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微生“BIOTA” 伊藤光平さんに学ぶ
除菌から加菌へ。微生物多様性で感じる発酵

2021.7.19
微生“BIOTA” 伊藤光平さんに学ぶ<br>除菌から加菌へ。微生物多様性で感じる発酵

微生物の営みの恩恵である発酵食品で、菌活しつつ除菌アイテムが必需品になっている新しい日常。室内や都市にいる微生物たちは排除されるべき?

伊藤 光平(いとう・こうへい)
1996年、山形県生まれ。BIOTA代表取締役。高校時代から慶應義塾大学の特別研究生として微生物研究に従事。都市や室内の微生物多様性を高め健康な空間をつくる事業を行う。建物×発酵に着目し、生酛造りの酒蔵「土田酒造」の蔵付き菌を解析。建物に対してどれだけ菌がいるかを「見える化」し、酒造りに生かす研究も

伊藤さんの語る、発酵と微生物の関わり

「発酵食品が菌の作用で腸内環境を整えるように、空気中の微生物が室内や都市の健康、ひいては人間の健康に大きく関与します」

そう語るのは、微生物の多様性を、都市に住む人たちの健康に生かす研究事業を行っている伊藤光平さん。伊藤さんによると都市の微生物は、土や河川にいる自然環境の微生物と、人間が1秒間に何百個と空気中に放出する微生物が混ざり合ってコミュニティがつくられているという。そのため人口に対して自然が少ない、建物内で自然換気ができないなどの状況下では、人由来の微生物が過多になってしまう。病原性の細菌は人体に侵入して増えてしまうので、人の微生物が増え過ぎると微生物コミュニティのバランスが崩れて多様性が低くなり、さまざまな病気につながると考えられている。

「近くに大きな森がない、高層ビルで窓を開けられないといった都市の環境下では、室内に微生物を人為的に加える装置などで多様性を保つことが有効だと考えられます。除菌ではなく加菌。有効な菌を加えることによって室内の微生物コミュニティのバランスと多様性を維持する。ぼくらはそれを『都市部にヨーグルトを注ぐ』と表現しています」

腸活ならぬ町活。その意味ではキッチンで発酵食品を育てることは、室内の微生物多様性につながるのだろうか?

「発酵が室内の微生物の増減に関係するかどうかはわかりませんが、ぬか漬けでいえば手でかき混ぜることで皮膚の表面にぬか床にいる菌がたくさん付くし、空気中にも菌が飛ぶのでそれが身体に寄与するイメージはつきます。口からだけでなく発酵を触って菌を取り込むのは、森林浴などで多様な微生物のシャワーを浴びることともリンクします」

微生物の世界は病原菌といかに戦うかで発展してきた分野でもあるため菌に対して抵抗感をもつ人も多いが、その働きがなければ人間は生きていけない。腸活と同じように、体外の菌の多様性を保って健康を維持する意識も必要だ。

「温泉に入り湧出口が茶色くなっているのを見ると硫黄を代謝できる微生物の営みを想像できますが、発酵でも素材の変化や香り、音などから微生物の働きを感じ取ることができます。発酵の進み具合によっても微生物が一気に増えたり減ったりしますが、それは微生物の生態系やコミュニティが動いて循環しているということ。ぬか漬けをかき混ぜながら目には見えない生物たちの営みや循環に想いを馳せることができれば、微生物がもっと身近になり社会がよい方向に熟成していくのではないでしょうか」。

text: Akiko Yamamoto photo: Atsushi Yamahira illustration: Saki Obata
Discover Japan 2021年7月号「ととのう発酵。」


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