巴蜀<はしょく 福岡>
四川料理の最注目株の全40皿のコース!【中編】
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン
地方都市は情報も素材も早く行き来するだけに驚きの専門店がある。九州・博多で最もとがっているのは、こんな中国料理店だった!今回は、福岡県福岡市にある「四川料理・巴蜀」を3つの記事でご紹介します。
現地でも絶滅が危惧される
〝古典料理〞を守る
そもそもこの皿コースの発想はどこから来たのだろう?「私が四川大学に行った頃、街のレストランや屋台では気軽に食べられる小皿料理(小吃)が定着していました。それを組み合わせてコースにもできるし、前菜とお酒で晩酌セットにもできる。これをいつか自分の店で出してみたいと考えたんです」。
‘07年に独立したときは、規模の大きな店だったため、スタッフが足りず小吃コースには対応できなかった。機が熟したのは‘16年の移転のとき。技術力のあるスタッフも揃い、小皿料理コースがはじまった。
「和え物のような家庭料理もあれば、サイズは小さくても、丁寧に準備したレストラン料理も出します」。荻野さんの料理は、1980年代から‘00年前後の四川料理が中心。その時代は古典料理もまだしっかりと食べられていたが、軽くてフレッシュな料理が注目され出した頃。本場で四川の辛い料理が徐々に減っていく一方で、日本では本場の辛さが注目されはじめた。その理由は荻野さんのように本場の味を勉強した若い料理人たちが独立し、本場の辛さ、美味しさを再現しはじめたからだ。たとえば、担担麺。15年前まで日本で担担麺といえばゴマ風味のスープ麺だった。〝日本の四川料理の父〞陳建民氏が辛さに弱い日本人の口に合うようつくった。しかし本場で担々麺といえば和え麺。「うちも汁なしです。ここに本場の担々麺の説明が書いてあります」と四川現地を取材した雑誌の記事を見せてくれた。なんとそれは13年ほど前に私が四川・成都で取材した担々麺のルーツの記事だった。中国料理の料理人からはとても興味をもってもらったらしい。それがいまも、こんなかたちでお役に立っているのはうれしい限り。
さて四川料理で、本場の味を出すのに欠かせないのが香辛料(辛い唐辛子、痺れる花山椒など)、調味料(大豆の加工品、ソラマメの加工品や発酵調味料)、香りをつけた油など。何よりも香りを大切にする四川料理では、香辛料も新鮮でなくてはならない。「うちではほとんど自家製です。年に一度は現地の市場に材料を買いに行きます」。40皿の内容は常に変わる。固定していたほうが楽なのでは?と思うが、荻野さんはさまざまな料理をつくりたいのだ。勉強熱心なシェフは古典料理も資料をもとに再現することも珍しくない。時には、ウサギの頭や豚の内臓など普通の店では出さない料理が紛れていることも。
「福岡は寿司店が有名ですけど次の日はうちでディープな四川料理を楽しんでほしい」。福岡の「巴蜀」の名前が全国区になる日は近い!
肉・魚料理
代表的な四川料理といえば麻婆豆腐。陳ばあさんがつくる辛い豆腐炒めが有名だが、荻野さんは時代ごとのさまざまなバージョンを出す。これは80年前バージョン。かなり濃厚。アヒル、鶏、豚の肉料理3品はおから、紅麹、米など、組み合わせる素材によって、軽さ、発酵の旨み、食感などの変化を出す。内陸部にある四川省では魚料理がもともと少ない。ここではカサゴが唐辛子を入れたオイルで煮込まれ熱々で登場。
自家製調味料がおもしろい
蒸しパンを発酵させた醤
上が発酵させて半年。下の黒い方が2年半。クルミの甜麺醤がらめや、スペアリブに使用。香ばしい甘みがコクに。
塩・唐辛子・米
発酵させて素材を寝かせて熟成させる。スペアリブを漬け込んで肉を寝かせる。「肉のなれずしをつくるイメージで」。
四川料理 巴蜀(ハショク)
住所|福岡県福岡市博多区美野島2-3-14
Tel|092-482-7474
営業時間|11:30~14:00(L.O.)、18:00~21:00(L.O.)
定休日|日曜、祝日
昼|汁なし担々麺750円、夜|コース5000円~すべて税別、サービス料なし。
席数|カウンター5席、テーブル16席
http://hashoku.9syoku.com
text:Yumiko Inukai,photo:Muneaki Maeda
Discover Japan 2018年3月号『今だから新しい暮らし方を考えてみる。』