TRADITION

仏教の守護神「天」
空海が三次元化した密教の世界

2020.9.21
仏教の守護神「天」<br>空海が三次元化した密教の世界

京都・東寺の講堂にある立体曼荼羅。密教の教えを視覚化した曼荼羅を、空海がさらに3D化したものです。《空海が三次元化した密教の世界》では、立体曼荼羅を構成する21体の仏像を解説。空海が見せたかった密教の世界を体感してみてください。

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帝釈天と梵天をリーダーに
仏教を守る神々

東寺講堂の東西に、対になるように配される梵天と帝釈天は、ともにもとはインド神話の神だったものが仏教に取り入れられ、天の最高神となったもの。密教では、12の方角を守護する十二天にも数えられる。

梵天は、密教以前は中国風の礼服を着た一面二臂で表されていたが、密教では四面四臂、上半身は裸で表される。帝釈天も密教以前は中国風の礼服を着て、その下に甲をつけた姿で表されていたが、密教では上半身にたすき状の条帛、下半身に裳裾をつけた姿で表される。

東寺の両像は後補部分が多く、帝釈天像は体の右側部分を除く大部分が後に補修されたもの。梵天像では、3つの目をもつ正面の顔、体の右側、両足のみ、造立当初から残る部分である。梵天は4羽の鵞鳥の上の蓮華座、帝釈天は象の上に座しているが、いずれも後補部分のため、造立当初からの姿であるかは不明。ただ、弘法大師空海が唐からもたらした図像集には、同様の姿が描かれている。

帝釈天が住むとされる須弥山の中腹には、持国天、増長天、広目天、多聞天の四天王がそれぞれ東、南、西、北を守護するとされる。尊像の場合、密教以前は4体のうち1〜2体が目を見開いた怒りの表情で表されていたが、東寺の四天王像は、4体すべてが怒りを浮かべている。

ちなみに、東寺の四天王像はいずれも、台座を含めて一材から彫り出されたもの。手掛けた工人たちの技術の高さがうかがえる。

そもそも天とは?
「天上界(仏教で人間界の上にあると考える世界)に住むもの」を意味する。四天王のように武装した姿と、吉祥天のように柔和な姿で表されるものと大きくふたつに分けられる。

〝白馬の王子さま〟ならぬ〝白象の神さま〟
帝釈天騎象像
インド神話最強の戦闘神、インドラが仏教に取り入れられ、仏教の守護神である天の最高神となった。白象に乗った姿はほかに例が少ない。体の右側部分を除く大部分が後補。

国宝
木造彩色
坐高|105.4㎝(総高)
造立時期|平安時代839(承和6)年
配置場所|西端

4羽の鵞鳥が支える顔4面&腕4本の神様
梵天坐像
古代インドの神、ブラフマンが仏教に取り入れられ、帝釈天と並び天の最高神となった。四面四臂で、正面の顔には目が3つある。4羽の鵞鳥が支える蓮華座に乗っている。

国宝
木造彩色
像高|176.6㎝(総高)
造立時期|平安時代839(承和6)年
配置場所|東端

国を支えて治め、守る力をもつ
持国天立像
四天王のうち東方の守護神。両手に武器を持ち、右手を大きく振り上げ、足で邪鬼を踏みつける。目を大きく見開き、口を大きく開けて威嚇する形相は恐ろしく、迫力満点。

国宝
木造彩色
像高|183.0㎝
造立時期|平安時代839(承和6)年
配置場所|東南方

商売繁盛や開運出世のご利益もあり
増長天立像
四天王のうち南方の守護神。両手に武器を持ち、足で邪鬼を踏みつける。持国天以上に目を大きく見開いている。四天王の中で唯一頭を左方に向けた姿が特徴的。

国宝
木造彩色
像高|184.2㎝
造立時期|平安時代839(承和6)年
配置場所|西南方

千里眼で世の中を見渡し、悪を律する
広目天立像
四天王のうち西方の守護神。左手に武器を持ち、右手を大きく振り上げて、足で邪鬼を踏みつける。左肩から先と右手の肘から先は後補。ちなみに密教以前は筆と巻物をもつ尊像が多い。

国宝
木造彩色
像高|171.8㎝
造立時期|平安時代839(承和6)年
配置場所|西北方

七福神のメンバーとしての顔ももつ
多聞天立像
四天王のうち北方の守護神。毘沙門天の名で七福神にも数えられる。右手に宝塔、左手に武器を持ち、両側に邪鬼を従える地天女が足元を支える。ほかの3像と比べて後補部分が多い。

国宝
木造彩色
像高|197.9㎝
造立時期|平安時代839(承和6)年
配置場所|東北方
 

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空海の聖地へ。真言密教はじまりの地「東寺」

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text: Miyu Narita special thanks: Benrido
参考文献:『イラストでわかる 密教 印のすべて』(藤巻一保著・PHP研究所)、『空海辞典』(金岡秀友編・東京堂出版)、『KOYASAN Insight Guide 高野山を知る一〇八のキーワード』(高野山インサイトガイド制作委員会・講談社)、『国宝・重要文化財大全 4 彫刻(下巻)』(文化庁監修・毎日新聞社)、『仏像図典』(佐和隆研編・吉川弘文館)、『マンダラの仏たち』(頼富本宏著・東京美術)

2019年5月号 特集「はじめての空海と曼荼羅」


《空海の聖地を訪ねる。》
1|真言密教はじまりの地「東寺」
2|「大日如来と薬師如来」を比較で知る密教の個性
3|秘境の宗教都市「高野山」が生まれた理由
4|修行の場を曼荼羅化した「壇上伽藍」
5|入定した空海が生き続ける「奥之院」

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