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富山県砺波市《楽土庵/らくどあん》
田園風景に佇む“再生するアートホテル”オープン

2022.8.29
富山県砺波市《楽土庵/らくどあん》<br>田園風景に佇む“再生するアートホテル”オープン
photo=Nik van der Giesen

美しい農村景観が広がる富山県砺波市。この地に築120年の古民家を再生した、1日3組限定のアートホテルとイタリアンレストランを併設した「楽土庵」が2022年10月5日(水)に開業する。この場所で体験できる新たな旅スタイル「リジェネラティブ・ツーリズム」とは?

美しい田園風景の中で、
“回復と再生”の旅を。

photo=Nik van der Giesen

富山県西部に位置する砺波市。ここには田園の中に家屋が分散する稲作農村形態「散居村」があり、中でも砺波平野の散居村は、扇状地に日本最大であるおよそ220㎢にわたって広がる。その姿は小島が大海原に浮かぶ姿にも似て美しく、日本の農村の原風景のひとつであるとも言われている。水張りをした一面に夕陽が反射して幻想的な情景をつくる春から、雪景色の冬まで、四季折々に美しい表情を見せてくれる。

「となみ野の散居村」鳥瞰 photo=Nik van der Giesen

楽土庵では、そんな周囲の景観をはじめ、空間やアート、料理、アクティビティなどを通して富山の「土徳(どとく)」が体感できる。「土徳」とは、人が自然とともにつくり上げてきた、その土地が醸し出す品格のようなもの。民藝運動の創始者・柳宗悦は富山の地を訪れ、厳しくも豊かな環境の中で恵みに感謝しながら生きる人々に出会い、「ここには土徳がある」と表現したと言われている。

そのひとつの現れが、楽土庵が位置する「となみ野の散居村」だ。田園の中に家屋が分散しその周りを「カイニョ」と呼ばれる屋敷林が囲む、日本独特の稲作農村形態で、国の重点里地里山に選定されている。500年もの年月をかけて構築された景観は、自然と人との共生の賜物であり、そこでは日本的なサステナブルな暮らしが営まれてきた。

屋敷林の樹木は、家の木材や燃料となって循環し、多様な生き物を育む場所でもある。また、張り巡らされた用水路や水を湛えた水田、屋敷林があることで、市街地と比べて地表面の温度を13度も下げるなど、環境面でも意義あることが分かっている。SDGsやサステナブルという言葉が生まれるずっと前から営まれてきた、自然と人との共生の智慧を発信し、富山の土徳に触れることで訪れる人が癒される……楽土庵ではそんな体験が出来るのだ。

自分と地域の再生につながる
リジェネラティブ・ツーリズムとは?

「真宗王国」と言われる富山県。砺波平野にはおよそ5000体の石仏がある photo=Nik van der Giesen

一方、お米の需要の減少や農家の担い手不足で増える耕作放棄地、ライフスタイルの変化の中で屋敷林やアズマダチ古民家の減少など、その美しい景観だけでなく、文化や信仰、コミュニティは失われようとしている。そこで「宿」を拠点に、散居村の保全と未来継承に取り組みたいという想いから「楽土庵」のアイデアが生まれた。
稀少な田園風景の中で富山の土徳に触れ、旅する人が癒されるだけでなく、その旅が地域の再生にも寄与する。そんな新たな旅のスタイルが「リジェネラティブ(再生)・ツーリズム」なのである。

楽土庵の取り組み
宿泊料金の2%を散居村保全活動の基金に
散居村の魅力や課題が体感できるアクティビティを実施
散居村の米や野菜、地元の伝統産業や工芸作家のうつわなどを使用。散居村オリジナルグッズを楽土庵ショップにて販売

1日3組限定のアートホテルとイタリアンレストラン

ラウンジ

楽土庵は伝統的な民家「アズマダチ」を活かした、1日3組限定のスモール・ラグジュアリーな宿。土・木・和紙・絹など古来からの自然素材を用いた、周囲の自然環境や歴史と切れ目なくつながる空間に、民藝や工芸、現代アートが調和しながら設えられている。敷地内には、富山の海・山・里の豊富な食材を使った富山ならではのイタリア料理を提供するレストラン「イルクリマ」と、民藝・工芸品、富山の食などを扱うブティックが併設されている。

ジャンヌレ、ウェグナー、芹沢銈介、濱田庄司…
民藝から現代アートまでが響き合う

芹沢銈介「観世音菩薩」 photo=Nik van der Giesen

土徳は富山にだけあるものではない。世界各地にその土地の土徳があり、土徳が美となって現れたモノがある。共通しているのは、人の計らいを超えた「他力美」。楽土庵では、そうした他力美が顕現した家具や工芸、美術品を世界中から蒐集し、設えとして使っている。
ピエール・ジャンヌレやハンスJ.ウェグナーらの家具のほか、李朝のバンダチや飛騨の調箪笥、ポール・ヘニングセンやジャスパー・モリソンの照明、西アジアのバルーチ族のラグなどを備える。そしてこれらインテリアの中に、芹沢銈介・濱田庄司・河井寛次郎・棟方志功といった民藝作家から富山の工芸作家、内藤礼など現代美術家まで、上質な工芸やアートが設えられ、調和している。
また、スリップウェアの日本第一人者と言われる柴田雅章の陶芸作品、六田知弘の静謐な写真、現代美術家・林友子の楽土庵の土を使ったコミッションワークなど、30以上の作家の作品や工芸品をコレクションし、季節ごとに入れ替えて展示される。

出合ったものを日々の暮らしでも使えるよう、館内に設えられる工芸作家の作品やアメニティ、イルクリマで使用されるオリジナルのうつわは、その多くが購入可能だ。

客室「紙 shi」は、壁から天井にハタノワタルの和紙が使用され、ポール・ケ アホルムのPK22やイサム・ノグチのAKARIが配される
ピエール・ジャンヌレのラウンジチェアが配された客室「土 do」

富山の食材をイタリアンで表現

photo=Nik van der Giesen

全20席のレストラン「イルクリマ」の店名の由来はイタリア語で「風土」を指す。辻調理師学校のフランス校で講師を務めながら、フランスやイタリアのレストランで修業したシェフ・伊藤雄大氏を迎え、地元の豊かな食材を使い、イタリア料理のスタイルで、富山の土徳を表現していく。その日にしか味わえない旬の食材を使ったメニューが堪能できる。

二頭の蚕からつくられる表情豊かな「しけ絹」を壁と天井一面に使った客室「絹 ken」。やわらかく光を反射する空間は、繭のなかにいる心地に
濱田庄司が得意とした流掛や赤絵、塩釉などの技法や、独自の文様「黍文」を施した作品などを入れ替えながら展示される
独自の「灰釉スリップウェア」を生み出した柴田雅章作品は、館内の設えやレストランなどで使用
李朝家具や調度品も

時代や国境を超えて器物が調和するさまを柳宗悦は「複合の美」と呼んだ。美しい散居村の景観からつながる楽土庵の「複合の美」の空間は、訪れた人に穏やかで健やかな時間を与えてくれるだろう。

楽土庵
開業日|2022年10月5日(水)
住所|富山県砺波市野村島645
Tel|0766-95-5170
休館日|火曜(祝日は営業)
客室数|全3室(最大6名)
アクセス|電車 JR高儀駅から徒歩約10分、車 砺波ICから約6分

 

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