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染色工房《染司よしおか》
平安貴族の雅な「かさねの色目」とは?【前編】

2024.12.10
染色工房《染司よしおか》<br>平安貴族の雅な「かさねの色目」とは?【前編】

絹地を染めるのは、目が覚めるように鮮やかな、透明感ある色。これが「日本の伝統色」だといえば、意外に感じる人もいるかもしれない。今日、和のイメージとして語られがちな少し濁りある色は、戦国時代以降の「わび・さび」の影響を受けたもので、王朝時代を彩った色はもっと鮮やかで澄んだ輝きをもっていたという。

平安時代の書物にあたり、往時の色の再現に力を注ぐ京都の染色工房「染司よしおか」を訪ねた。

平安の色の美とは?

茜で染色中の工房。茜を煮出して色素を抽出した液を湯に加えて染め、水洗いし、ミョウバン液に入れて発色・定着させる。この工程を何度も繰り返すことで深い色合いに

江戸時代から200年以上続く染色の老舗「染司よしおか」。洛中の芦刈山町で創業、戦後に移転して現在は京都市伏見区の向島に工房を構えている。京都の老舗に掛かる暖簾や幕、あるいは日本の玄関口である成田・羽田両空港などに置かれたアートワークで、その仕事を目にした人もあるだろう。

東大寺修二会(お水取り)、薬師寺の花会式、石清水八幡宮の石清水祭など由緒ある寺社の行事でお供えする造り花も手掛け、伝統を長年支えている。2016年には染司よしおかによる『日本の色・70色』が、英国ヴィクトリア&アルバート博物館の永久コレクションにも収蔵された。

染司よしおかの最大の特色は、草木を中心とする天然素材のみで染め出すこと。

「創業した江戸末期は染料といえば草木。『草木染め』という言葉もなかった時代でした。それが明治以降、欧州で開発された化学染料が日本にも入ると、新しもの好きの京都の染め店は皆、導入。うちも例外ではなかったのですが、4代目にあたる祖父が植物染めの魅力を見直し、昔の文献にあたりながら苦労の末に復活させ、5代目の父・幸雄が研究を続けて、昭和の終わりに化学染料を廃して、植物染めのみ手掛けるようになりました」と語るのは6代目の吉岡更紗さん。

茜色の布を手にする吉岡更紗さん

吉岡さんは大学卒業後、「イッセイミヤケ」で販売員として働いた後、父の勧めで愛媛県西予市野村シルク博物館で染織技術を学び、2008年染司よしおかに職人として入社。2019年、父の急逝に伴って6代目当主となった。現在は工房での仕事のかたわら、古代装束復元のプロジェクトにも携わっている。2023年には丸紅ギャラリーと実践女子大学が共催した展覧会『源氏物語 よみがえった女房装束の美』で装束の染色を担当。これまでの経験に裏打ちされた技術で、平安の世に描かれた物語の装束の色を見事に表現した。

源氏物語には、主人公の光源氏をはじめ登場人物の衣服の色についての記述が多く、そこから平安時代の人々の色彩感覚が読み取れるという。中でも、「玉鬘(たまかずら)」の巻で光源氏が正月を前に、愛する女性たち一人ひとりにふさわしい色合わせをした装束を贈る「衣(きぬ)配り」は、当時流行した色の衣が続々登場する美麗な場面だ。

源氏物語に現れる衣の色の再現は染織史家でもあった父・幸雄さんも長年取り組んだというが、平安時代の色を、どのようによみがえらせたのだろう?

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王朝時代の色彩を草木から再現
 
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text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Mariko Taya
Discover Japan 2024年11月号「京都」

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