「人生の節目で在りようを確認させてもらう存在」
勉強家・兼松佳宏さんが語る空海
多彩な分野で超人的な活躍を見せた弘法大師空海に、大いにインスパイアされると語るクリエイターやアーティストたちがいます。その一人が『greenz.jp』の元編集長、勉強家の兼松佳宏さん。彼にとっての空海とはどんな存在なのかを伺いました。
兼松佳宏(かねまつ・よしひろ)
1979年生まれ。ウェブデザイナー、アートディレクターなどを経て、2010〜2015年『greenz.jp』編集長。その後フリーランスの勉強家として独立。京都精華大学人文学部特任講師として在任。現在、『空海とソーシャルデザイン』を発売
空海とシンクロする人生
時空を超え彼を追い続ける
空海のことを知ったのは24歳のときで、以来ずっと道標のような存在です。とはいえ、彼の求めたものと、僕が20年間ずっとテーマにしている「ソーシャルデザイン」という領域が、実はぴったりと重なり合うと確信をもったのは、ここ5〜6年のことです。
一昨年から、ソーシャルデザインの土台ともいえる“本来の自分”に立ち返ってみる「beの肩書き」というワークショップを実践していますが、これも“本来の自分”を発揮しようという空海の教えにヒントを得ています。海外の新しいリーダーシップ論でよく語られる“Authentic Self”というキーワードと重なりますし、『U理論』や『ティール組織』(ともに英治出版)といった近年のベストセラーを読めば読むほど「これは空海や仏教の話だな」とわかるようになりました。
1000年以上前の教えが海外でメソッド化されていることが素晴らしいと思います。空海の教えも海外の理論も両方を追いかけている者としては、このつながりをしっかり解き明かさねばと一念発起し、いまは『空海とソーシャルデザイン』という本をまとめているところです。
ちなみに僕が京都でソーシャルデザインを教えはじめたのは36歳のとき。空海が京都に入った年齢と同じでした。今年、僕は40歳を迎えますが、空海は40歳頃から真言宗の体系化を目指し、多くの書を著しています。そう思うと、この本は僕にとっての最初の一歩で、40代を通じてソーシャルデザインという生き方を広めていけるような本を書き続けていけたらうれしいですし、それは空海でいう『弘法=法を広めること』の道そのものです。
さらに先を見てみると55歳の空海は、真言宗だけでない、より総合的な知の場として「綜芸種智院」を京都に設立しています。僕自身もその頃にはソーシャルデザインだけではない、芸術も数学も身体学も含めたような、“勉強家としての集大成”を何らかのかたちで実現できるといいですね。
そして空海は62歳で入定することになりますが、その先の自分がどんな目標をもつことになるのかいまから楽しみです。とにかくこれからも時空を超えて、空海を追いかけ続けたいと思います。
「beの肩書き」とは
あいまいな「自分らしさ」や「自分自身とは何者か?」という問いと向き合いながら、「ありたい自分」を言葉にするための手法を兼松さんが考えた。
読了ライン
text: Emiri Suzuki photo: Yoshihiro Mori
2019年5月号 特集「はじめての空海と曼荼羅」