五智如来の化身「五大菩薩」
空海が三次元化した密教の世界
京都・東寺の講堂にある立体曼荼羅。密教の教えを視覚化した曼荼羅を、空海がさらに3D化したものです。《空海が三次元化した密教の世界》では、立体曼荼羅を構成する21体の仏像を解説。空海が見せたかった密教の世界を体感してみてください。
東寺の立体曼荼羅ならでは
ともいえる金剛界の五菩薩
金剛波羅蜜多菩薩を中尊とし、四方に金剛薩埵菩薩、金剛宝菩薩、金剛法菩薩、金剛業菩薩という金剛界の五菩薩を称して五大菩薩としている。それぞれ五智如来の大日如来、阿閦宝生如来、不空成就如来、阿弥陀如来、如来の化身とされる。
五菩薩を合わせた総称として有名なものに、『仁王経』(※1)で説かれる金剛吼菩薩、竜王吼菩薩、無畏十力吼菩薩、雷電吼菩薩、無量力吼菩薩を指す五大力菩薩があるが、東寺講堂に安置される5尊の組み合わせは非常に珍しいとされる。講堂の立体曼荼羅を構成する21尊は、『金剛頂経』(※2)と『仁王経』というふたつの経典で説いている内容に、弘法大師空海の考えを加味したものともいわれ、五大菩薩の組み合わせも空海独自の構成であるとも考えられる。
五大菩薩のうち、金剛波羅蜜多菩薩像は、1486(文明18)年の土一揆で焼失し、後に再興されたものだが、それ以外の4像は、東寺創建の平安時代の姿をとどめている。奈良時代の彫刻技法を受け継ぎつつ、左右の手に密教の法具である五鈷鈴と五鈷杵を持つ金剛薩埵菩薩、左手で真言密教の印母(基本となる印)のひとつである金剛拳を結ぶ金剛法菩薩など、奈良時代までの仏像には見られない、密教ならではの特徴が表されている。
※1 大乗仏教における経典のひとつ。『仁王般若経』とも称される。仏教における国王の在り方について述べている。
※2 『初会金剛頂経』ともいい、金剛界曼荼羅の典拠となる経典で「即身成仏」の原理を説く。真言宗では最も重要な経典とされ、『金剛頂経』と『大日経』の密教経典を「両部の大経」という。
そもそも菩薩とは?
「悟りを求めるもの」を意味し、人々を救うために修行を重ねている。観音菩薩、文殊菩薩、弥勒菩薩、普賢菩薩など。尊像では、釈迦が悟りを開く以前の姿で表される。
大日如来の智慧と人々をつなぐ
金剛薩埵菩薩坐像
大日如来を第1祖として数える付法の八祖で、大日如来に次ぐ第2祖に数えられる。左手に五鈷鈴、右手に五鈷杵を持つ。金剛手(こんごうしゅ)菩薩とも呼ばれる。
国宝
木造漆箔
像高|96.4㎝
造立時期|平安時代839(承和6)年
配置場所|東北方
願いを聞き入れ、福徳を与える
金剛宝菩薩坐像
新訳仁王経では、五大力菩薩のうちの1尊に数えられる。右手で人々の願いを聞き入れ、成就させることを示す与願(よがん)印を結ぶ。左手には宝珠をのせていた。(現在は失われている)
国宝
木造漆箔
像高|93.4㎝
造立時期|平安時代839(承和6)年
配置場所|東南方
金剛界を象徴する金剛拳を結ぶ
金剛法菩薩坐像
金剛界曼荼羅では、中央の成身会で西方にある阿弥陀如来の眷属(従者)として表される。左手で、真言密教の基本となる印のうち、金剛界を象徴する印である金剛拳を結ぶ。
国宝
木造漆箔
像高|95.8㎝
造立時期|平安時代839(承和6)年
配置場所|西南方
四菩薩は創建当時の姿を伝える
金剛業菩薩坐像
金剛薩埵菩薩、金剛宝菩薩、金剛法菩薩同様、金剛界曼荼羅の成身会に描かれる十六大菩薩のうちの1尊。北方にある不空成就如来の眷属(従者)として表される。
国宝
木造漆箔
像高|94.6㎝
造立時期|平安時代839(承和6)年
配置場所|西北方
波羅蜜=悟りを目指す菩薩の修行
金剛波羅蜜多菩薩坐像
新訳仁王経では、五大力菩薩のうちの1尊に数えられる。また、密教の八大菩薩のうちの1尊である転法輪(てんぼうりん)菩薩と同体とされる。ちなみに転法輪菩薩は弥勒菩薩とも同体。
国宝
木造漆箔
像高|197.2㎝
造立時期|室町時代
配置場所|菩薩内中央
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text: Miyu Narita special thanks: Benrido
参考文献:『イラストでわかる 密教 印のすべて』(藤巻一保著・PHP研究所)、『空海辞典』(金岡秀友編・東京堂出版)、『KOYASAN Insight Guide 高野山を知る一〇八のキーワード』(高野山インサイトガイド制作委員会・講談社)、『国宝・重要文化財大全 4 彫刻(下巻)』(文化庁監修・毎日新聞社)、『仏像図典』(佐和隆研編・吉川弘文館)、『マンダラの仏たち』(頼富本宏著・東京美術)
2019年5月号 特集「はじめての空海と曼荼羅」
《空海が三次元化した密教の世界》
1|仏ならではの智慧を表す「五智如来」
2|五智如来の化身「五大菩薩」
3|密教の敵、許すまじ 「五大明王」
4|仏教の守護神「天」