HOTEL

富山の“土徳”を体感する宿
《楽土庵 / らくどあん》
原風景×滞在で土着の文化に出合う旅【後編】

2023.4.22
富山の“土徳”を体感する宿<br>《楽土庵 / らくどあん》<br><small>原風景×滞在で土着の文化に出合う旅【後編】</small>

富山県西部に広がる砺波平野。豊かな水を蓄えた田んぼのそばに、古民家が佇む。自然と人々の数百年にわたる営みが投影された眺めに、胸を打たれる。古民家を再生し新しい息吹が吹き込まれた宿で、この土地がもつ大いなる力を体感したい。

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富山の滋味とうつわが響き合うイタリアン

富山を中心とする北陸の海・山・里の素材をふんだんに使う、楽土庵のレストラン「イル クリマ」。ここでは、郷土料理をイタリアンの手法でアレンジした美食に出合える。
 
「イタリアでは20の州それぞれに、個性的な郷土料理があります。それならと、ここ富山を21州目ととらえて、この地に長年にわたり伝わる素材やレシピを取り入れました」とシェフの伊藤雄大さん。新感覚の郷土料理は、地元から訪れる宿泊客にも、驚きと感動をもたらしている。たとえば「よごし」と呼ばれる葉物料理は、大根などの葉をゴマ油で炒め、味噌で味つけする富山の定番総菜。それを味噌の代わりにとろりとした白子にバターを加え、イタリアンらしく仕上げている。
 
供されるうつわは、スリップウェアの第一人者・柴田雅章さんや、韓国出身で富山に住む金京徳さん、ワインボトルなどをアップサイクルする木下宝さんなど現代作家のものも多数。
 
「新鮮で美味しい地元の食材に、作家の方々が丹精込めたうつわなど、いただいた他力をいかに生かせるかを常に考えながら、料理しています」。

1品目/小さな愉しみ
右から鯖バーガー、せんべいにのせたポークのリエット、ポレンタのチップにのせた干しダラペーストとキャビア
2品目/白子 よごし
根菜類の葉を炒めた富山の郷土料理「よごし」。味噌の代わりに使われた旨み深い白子のとろみと相性がよい
3品目/目近鮪 蕪
レアに焼き上げ、口の中でとろけるほどのメジマグロを、南砺産の赤カブをおろしたみぞれあんでいただく
4品目/香箱 花椰菜
カニ味噌とジャガイモなどをタルタルにして菜の花で包み、上にカニ身と卵を。カリフラワーのピューレとともに
5品目/牡丹 タリアテッレ
富山産小麦・ゆきちからを使って打った自家製生パスタに、氷見で捕れた旨み深いイノシシ肉のラグーをからめた
6品目/雄山錦 牡蠣
富山生まれの酒米・雄山錦をじっくり炊いたリゾット。能登牡蠣と相まって、山海の滋味がじんわり広がる
7品目/甘海老 コンソメ
パリパリの海老せんの上には、根セロリと甘海老とラビオリを。口に含めばじゅわっとコンソメスープがあふれる
8品目/鰆 玉菜
生ハムを挟んだキャベツで巻いたサワラを、ナガラ藻のとろりとしたバターソースで。クワイのフリットも添えて
9品目/寿五位
高岡のブランド牛・寿五位(すっごい)のステーキに、赤ワインソースをからめて。ジャガイモ、ニンジンの極薄チップスと、ヒラタケのソテーの食感も快い
お口直し/林檎のパンナコッタ
富山産ふじリンゴを薄くスライスして花びらのように仕立てた下には、優しい甘みのパンナコッタが隠れている
10品目/栗山
チョコレートで表した“水”の上にモンブラン、ユズのメレンゲを飾って。木イチゴのソルベも爽やかな味わい
11品目/小さな幸せ
〆は右から、イタリア伝統菓子のバーチ・ディ・ダーマ、米粉フィナンシェ、干し柿入りチョコレートサラミ

地元の日本酒、ウイスキー、ワインも合わせて楽しみたい
 
砺波市にある若鶴酒造の純米大吟醸「瑤雫(ようのしずく)」とウイスキー「SUN SHINE」、南砺市のワイナリー・トレボーの「Domaine Beau」 の白・赤に、本場イタリアのワイン「LUCE DELLA VITE」まで充実のラインアップ

富山の野菜とフルーツが中心の身体が喜ぶ朝食

二段の丸いお重を開けると、南砺市産のカボチャをはじめオーガニックの野菜やフルーツが彩りよく入り、ドジョウの南蛮漬け、砺波産ヨーグルトなど富山らしい品々も。ジャムは自家製

