を振るう。見かねた母・おさわが勘当を迫ると自棄を起こして家を飛び出すのだが、借りた金の返済は迫り、途方に暮れる。

一方、徳兵衛とおさわは同業の豊嶋屋七左衛門の女房・お吉を訪ね、与兵衛を家に帰るよう諭してくれと涙ながらに頼み、銭を預けて帰って行った。このやりとりを物陰で密かに聞いていた与兵衛は、その親心に涙を流し、銭を受け取る。しかしながら借金額には程遠く、お吉に借金を申し出るのだが、断固として拒絶されてしまう。追い詰められた与兵衛は……。

題名に”油地獄”とある通り、借金に追いつめられた与兵衛が衝動的にお吉を殺害する場面での、油まみれになりながらの立廻りは大きな見せ場だ。凄惨なシーンでありながら、まるで美しい浮世絵のように決まる場面に、ぜひ注目してみよう。

江戸時代にも逆ギレ?!
なぜ悲劇は起こったのか

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働きもせず家の金を持ち出して廓通い、思い通りにいかないと暴力をふるう与兵衛は、まさに不良。家の主である徳兵衛も腹に据えかねているが、強く言えない事情がある。

徳兵衛は元々この家に雇われていた番頭で、おとくとは再婚。使用人の立場である負い目と、日に日に先代に似てゆく血の繋がらない与兵衛に、徳兵衛は引け目を感じている。

一方与兵衛も、複雑な家庭環境に加えて立派に独立している優秀な兄とことあるごとに比べられ、面白くないと思っていた。反発するうちに、気が付けば崩れた生活を送るようになってしまっていたのだ。ただの“ろくでなし”とは突き放せない哀愁を、孤独な与兵衛は持っている。

しかし、まじめに働いたことがない与兵衛は我慢を知らず、思い通りにならないとすぐに手をあげてしまう「キレやすい」若者だ。借金で首が回らなくなった与兵衛は、家族に暴力をふるうも、これ以上は絞り取れずに追い詰められ、最後の望みだった親切な知り合いの女性・お吉からも金を借りられず万事休す。その時、与兵衛の眼に妖しい光が宿る……。

複雑な家庭に育った若者が、ふとしたきっかけで衝動的に人を殺してしまうという、現代でも耳にしそうなこの物語。江戸時代のヒットメーカー・近松門左衛門が当時世間を騒がせた実際の事件に取材したものだ。元は人形浄瑠璃、後に歌舞伎となった。300年前の作品だが、その内容は決して色褪せない。

必見!仁左衛門が演じる「与兵衛」

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『女殺油地獄』の与兵衛は、関西で生まれた「上方」歌舞伎の代表的な役どころ。物語の舞台は大阪の天満で、登場人物も当然関西弁。江戸時代も商いが盛んだった大阪の華やかな雰囲気は、物語冒頭、野崎観音参りの賑わいにも表れている。

主人公の与兵衛を務めるのは、名門・松嶋屋の十五代目片岡仁左衛門。彼がまとう品のよさは、放蕩者の与兵衛にさらなる深みを与えている。この役を演じたことをきっかけに注目を浴びた仁左衛門にとって、与兵衛は「当たり役」。大切にしてきた演目で、長男・片岡孝太郎と孫・片岡千之助との3代にわたる共演を果たしたのも歌舞伎ならではだ。

歌舞伎を知るうえで外せない同公演が、シネマ歌舞伎として残っているのは幸運だ。初心者には同時音声解説のイヤホンガイドアプリという頼もしい味方もある。貴重なこの機会をお見逃しなく!

©松竹株式会社
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シネマ歌舞伎『女殺油地獄』
公開日|2022年5月20日(金)~26日(木) ※東劇のみ6月9日(木)まで上映決定、ただし5月23日(月)は休映
上映館|東劇ほか全国の映画館にて(詳しくは公式ウェブサイトにて
料金|一般2200円、学生・小人1500円
出演|片岡仁左衛門、片岡孝太郎、坂東彌十郎、片岡千之助、坂東新悟、中村梅枝、片岡市蔵、市川齊入、大谷友右衛門、中村歌六、片岡秀太郎、中村梅玉

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