富山の“土徳”を体感する宿
《楽土庵 / らくどあん》
原風景×滞在で土着の文化に出合う旅【後編】
富山県西部に広がる砺波平野。豊かな水を蓄えた田んぼのそばに、古民家が佇む。自然と人々の数百年にわたる営みが投影された眺めに、胸を打たれる。古民家を再生し新しい息吹が吹き込まれた宿で、この土地がもつ大いなる力を体感したい。
富山の滋味とうつわが響き合うイタリアン
富山を中心とする北陸の海・山・里の素材をふんだんに使う、楽土庵のレストラン「イル クリマ」。ここでは、郷土料理をイタリアンの手法でアレンジした美食に出合える。
「イタリアでは20の州それぞれに、個性的な郷土料理があります。それならと、ここ富山を21州目ととらえて、この地に長年にわたり伝わる素材やレシピを取り入れました」とシェフの伊藤雄大さん。新感覚の郷土料理は、地元から訪れる宿泊客にも、驚きと感動をもたらしている。たとえば「よごし」と呼ばれる葉物料理は、大根などの葉をゴマ油で炒め、味噌で味つけする富山の定番総菜。それを味噌の代わりにとろりとした白子にバターを加え、イタリアンらしく仕上げている。
供されるうつわは、スリップウェアの第一人者・柴田雅章さんや、韓国出身で富山に住む金京徳さん、ワインボトルなどをアップサイクルする木下宝さんなど現代作家のものも多数。
「新鮮で美味しい地元の食材に、作家の方々が丹精込めたうつわなど、いただいた他力をいかに生かせるかを常に考えながら、料理しています」。
地元の日本酒、ウイスキー、ワインも合わせて楽しみたい
砺波市にある若鶴酒造の純米大吟醸「瑤雫(ようのしずく)」とウイスキー「SUN SHINE」、南砺市のワイナリー・トレボーの「Domaine Beau」 の白・赤に、本場イタリアのワイン「LUCE DELLA VITE」まで充実のラインアップ
富山の野菜とフルーツが中心の身体が喜ぶ朝食
二段の丸いお重を開けると、南砺市産のカボチャをはじめオーガニックの野菜やフルーツが彩りよく入り、ドジョウの南蛮漬け、砺波産ヨーグルトなど富山らしい品々も。ジャムは自家製
散居村を愉しんで心を潤す特別な体験
楽土庵に滞在する楽しみは、そのユニークなアクティビティにもある。まずおすすめは、宿泊者が皆、参加できる散居村ウォーク。楽土庵のある野村島周辺を1時間前後かけて歩く。かつて修験道が盛んだった立山をはじめとする霊山を眺め、それを背景に広がる水田は、加賀藩の領地でつくられた「加賀百万石」のうち25万石もの米を生産したという。江戸時代、加賀藩によって整えられ、いまも清らかな水が流れる水路、人々の信仰の中心となってきた寺院や石仏などもゆっくりめぐる。
楽土庵のスタッフが、古民家の周囲に生える屋敷林・カイニョの多様な植生も教えてくれる。防風林も兼ねるカイニョが砺波平野に穏やかな気候を導くこと、木々は家や調度品の材や燃料・肥料にもなるなど、大地と人がともにつくり上げてきたエコシステムも知れる。遮るものが何もない空の下、静かな田園道を歩いていると、すっと心が凪いでいくようだ。
宿では、富山の森で育った樹木から抽出した精油を使ったアロマ体験も用意。好みの香りをブレンドし、自分だけの〝森の香り〟を、五感を澄ませてつくるのは何とも贅沢なひとときだ。また加賀藩で奨励され、長い歴史をもつ茶道の点前や、地場の工房見学なども希望に合わせて体験できる。
宿にしつらえられている民藝の作品や工芸品は、多くが購入もできる。それは「つくり手、使い手、運び手の三者がいてこそ美は伝わる」という民藝の考えから。美しいものと過ごす時間が、暮らしに豊かさをもたらし、三者を育てることにつながる。それはものだけでなく、楽土庵を囲む景観にも当てはまるだろう。
息をのむ美しさの散居村も、近年米需要の減少や農家の担い手不足などで、景観とともに文化や信仰、コミュニティも失われようとしている。そこで楽土庵では、宿泊費の2%を散居村保全活動の基金に。富山の土徳を感じ伝えることが、旅人と地域双方の再生につながるという「リジェネラティブ・ツーリズム」の提案だ。
「土徳はどの土地にもあるもの。ここ富山の豊かな土徳に触れることを糸口にしてほしい」とプロデューサーの林口さん。日本の原風景に身を置いて自分を癒し、再生するひととき。それが、地域の〝自慢〟を守ることにもつながるなら、うれしいことだ。究極のリトリート体験をぜひここで。
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楽土庵
住所|富山県砺波市野村島645
Tel|0763-77-3315 客室数|3室
料金|1泊2食付4万3000円〜(税・サ込)
カード|VISA、Master、JCB、DINERS、AMEXなど
IN|15:00
OUT|11:00
夕食|レストラン
朝食|レストラン
アクセス|車/北陸自動車道砺波ICから約6分 電車/JR高儀駅から徒歩約10分
施設|レストラン、ラウンジ、ライブラリー、ブティック
www.rakudoan.jp
text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Norihito Suzuki, Nik van der Giesen, Yuki Tanaka
Discover Japan 2023年4月号「すごいローカル見つけた!」