散居村を愉しんで心を潤す特別な体験

楽土庵に滞在する楽しみは、そのユニークなアクティビティにもある。まずおすすめは、宿泊者が皆、参加できる散居村ウォーク。楽土庵のある野村島周辺を1時間前後かけて歩く。かつて修験道が盛んだった立山をはじめとする霊山を眺め、それを背景に広がる水田は、加賀藩の領地でつくられた「加賀百万石」のうち25万石もの米を生産したという。江戸時代、加賀藩によって整えられ、いまも清らかな水が流れる水路、人々の信仰の中心となってきた寺院や石仏などもゆっくりめぐる。
 
楽土庵のスタッフが、古民家の周囲に生える屋敷林・カイニョの多様な植生も教えてくれる。防風林も兼ねるカイニョが砺波平野に穏やかな気候を導くこと、木々は家や調度品の材や燃料・肥料にもなるなど、大地と人がともにつくり上げてきたエコシステムも知れる。遮るものが何もない空の下、静かな田園道を歩いていると、すっと心が凪いでいくようだ。
 
宿では、富山の森で育った樹木から抽出した精油を使ったアロマ体験も用意。好みの香りをブレンドし、自分だけの〝森の香り〟を、五感を澄ませてつくるのは何とも贅沢なひとときだ。また加賀藩で奨励され、長い歴史をもつ茶道の点前や、地場の工房見学なども希望に合わせて体験できる。
 
宿にしつらえられている民藝の作品や工芸品は、多くが購入もできる。それは「つくり手、使い手、運び手の三者がいてこそ美は伝わる」という民藝の考えから。美しいものと過ごす時間が、暮らしに豊かさをもたらし、三者を育てることにつながる。それはものだけでなく、楽土庵を囲む景観にも当てはまるだろう。
 
息をのむ美しさの散居村も、近年米需要の減少や農家の担い手不足などで、景観とともに文化や信仰、コミュニティも失われようとしている。そこで楽土庵では、宿泊費の2%を散居村保全活動の基金に。富山の土徳を感じ伝えることが、旅人と地域双方の再生につながるという「リジェネラティブ・ツーリズム」の提案だ。
 
「土徳はどの土地にもあるもの。ここ富山の豊かな土徳に触れることを糸口にしてほしい」とプロデューサーの林口さん。日本の原風景に身を置いて自分を癒し、再生するひととき。それが、地域の〝自慢〟を守ることにもつながるなら、うれしいことだ。究極のリトリート体験をぜひここで。

アロマ体験では、アロマボディオイルとアロマスプレーをつくる。立山杉、クロモジ、檜、サワラなど10種の精油をすべて嗅いで、好みの香りを2〜4種ほど選び、無水エタノールと調合。五感を研ぎ澄ませ、自分だけのオリジナルの香りを生み出すのは、まさに癒しの時間
散居村ウォークでめぐる野村島には心を潤す眺めが広がる。杉、檜などから果樹まで植わる屋敷林。田畑の間を縫うように張りめぐらされた用水路には清らかな水が
地蔵菩薩や聖徳太子像など数多の石仏が大切に守られてきたのは、信仰心の篤いこの地ならでは。その数は砺波平野全体で5500体にも上る
ラウンジ併設のバーコーナーには「藤岡園」の煎茶にクロモジ茶、「自家焙煎珈琲くらうん」によるブレンドコーヒー、「三郎丸蒸留所」の梅酒やスナックなど富山の美味が並び、自由に楽しめる。冷蔵庫には地元のクラフトビールやリンゴジュースも
ブティックでは富山の山海の幸に、レストランでも使用しているうつわや工芸品も充実。高松太一郎さんデザインのヴィンテージの生地を使った一点ものの羽織や、河井寬次郎などの民藝巨匠の作品も購入可

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楽土庵
住所|富山県砺波市野村島645 
Tel|0763-77-3315 客室数|3室
料金|1泊2食付4万3000円〜(税・サ込) 
カード|VISA、Master、JCB、DINERS、AMEXなど 
IN|15:00 
OUT|11:00 
夕食|レストラン 
朝食|レストラン
アクセス|車/北陸自動車道砺波ICから約6分 電車/JR高儀駅から徒歩約10分 
施設|レストラン、ラウンジ、ライブラリー、ブティック
www.rakudoan.jp

text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Norihito Suzuki, Nik van der Giesen, Yuki Tanaka
Discover Japan 2023年4月号「すごいローカル見つけた!」

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