神奈川県鎌倉市《陶芸家・岡崎慧佑》
一期一会の模様に出会えるうつわ

陶芸作家である岡崎慧佑さんのうつわは、どんな料理も引き立てる“究極の日用雑器”。手作業から生み出される無作為に現れる模様が、唯一無二の美しさをもつ。使えば使うほどに味が出てくる、育てる愉しみがあるうつわの魅力とは?

岡崎慧佑(おかざき・けいすけ)
大阪府生まれ。鎌倉を拠点に作陶する。2025年6月には、Discover Japan Lab.にて「岡崎慧佑 ミニ個展」を開催予定。
どんな料理も引き立てる
“究極の日用雑器”

うつわが料理を引き立てるとはよくいうが、岡崎慧佑さんが志すのは究極の日用雑器。「買ってきた総菜を盛りつけるだけでもカッコいいと言われたことがあり、それはよかったと思ったことがありました。だからうつわに興味がなかったとしても、機会があれば使ってもらい、それで少しでも気分が上がればありがたいことだなと思っています」と、作品自体は一流シェフやうつわ好きに選ばれる陶芸品でありながら、作家自身は何げない食卓を彩る日用品でありたいと願っている。
焼きや磨き…
工程を重ねることで生まれる色

そんな岡崎さんの作品の持ち味は、鉱石や岩肌に似たまだらな質感。だが、その表現があながち間違いでないのは、無作為に現れる模様を一つひとつ手作業で生み出しているため。技法自体は「焼締め」や「化粧掛け」といった普遍的な方法を用いているものの、スポンジを使って色絵具を塗布することで微妙な濃淡を調整。鑢をかけることで、色絵具の下に潜む生地の黒色を浮かび上がらせていくが、力加減ひとつで深い赤になることや、鮮やかな赤になることも。手数が多いため完成までには半月近くもかかるというが、そんな一期一会のうつわには自然物に似た“いびつな美しさ”が宿っている。
「非効率なつくり方なので、できるけどもやらないのがほとんどかと思います。けれども、手間をかけていいものになるのであれば、僕にはこれが近道だと思っていて。自分の表現をいいって言ってくれるのであればありがたいですし、自分のやりたいことを突き詰めたいといった気持ちです」と妥協を許さない姿勢。
この心境にたどり着いたのは岡崎さんが苦労人だからこそ。独立後も長らく停滞期が続き、アルバイトや陶芸教室の講師などを掛け持ちしながら自身の作風を模索していた。もう駄目だと思った時期に、現在の作風の原点となる作品を東京・渋谷のうつわギャラリー・うつわ謙心のグループ展に出したところ、作家としてひと筋の光が差した。

独立してから作風を確立するまでには12年ほどかかったそうだが、そこまで歳月をかけて紡がれた作品にもかかわらず、まっさらの状態のうつわの完成度は50~60%。使い手に渡った時点では、まだ作品は完成していないという。「釉薬を使っていないものも多いので、繰り返し使っていくと少しずつ色が深く変化していきます。使い込んだものだけに宿るカッコよさが出てくると思うんです」と、使えば使うほどに味が出てくるさまは、デニムや革製品を育てていく工程に似ていると岡崎さんは話す。
長い歳月と途方もない手間暇から生まれた作品は、陶芸作家・岡崎慧佑の歴史。そこに各家庭での食卓の歴史が刻まれてくいくことで、うつわは完成形へと近づいていく。
作品ラインアップ

マグカップ 赤
食事にもコーヒーブレイクにもうれしい大容量サイズ。腰の適度な丸みは、かわいらしさと安定感のバランスを追求したたまもの。

オーバル皿 赤
前菜からデザートまでマルチに使える深さを計算した一枚は、ワンプレートごはんにも最適。アンティーク食器から着想を得た。

8寸リム深皿(カレー皿)赤
カレー皿とは銘打ちつつも、オーバル皿同様マルチな一枚。パックごはんとレトルトカレーだけでも幸せな気分にしてくれる。
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岡崎慧佑の作品がオンラインで買える!
公式オンラインショップ
Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~21:00
定休日|不定休
公式Instagram|@discoverjapan_lab
※サイズ・重量は掲載商品の実寸です。同じシリーズでも個体差があります。
text: Natsu Arai photo: Shiho Akiyama
2025年3月号「ニッポンのまちづくり最前線」