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《光井威善》
カラフルだけどモノトーン。ガラスのうつわがアート空間を生み出す

2023.3.30
《光井威善》<br>カラフルだけどモノトーン。ガラスのうつわがアート空間を生み出す

いまうつわ好きが熱視線を送るガラス作家・光井威善さん。カラフルながらもモノトーンのような落ち着きを纏う光井さんのうつわは、唯一無二の存在感を放つ。抜群のバランス感覚と技術力で生み出される光井さんのガラス作品とその背景に迫る。

渋谷パルコのDiscover Japan Lab.および公式オンラインショップでは一部作品を取扱中!

光井威善(みつい たけよし)
1987年広島県福山市生まれ。2010年に倉敷芸術科学大学芸術学部工芸・デザイン学科、2012年に同大学院の芸術研究科工芸専攻を卒業後、富山ガラス工房に所属し、2016年に独立。オーストラリアでの滞在制作を経て、現在は富山にて制作活動を行っている。

図工と体育、その先のガラス作家

ガラス作家の光井威善さんは、小さい頃から勉強が苦手。唯一好きだった科目が図工と体育だった。
「身体を動かすことと、ものづくりに興味がありました。図工の時間だったらどれだけあってもいいと思っていたんです。でも、制作だからといって絵画や彫刻をやりたかったわけでもなくて…僕は普通の人間なんで(笑)ただ漠然とものづくりをしていただけなんです」
大学は倉敷芸術科学大学へと進み、工芸を選択。1年目は陶芸・ガラス・染色・デザインを満遍なく学んだ。
「2年目、実は陶芸のコースに進みたいと思っていました。ガラスは次点でした。ただ、ここでガラスを選ばなかったら、次のタイミングはないとも感じていました。逆に陶芸はいま選ばなくてもまたチャンスはあるかもしれないと思ったんです」
ここから、光井さんのガラス制作がはじまった。
「ガラスは手先だけではなく、身体全体を使って制作するんです。夏なんてもう汗がすごくて、ほぼスポーツですよ」
後から気づいたというが、なぜこんなにもガラス制作が楽しいのかを考えた時、ずっと好きだった「図工と体育」がそれにつながっていると感じた。何でも器用にこなしてきた光井さんも、ガラスには手こずったという。それも制作意欲をかき立てるのだ。

忙しい日々と実用的なうつわへの目覚め

卒業後は、ガラス制作が盛んな富山へと拠点を移す。
「富山ガラス工房は作家育成も目的にしていて、基本的には4年間しか働けないんです。独立前提、そういうスタンスがいいなと思って入りました」
所属してみると、全国からの注文品をひたすら制作する日々が続いた。
「自分でデザインすることはほとんどなくて、ルールがある中で制作するんです。とにかく毎日忙しくて、勤務時間には終わらず休みもなかったです。企業のトロフィーや、引き出物のうつわが多かったですね。自分自身の制作は全然できなかったので、いま思うと空白の4年間でした。でも、技術はすごく磨かれたし、引き出しは増えました」
光井さんは学生時代はどちらかというとアーティスティックな作品を制作していた。どれだけ個性を出せるか独りよがりだったとも振り返る。
「富山ガラス工房でたくさん手を動かし、さまざまなものに触れることで、実用的なうつわも好きになれました」
一方で…
「制作が流れ作業になることも多かったです。自分が納得のいく作品が作れているのか、作品を手にした人は長く愛用してくれているのか悩むこともありました」
生み出す以上は自分が気に入っていることはもちろん、使う人にも喜んでもらいたいと、つくり手としての責任感も芽生えた。

2023年に設立される光井威善さんの個人工房近辺の風景
制作風景

「silence」と「bottle people」のバランス

明るい色遣いにもかかわらず落ち着いた印象を受けるカラーグラス「silence」

「しっかり時間をかけて、1点ものという意識を強く感じさせるものをつくりたいと思っています。うつわとはいえ、オブジェみたいな…」
光井さんの代表作「silence」、特筆すべきはその色の組み合わせの妙だ。明るい色遣い、にもかかわらず異様なまでの落ち着きを感じる、不思議な印象を受ける。

「実は僕は色弱で、大多数の人とは色の見え方が違うんです。青と紫、黄と黄緑をよく間違えます。だからかもしれないけど、『色』にはすごく興味があるんです。僕のでたらめな組み合わせを弱点じゃなく、むしろ強みとして生かせないかなと考えて、このかたちになりました。どの色を組み合わせても、それぞれのイメージにズレがないようにしています」

カラフルだけどモノトーン、ポップさを鎮めるその秘密は制作過程にある。2色のガラスを組み合わせた段階ではまだツヤのある状態だ。その後、外側に1mm幅で縦にラインを入れ、全体を目の細かいやすりで削る。まるで薄い膜をはったような加工は、カラフルなうつわをやさしいトーンで包み込む。光井さんは、透明の液体を入れるとガラスのオブジェのように見えて美しいと教えてくれた。また、色のついた液体でもぜひ試してほしい。グラスとその色の組み合わせがはまった瞬間、ちょっとした高揚感が湧き上がる。

いままで培ってきた知識、見たものを反映させた計画的なものがsilenceであれば、ルールのある制作から自由を求めたのが「bottle people」だという。

「silenceとは逆で、オブジェなんだけどうつわっぽいものを目指しています。アートピースによりすぎない、気軽さを表現しました。「人」モチーフって顔がつくだけでちょっと怖くなりがちだけど、そこをおもしろくしたい。この透明感でアクを抜いているんです。普段オブジェを買わない人にも触れてほしい思います」

自分の2面性を表現するかのような2つの作品だという。これらが共存して光井さん自身もバランスをとっている。
「どっちでもありたいと思ってます。スーツ着て格好よくしてるのがsilenceなら、パジャマ着たままこたつに入っているのがbottle peopleですかね(笑)」

光井さんが自由な感性と高い技術力で生み出す、可愛らしい佇まいのアートピース「bottle people」

いまの制作は趣味ではない。常に誰かとかかわりながらものづくりをしなければいけない。自分のことは見失わないよう、でもたまには裏切っていきたいと光井さんは話をしてくれた。今後もバランスをとりながら、制作を楽しいと思える状態であり続けたいという。

読了ライン

 

公式オンラインショップ
 

Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00〜21:00
定休日|不定休
※最新情報は、公式Instagram(@discoverjapan_lab)などで随時紹介しています。ぜひチェックしてみてください!

 

 

text=Wakana Nakano

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