TRADITION

旅好きを魅了した
『東海道五十三次』の魅力とは?
|江戸時代の旅の歴史

2025.10.4
旅好きを魅了した<br>『東海道五十三次』の魅力とは?<br>|江戸時代の旅の歴史

日本ではじめて庶民の旅行が本格化したのは、江戸時代中期頃。全国各地に敷かれた街道が整備され、宿場町が発展したことに端を発する。当時の文学や美術をひも解くと、一世一代の冒険に沸き立つ人々の期待が見えてくる。今回はそんな江戸時代の旅行好きを魅了した「東海道五十三次」の魅力について、歴史家・安藤優一郎さん監修のもと紐解いていく。

監修=安藤優一郎(あんどう ゆういちろう)
1965年生まれ。歴史家。早稲田大学大学院文学研究科後期課程満期退学。「JR東日本・大人の休日倶楽部」の講師や江戸にかんする執筆活動など、幅広い分野で活躍中。著書に『江戸の旅行の裏事情 大名・将軍・庶民 それぞれのお楽しみ』(朝日新聞出版)など多数。

≪前の記事を読む

なぜ旅好きは『東海道五十三次』に
魅了されたのか?

全国的に旅行が流行すると旅の目的も変化。寺社参詣や湯治はあくまで口実となり、道中の名所めぐりや食、土産品選びなど文化観光を謳歌することが楽しみとなる。

人々を物見遊山の旅へと誘ったもののひとつは出版物だ。歌川広重『東海道五十三次』は、東海道横断の旅を描いた55枚の浮世絵連作。東京・日本橋と京都・三条大橋、そして東海道の53の宿場町を描いている。発刊当時は『東海道名所図会』や滑稽本『東海道中膝栗毛』が流行し、旅への関心が高まっていたタイミングだったということもあり、旅行ブームを決定づける作品となった。

男性も女性も旅行を楽しんでいた
旅行は男性だけの楽しみではない。関所の検閲は厳しかったものの、女性のグループ旅行も一般的だった。旅の装いは菅笠をかぶり、男性は引廻し(合羽)を、女性は塵よけの浴衣を羽織るのが定番
歌川広重『東海道五十三次細見図会 神奈川』(部分)/ 国立国会図書館デジタルコレクション

この作品群の特徴は道中で出合う風景や宿場ごとの名物、ユーモアあふれる人物の様子を描写していることにある。また季節や天気の変化、時間の移り変わりなどを精緻に取り入れた表現も見逃せない。まるで東海道を旅しているかのような没入感が、往時の旅人たちの心をつかみ、旅情をかき立てた秘密なのかもしれない。

東海道に設置された最後の宿場・庄野宿の完成から、2024年で400年を迎えた。東海道五十三次は、これからも東海道の歴史文化をいきいきと伝え、人々を魅了し続けるだろう。

また、街道をゆく旅は東海道のほかにもさまざま。全国各地に敷かれた街道を通って、寺社参詣や霊峰登山が行われていた。

〈品川宿〉
旅の時間の経過を感じる表現の仕掛けが

歌川広重『東海道五拾三次之内 品川・日之出』/ 国立国会図書館デジタルコレクション

東海道最初の宿場町。日の出前に日本橋を出発した後に、品川宿で日の出を迎える光景を描いている。当時の江戸は、娯楽が集まる日本有数の都市観光地としても栄え、全国から旅行者が訪れていた。

〈箱根宿〉
自然を誇張する表現も魅力

歌川広重『東海道五拾三次之内 箱根・湖水図』/ 国立国会図書館デジタルコレクション

左の蘆ノ湖は穏やかで美しく、対照的に右の東海道きっての難所・箱根峠はモザイクを思わせる手法で力強く描かれる。道のりの険しさを想像させる表現も浮世絵ならではの魅力。

〈宮宿〉
地域の年中行事を描いたものも

歌川広重『東海道五拾三次 宮・熱田神事』/ 国立国会図書館デジタルコレクション

作品の中には、風景ではなく年中行事の様子を切り取ったものも。熱田神宮の門前町である宮宿のテーマは、奉納神事「端午馬の塔」の様子。旅の途中で出合えるかもしれない特別な景色に心が躍る。

〈三条大橋〉
都の賑わいを描く旅の終着地

歌川広重『東海道五拾三次 大尾 京師・三條大橋』/国立国会図書館デジタルコレクション

約495㎞にわたる東海道の終着地、京都・三条大橋。川の向こうには古都の街並みが並び、鴨川に架かる木組みの橋の上には町人や商人が行き交う。都らしい賑わいが描かれている。

line

 

参詣の旅(成田山・善光寺・富士山)
 
≫次の記事を読む

 

text: Discover Japan
2025年8月号「道をめぐる冒険。」

東京のオススメ記事

関連するテーマの人気記事