「ホテル ザ セレスティン東京芝」薩摩藩ゆかりの地で“おこもり読書”をするという贅沢
「最近本を読めていないな……」。そんな多忙な日々を過ごしている方も多いのではないだろうか。そこで「隙間時間での読書」ではなく、あえて「読書のための時間」をホテルで過ごしてみてはいかがだろう。
「ホテルは、自宅と比べると『ノイズ』が少ないんです。家にいると、入ってくる情報量が多くて、やらなきゃいけないことに心を奪われる。結局集中できないんですよね。だから、わざわざ読書の予定を立ててホテルで過ごすことは、とても贅沢で有意義な時間だと思います」とブックディレクター幅さんは語る。幅さんは病院や動物園などのライブラリーの選書をはじめ、本を通じた地域の観光活性化にもひと役買っている。最近では、ロンドンやサンパウロの外務省による日本文化の発信拠点「ジャパンハウス」内の選書も手がけている。
そんな幅さんが読書をするためだけに訪れたのが「ホテル ザ セレスティン東京芝」。宿泊したのは「つむぎ」ルーム。鹿児島の大島紬作家・大瀬輝也さんが監修した、本場ならではの大島紬がそこかしこにあしらわれている。
幅さんが今回の滞在のために用意した本は5冊。
土田ルリ子『切子』(角川ソフィア文庫)、磯田道史『日本人の叡智』(新潮新書)、磯田道史『素顔の西郷隆盛』(新潮新書)、岡本仁・グッドネイバーズ・カレッジ『みんなの鹿児島案内』(ランドスケーププロダクツ)、日本の食生活集 鹿児島編集委員会『聞き書 鹿児島の食事』(農山漁村文化協会)だ。(それぞれの本の内容については最後に紹介)
実はホテル ザ セレスティン東京芝は、薩摩藩上屋敷の跡地に建つホテル。周りには徳川家の菩提寺・増上寺をはじめ、愛宕神社、西郷隆盛と勝海舟が会談した田町の薩摩藩邸など、幕末から明治にかけて激動の時代を物語る史跡が多く残っている。
館内には薩摩ゆかりのものが随所にしつらえてあり、まるでその土地の記憶をよびさましてくれる装置のようだ。例えば、エントランスに置かれた薩摩切子。薩摩切子は幕末に海外との交易を目的に島津斉彬が発展させたガラス細工で、薩摩の重要な産業であった。エントランスの作品は、幕末に一度途絶えた薩摩切子を復活させたメンバーのひとり、切子作家・弟子丸努さんが手掛けたものだ。
「とことん薩摩に特化していて、地場の魅力を発信しているところがいいですね」と幅さん。
チェックインを済ませた幅さんは夕食までカフェ&バーラウンジ「セレクロワ」へ。バーカウンター上に置かれた照明も、弟子丸努さんによるものだ。こちらのカウンターで薩摩ゆかりのカクテルをいただくことに。
幅さんの母方は鹿児島に実家があり、現在は両親とも鹿児島在住。焼酎は好きでよく飲むというが、今回提供されたカクテルに使用した「思無邪(しむじゃ)」は、初めてだとか。
「思無邪」とは、「おもいよこしまなし」とも読む島津斉彬の座右の銘。製造する日置市の小正醸造は代々島津家のお神酒造りを手がけてきた。
この芋焼酎「思無邪」をトニックとソーダで割ったオリジナルカクテル。金箔を散らして青ゆずをお好みで搾っていただく。
「スーパーエレガント! 芋焼酎なのにスッキリですね。トニックとソーダで割ることでカドがとれたというか。とても上品な味です」とお酒好きの幅さんもご満悦。
夕食は館内にあるメインダイニング「ラ プルーズ東京」にて。内装は大島紬をモチーフにどこまでも薩摩へのこだわりが見られる。
6品で構成されたフルコースには、鹿児島県産の食材をふんだんに使用。例えば、「仔羊Tボーン(ロース、フィレ)とせせらぎポーク肩ロースのポワレ ソースベルシーと茎山椒を添えて(写真手前)」や「鹿児島産パッションフルーツ黒酢を使ったホタテ貝の温かいエスカベッシュ(写真奥)」
