TRADITION

坂東玉三郎が演じる歴史に名を残した女たち!美しい淀の方と楊貴妃と出会う。
シネマ歌舞伎『沓手鳥孤城落月/楊貴妃』

2022.1.30
坂東玉三郎が演じる歴史に名を残した女たち!美しい淀の方と楊貴妃と出会う。<br><small>シネマ歌舞伎『沓手鳥孤城落月/楊貴妃』</small>
©岡本隆史

歌舞伎の舞台を映画館で楽しめる「シネマ歌舞伎」。その多彩な演目は、毎月1週間ずつ異なる作品を全国の映画館で上映する「月イチ歌舞伎」で楽しめる。2022年2月の上映作品は『沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)/楊貴妃(ようきひ)』。

栄華を極めた豊臣家の最期に直面する淀の方とその息子・秀頼の絆を描いた「沓手鳥孤城落月」と、皇帝に愛された悲運の美女が登場する舞踊劇『楊貴妃』を二本立てで上映。全国の映画館にて2022年2月4日(金)から10日(木)まで。観に行く前に、あらすじや作品背景を予習しておこう。

豊臣家最期の時!
親子の絆、淀の方と秀頼

©岡本隆史
©岡本隆史

大坂夏の陣、大阪城は徳川家康に攻められ落城寸前であった。大阪方の大将・秀頼の母・淀の方は、秀頼に嫁いだ家康の孫・千姫が城から連れ出されようとするところに出くわし毅然と阻止する。そんな中、いよいよ徳川方の軍勢が間近に迫り、城内は炎に包まれ乱戦となる。糒庫(ほしいぐら)へと避難した淀の方は、千姫が混乱に乗じて城から逃げ出したことを知り、怒りのあまり錯乱してしまう。

正気を失った母の姿を見た秀頼は、母を殺して自害しようとするが、豊臣家のために降伏するよう勧められ、涙ながらに開城を決意するのだった。

実父を伯父・織田信長に、また実母を豊臣秀吉に殺され、後にその秀吉の側室となって豊臣家の実権を握るまでに上り詰めた淀の方。そのドラマティックな人生は度々取り上げられ、小説やドラマなどの題材とされてきた。この作品では、栄華を極めた豊臣家が滅ぼされる瞬間の、極限まで追い詰められた淀の方の心の動きと、息子・秀頼とのゆるぎない絆を描いている。

また、本作では効果音などの映像作品ならではの映像演出も取り入れており、より物語に没入できるよう工夫されている。

絶世の美女が舞う!
舞踊劇「楊貴妃」

©岡本隆史
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世界三大美女のひとりとして名高い楊貴妃。もとは唐の玄宗皇帝の子・寿王の妃だったが、玄宗皇帝に見染められて寵愛を受けた。美貌だけでなく歌や舞踊の才にも恵まれ、教養も備えた楊貴妃は皇帝の心を独占。一族も次々に高い地位を贈られ絶大な権力をにぎるが、世の反感を買い反乱を引き起こし、楊貴妃は責任を負う形で亡くなったとされている。時代も国も異なるが、そのドラマティックな人生は淀の方の境遇と似たところがあるようだ。

この『楊貴妃』は、玄宗皇帝と楊貴妃の幸せな日々と悲しい別れを描いた白居易による漢詩「長恨歌」をもとにした能「楊貴妃」から着想を得たもの。すでにこの世を去った楊貴妃がありし日の美しい姿で現れ、皇帝との思い出を思い返しながら舞うという幻想的で儚い物語。京劇にも通ずる坂東玉三郎が、京劇、能、歌舞伎それぞれの様式美を融合させて舞う。映画館で臨場感たっぷりに楽しもう。

坪内逍遥と夢枕獏
作家が織りなす歌舞伎の世界

©岡本隆史

今回の2本立て上映は、どちらも明治以降の比較的新しい歌舞伎作品。

『沓手鳥孤城落月』は、写実主義を唱えて日本文学の近代化を成した坪内逍遥の作。文学の発展に貢献した作家として名高いが、実は早々に筆を折り、その後はシェイクスピアや近松門左衛門の研究に従事。劇作も積極的に行い、後半生は演劇の近代化に取り組んだ。
「沓手鳥孤城落月」は明治以降に新たに作られた新歌舞伎の先駆的な戯曲「桐一葉」の続編で、どちらも豊臣家の没落を登場人物の心情も含めて丁寧に描いたが、「沓手鳥孤城落月」は特に淀の方にスポットを当てている。

『楊貴妃』は日ごろから大の坂東玉三郎ファンを公言している人気作家・夢枕獏による書き下ろし。神秘的な世界観を得意とし、安倍晴明を主役とした小説「陰陽師」シリーズはベストセラーに。晴明ブームの火付け役となった。2022年2月からは小説を原作とした舞台『陰陽師 生成り姫』が、新橋演舞場と京都の南座で上演予定。主演に三宅健を迎え、話題を呼んでいる。オカルトの世界に明るい作者ならではの楊貴妃の描き方に注目だ。

それぞれ、シネマ歌舞伎でしか見られない特別インタビューも収録。貴重な映像を映画館で楽しもう。

©岡本隆史

月イチ歌舞伎2021
『沓手鳥孤城落月/楊貴妃』
上映期間|2022年2月4日(金)~2月10日(木)
上映館|東劇ほか全国の映画館にて(詳しくはこちら
料金|一般2200円、学生・小人1500円
上映時間|104分
出演|「沓手鳥孤城落月」坂東玉三郎、中村七之助、尾上松也、中村梅枝、中村米吉、中村児太郎、坂東亀蔵、坂東彦三郎、市村萬次郎 ほか、「楊貴妃」坂東玉三郎、市川中車 ほか

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