陶芸作家《内田可織》
大事に育てて受け継ぐ一生ものの土鍋【前編】

愛らしいフォルムや温かみのあるデザイン、豊かな自然が薫るアーシーな色使いが印象的な陶芸作家・内田可織(kaori uchida)さんの土鍋。実用性とデザイン性を両立し、世界的な料理集団「ノーマ(noma)」の京都で開催したポップアップで内田さんの土鍋が採用された。どこに置いても馴染み、映える。そんな食卓を彩る、一生ものの土鍋はいかがですか。
内田可織(うちだ かおり)
美術大学卒業後、陶芸作家へ。オブジェからはじまり暮らしの道具へ。デザインと実用を兼ね備えた土鍋には、料理のプロにもファンが多い。
オブジェのような感覚で土鍋を生み出す

コロンとした丸型、すっと伸びた縦型、安定のキャセロール型など、さまざまな土鍋が並ぶ。愛らしいフォルムながら洗練された雰囲気が漂うのは、濃淡を利かせたアーシーな色使いやどこかオブジェを思わせるデザインによるものだろうか。
内田可織さんの土鍋は、“映える”デザインはもちろん、実用性の高さにも定評がある。

「私自身が一番の使い手なので、使いやすさにはこだわります。鍋は重くても軽過ぎても使いにくい。火が当たる鍋底は焦げつかないように厚めにして、横は軽さを出すために薄く削る。蓋もできるだけ軽く仕上げます」
片手で蓋がさっと取れる便利さは、日々料理をする人間でないとわからないもの。また持ち手のない炊飯用の鍋には、持ちやすく手が滑らないような工夫を取り入れる。使い手としての便利さや使いやすさをデザインへときちんと落とし込んでいる。

内田さんはなぜ土鍋を手掛けはじめたのか、そもそもどうして陶芸の道に進んだのだろうか。
幼い頃から油絵を学び美術大学へと進学。しかし大学では才能豊かな人間の多さに圧倒されたという。「うまい人が多過ぎて。絵で生きていく難しさを痛感しました。そんなときに履修した陶芸の授業がおもしろくて、その魅力にハマっていきました」
仕上げるまで対峙する絵とは違って、最後を窯にゆだねる陶芸は、内田さんにとって新鮮な経験だったそう。窯へと手放した先に生まれる可能性へ導かれるように、陶芸の道を歩みはじめる。

当初はアート作品としてオブジェを手掛けていたが、20代半ばから暮らしの道具にも挑戦。試行錯誤を繰り返し、どこかアート感をまとう道具やうつわを、自らのかたちとして究めていく。土鍋を手掛けはじめたのは、30歳を過ぎた頃だ。欲しいと思える土鍋がないのがきっかけだった。
「どこに置いていてもさまになるような土鍋が欲しい。どこにもないならば私がやってみようと、それで焼きはじめました」
ギャラリーに出展すると、いままでとは違った新しい土鍋に、目の肥えた人たちが反応。かたちやサイズ、色みなど、要望に応える中でその世界はどんどん広がっていく。
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text: Yukiko Mori photo: Maiko Fukui
2025年1月号「ニッポンのいいもの美味いもの」