素材を生かした日本人好みのスマートな味付けがとても心地よい。薩摩の美食に舌鼓を打ちながら五感がフル回転するひとときだ。
読書にどっぷり浸かりたいという人にはルームサービスをオーダーするのもおすすめ。
「ホテルオリジナルハンバーガー」はメゾンカイザーのバンズを使用。オリジナルのパテはボリュームにこだわり、食べ応えのあるひと品になっているため夕食としても十分にお腹を満たしてくれる。
「つむぎ」は角部屋で窓が大きく、見晴らしも申し分なし。
「見慣れた景色も高い場所から見下ろすだけで、急に異世界になりますよね」と幅さん。
読書もしかり、ゲストルームで過ごすひとときは心持ち次第でいかようにも変化する。
天気のいい日はやわらかい日差しを浴びながらパティオで読書を。チェックアウトが12時と少し遅めだから1泊でもゆったりとした滞在が可能だ。パティオのほかにも宿泊者だけが利用できるゲストラウンジもぜひ活用したい。
日々の喧騒から離れ、ホテルで読書をするというだけでもこの上ない贅沢な時間。しかし、ホテル ザ セレスティン東京芝ではもっと先の、未知なる世界へと導いてくれるのだ。
「薩摩藩上屋敷跡で本を読んで主人公に想いを馳せる。その現場が目の前にあるって、最高ですよね」
過去と現代がクロスオーバーするリアルな場所が、東京芝に存在する。
DATA
ホテル ザ セレスティン東京芝
住所:東京都港区芝3−23-1
Tel: 03−5441−4111
チェックイン:15:00 チェックアウト:12:00
宿泊料金:モデレートタイプ1万7,600円~、つむぎ3万1,000円~(税・サービス料込 ※東京都宿泊税込)
※上記の料金は2018年8月8日宿泊時の価格例です
www.celestinehotels.jp/tokyo-shiba/
幅 允孝さんProfile
1976 年、愛知県出身。BACH代表、ブックディレクター。人と本が出合える「場」をつくり、未知なる本を手にしてもらうため、書店と異業種を結び付けたり、病院や企業ライブラリーの制作を行う。
幅さんが今回セレクトした5冊
(上から)
『切子』土田ルリ子
「和ガラスがつくられるようになってから、薩摩切子が誕生するのは100年も先のこと。その誕生の理由や歴史や、そもそも“切子”とは? がとてもよくまとまっています」。薩摩切子を知るならまずこの一冊から。
『日本人の叡智』磯田道史
1600〜1970年代にかけて活躍した日本人の人物言行録。「この本に出てくる薩摩藩藩主・島津斉彬は人材登用に一家言あり『非常の人物』を好んだと言います。西郷隆盛はその代表格。磯田さんの歴史のとらえ方はおもしろい」
『素顔の西郷隆盛』磯田道史
悩み多き青春、策謀と戦闘の果てに倒幕を成し遂げ、自決するまでの西郷隆盛の一生を解説。「日本を近代国家にするためには、自我を消さなければならないという矛盾に苛まれていた西郷。知られざる彼の素顔がよく表されています」
『みんなの鹿児島案内』岡本仁、グッドネイバーズ・カレッジ
鹿児島をこよなく愛する編集者・岡本仁さんと鹿児島に住む仲間の視点で、現在進行形の鹿児島を私的に案内。「西郷隆盛を輩出した加治屋町にある顕彰碑とナポリタンのエピソードなど、鹿児島愛に溢れた内容です」
『聞き書 鹿児島の食事』 日本の食生活全集 鹿児島編集委員会
地元のおばあさんたちがつくる四季の献立と晴れの日のご馳走など、食生活を県内地域ごとに聞き書きでまとめたシリーズの鹿児島編。「○○家の場合と、単位を限りなく小さくして実際の家庭に入り込むのがおもしろいです」