「大久保醸造店」自然に負担をかけない天然醸造・木桶づくりの味噌蔵へ
松本十帖/長野県・松本市
日本にある味噌・醤油蔵の中で、天然醸造・木桶づくりの蔵は数少ない。今回はそんな稀少な蔵を訪れることができました。
大久保 勝美(おおくぼ・かつみ)
長野県松本市で明治38年創業の味噌・醤油蔵を家族経営で守り続ける4代目。3代目の文靖さんとともに、添加物を使わない原料にこだわった味噌・醤油づくりに勤しむ
レストランでも使用する
味噌が美味しい理由とは
信州に根づく発酵文化を語るには、やはり味噌・醤油が欠かせない。長野県には100を超える醸造所が点在しており、松本十帖の「三六五+二(367)」でも、食材の魅力を引き出す調理法として、味噌・醤油がよく使われている。今回特別に総料理長・クリストファーさんとともに訪れることができたのは、自遊人が運営するレストランで、昔から日常的に使っているという、天然醸造、木桶づくりの味噌・醤油をつくる1905(明治38)年創業の老舗蔵「大久保醸造店」だ。
大久保醸造店では、味噌は米、麦、玄米、白味噌の4種類、醤油は濃口、淡口、白醤油、再仕込み醤油の4種類を製造している。共通していえるのは、これらはすべて等級品の国産原料のみを使い、さらに木桶で長期熟成させるという、ほかの醸造所ではなかなか見られないこだわりよう。
「うちは小規模だからこそ量より質が大事。醸造というのは時間の味なんです。微生物が自然に活躍し美味しく育ててくれる。そのために効率よく、最小限の人手やエネルギーでつくれるよう、3代目の会長が考案して設備の改良を加えていきました。湿気がたまらないように壁や床には一面に炭を入れています」。と教えてくれたのは、4代目の勝美さんだ。また、案内してもらって驚いたのは、蔵内の建築構造。複雑な3階建ての最上階は原料処理の部屋、大豆を蒸したら真下にある2階の麹室へ、麹菌が付いた大豆はさらに真下のもろみ蔵へ原料を“落とす”仕組みになっている。こうして重力を利用することで最短の移動手段ができ、雑菌から守ることもできるし、手間も省ける。老舗だからといって、昔ながらのつくり方を受け継ぐだけでなく、研究を重ねて最善を尽くし、そのための工夫には惜しまず投資する。そんな姿勢が大久保醸造店のつくる味噌・醤油の味を守り続けていた。
蔵内をシェフと一緒に見学!
まずは醤油・味噌の貯蔵庫へ
蔵の入り口には、大量の醤油・味噌が入ったケースがずらり。味噌も醤油も、松本十帖をはじめその味に惚れ込んだ全国各地の名だたる料理店へ出荷している。
厳選された大豆・小麦の保存室へ
大豆は等級品の国産を使用。基本的に長野から北のものを仕入れるようにしており、特に篤農家として知られる青森県の福士武造さんがつくる大豆は別格だとか。
美味しさを追求して
導入した機械や木桶タンク
大豆を素早く軟らかく蒸すため、アルカリ性イオン水を製造する機械も導入する。
直径2.8m、約1万600㎖のもろみが入る横型木桶タンクは効率よく混ぜられるよう特許を取得した特注品。
「三六五+二(367)」でも使っている
味噌・醤油はこれ!
大久保醸造店
住所|長野県松本市大字里山辺2889
Tel|0263-32-3154
text: Discover Japan photo: Kiyono Hattori
Discover Japan 2021年5月号「美味しいニッポントラベル」
《松本十帖/長野県・松本市》
1|発酵文化が根づく信州で“自然の恵み”のひと皿を【前編】
2|発酵文化が根づく信州で“自然の恵み”のひと皿を【後編】
3|自然に負担をかけない天然醸造・木桶づくりの味噌蔵へ。「大久保醸造店」
4|宿泊は北アルプスの景色が望める松本本箱へ。