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KUROMORI<クロモリ>
宮城県の自然派中華【後編】
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン

2021.2.16
KUROMORI<クロモリ><br>宮城県の自然派中華【後編】<br><small>犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン</small>

どんな小さな店でも、どんな辺鄙な場所でも、『ホンモノ』であれば、必ず人は引き寄せられる。今月も強烈な一店に出合いました!今回は、宮城県仙台市にあるレストラン「KUROMORI」を前後編記事でご紹介します。

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宮城県でしか実現しない
黒森シェフの宮城中華

齋籐豚の炭焼叉焼/角田
齋藤さんの育てる豚は軟らかくて脂の部分が甘い!炭火焼きで香りも美味しい叉焼に。皮目はパリッと、中身はレア。絶妙な火入れ

地元に知り合いがいないため、餃子店を出すときも仕入れには苦労した黒森シェフ。

「電話をすれば、すぐに注文できると思っていたのですが、そんなに簡単ではなかったんです」

料理人が使いたい食材を選ぶように、生産者も丹精込めて世話をしてきた食材をどんな料理人がどう扱うかを知りたい。安心して託すことができる相手かどうか信頼を得なければ何事もはじまらなかった。黒森シェフが最も会いたかったのは、フカヒレ・アワビを扱う「マルヤ五洋水産」や「石渡商店」、齋藤豚の「齋藤ファーム」などの生産者。新店は高級素材あってこそだが、まだ店もできていない。断られて当然だが、宮城の一番いいものを使う必要があった。黒森シェフは何度も必死で説明をして、ようやく取引に応じてもらった。

2014年11月、新店舗「クロモリ」が仙台市若林区にオープン。現在はよりゆったりした滞在をしてもらうため向山・鹿落坂に移転した。コースのみ、昼は1万2000円、夜は1万5000円と2万5000円の完全予約制。カウンター7席、テーブル3席のみだが、ゆったりとした空間が広がり、窓の外には広瀬川が望める。ホール担当の小岩清高氏は、ソムリエ資格をもち、コースに合わせたペアリングも用意している。

ほぼ99%宮城県産の素材を使ったコースを食べ終えて感じることは、一皿ひと皿非常にシンプルに仕上げていること。そして中国料理にもかかわらず香辛料などを控えめにしているおかげで素材の味が非常にクリアに、なぜかホッとする旨みを感じる。

「それは味を引き出すために昆布や鰹節、アゴなどの和風の出汁を使っているからだと思います」。新しい店には思いの込もった素材が揃った。美味しさをシンプルに引き出したい。そこで黒森シェフは大胆な手法を執った。

「『味付けをする』中国料理ではなく、『余計な味は引く』日本料理の考え方がぴったりきたんです」

中華スープをベースに料理に合わせ日本の出汁を取り入れている。「たとえば昆布。ベースにしたいときは最初から使い、香りにとどめたいときは最後に入れるなど、そのタイミングもいろいろ試して決めています」

宮城県の素材と日本の出汁。技法は中国料理、そして飲み物はちゅうちょなくワインを合わせる。その組み合わせはバラバラなようで、実は美味しさを求めたひとつの到達点。宮城県とは縁もゆかりもなかった黒森シェフがいまや宮城県の素材のエキスパートに成長。これからその知識をどう生かすのか?その活動に注目したい!

宮城県=“中華県”を決定づけるフルコース

前編の2品と、このページの料理・デザートを合わせて12品、2万5000円。わざわざ県外から訪れる人は圧倒的に2万5000円コース。季節ごとに素材が違うので、4シーズン通いたくなる。

宮城県涌谷町は日本ではじめて金が産出。それで「黄にら」ではなく「金にら」。クラゲと鶏肉を細かく切って和え物に。

〈金にら〉

鰹・真鯛の椒麻ソース/石巻

山椒とネギとショウガのソースが、爽やかな酸味と辛み。石巻の鰹・真鯛は味ものっていて“中華風お造り”。

野田鴨の黒酢ソース/角田

野田鴨は業務用のため、一般の市場には登場しないが、こだわった店では人気の素材。脂のりがよく、軟らかくてクセがない。

〈野田鴨〉

秋刀魚の春巻/気仙沼

脂ののったサンマを春巻にして。アツアツ、揚げたてで出てくる。1人前1/2本だが、ぎゅっと巻いたボリュームはかなりのもの。酢橘を搾ってさっぱりと。

空芯菜の炒め/色麻

中華料理の食卓に青菜炒めは欠かせない。シンプルに上湯スープと出汁を含ませて炒める、いわば日本のお浸し。野菜は季節ごとに替わる。

〈空芯菜〉

漢方牛ヒレ肉の豆鼓ソース/築館

漢方牛は、牛肉本来の美味しさを引き出すため14種類のハーブをブレンドした飼料で育てた健康な和牛。大徳寺納豆を混ぜた豆鼓ソースで。

〈牛ヒレ肉〉

干鮑・干海参/南三陸
蛸の鮑汁炒飯/志津川

シイタケ、タコ、干アワビ、ナマコ

〆のご飯は、なんとも贅沢な乾物汁かけ炒飯。南三陸産の干アワビ、ナマコ、タコ、シイタケで炊いた豪華スープを含ませた炒飯。

ジャージー牛乳杏仁豆腐/大崎
赤鶏あずさ玉子の蒸しカステラ/岩出山

新鮮なジャージー牛乳と杏仁でつくったプルプルの杏仁豆腐。口の中でつるんと弾けて消える。カステラは健康な鶏が産んだ濃厚な卵のコクをそのまま閉じ込めた一品。ほんわか温かく、甘みもやさしい。

スープは贅沢に!

「吉品鮑の煮込み」をつくる工程。スープを取り出して炒飯に使用

中華を引き立てる酒も充実

ワインペアリング1万500円

左から、
①ウーリエパチュール キュヴェ ブランドノワール‘イメルション’ブリュット グランクリュ
②アフリカンブラザーズラムズフック ピノタージュ2014
③橘屋 特別純米 雄町
④マルセル・セルヴァン シャブリ グラン・クリュ ブランショ プライベート2013
⑤ドメーヌ・ラロッシュ シャブリ グラン・クリュレ・ブランショ・ラ・レゼルヴ・ド・ロベディエンス2014
⑥ドメーヌ ミエイケノ メルロー2016
⑦キンズマラウリ ピロスマニ2015

KUROMORI(クロモリ)
住所|宮城県仙台市太白向山2-2-1
Tel|022-211-0306
営業時間|18:30または19:30~22:00
定休日|日曜、祝日 ※完全予約制の二部制

https://kuromori.jimdofree.com/

text:Yumiko Inukai,photo:Muneaki Maeda
Discover Japan 2018年11月号『ミュージアムに行こう!』

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