富山の“土徳”を体感する宿
《楽土庵 / らくどあん》
原風景×滞在で土着の文化に出合う旅【前編】
富山県西部に広がる砺波平野。豊かな水を蓄えた田んぼのそばに、古民家が佇む。自然と人々の数百年にわたる営みが投影された眺めに、胸を打たれる。古民家を再生し新しい息吹が吹き込まれた宿で、この土地がもつ大いなる力を体感したい。
宿の中で民藝の神髄に触れる
伝統工法で建てられた古民家を再生したホテル「楽土庵」。大きな梁が渡された心地よいラウンジには、民藝を代表する染色家・芹沢銈介の屛風が佇んでいる。実は、民藝と富山には浅からぬ縁がある。民藝運動の創始者・柳を師と慕った棟方志功は、疎開先の富山で7年近くを過ごした。柳が富山に棟方を訪ねた際、それまでの我執が消えた棟方の作品に驚く。この地で「大きないただきものをした」と棟方は言い、柳はそれを〝土徳〟と評した。土徳とは自然と人がつくり上げてきた、土地がもつ品格のようなものを指す。
16世紀以降広まった阿弥陀信仰がいまも篤い富山。人々は「おかげさま」の精神で、神仏や大いなる自然への感謝を胸に、家々に集っては法要を営んできた。その精神は、名もなき職人のうつわに美を見出し、人のはからい(作為)を超えた大きな力=「他力」を重んじる民藝の思想にも影響を与え、柳はそのひとつの結実として、論考『美の法門』を富山で書き上げた。つまり、ここは民藝思想が完成した地といえる。楽土庵で民藝の品々が配され、その心と触れ合えるゆえんだ。
原風景のある客室で富山の自然と一体になる
楽土庵の客室は、「土 do」、「絹 ken」、「紙 shi」と名づけられた全3室。それぞれ名前の通り、天然由来の素材がふんだんに使われ、心が伸びやかになる空間だ。「土」は左官職人による土壁に加え、土を扱う現代作家・林友子さんによるアートワークが床の間壁に施され、落ち着きの中に華やかな煌めきを放つ。「絹」は、富山伝統の城端絹を扱う唯一の工房・松井機業による「しけ絹」に包まれた部屋。そして「紙」は、和紙職人・ハタノワタルさんによる手漉き和紙が、壁から天井まで貼られている。どの部屋も障子の向こうにはウッドデッキが設けられ、窓を開ければ散居村の自然と一体になれる。
北欧の椅子やテーブル、李朝の家具など古今東西のインテリアに、濱田庄司、河井寬次郎といった民藝の巨匠のほか、現代作家の工芸品がしっくりと馴染む。「柳宗悦は『はからい(作為)は美を殺戮する』と言っていますが、逆に『はからい』を離れ、大いなる力に任せた他力の美、普遍の美しさを宿す品々は、時代や地域を越え、お互いに調和するようです」とプロデューサーの林口砂里さんが語ってくれた。
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text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Norihito Suzuki, Nik van der Giesen, Yuki Tanaka
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