木戸泉 特別純米 無濾過生原酒 PURE PURPLE 2017〜ロシア人唎酒師ブーラフ・ドミトリーさんが惚れた白ワインのような自然派日本酒。
名店の店主が語りたい1本
西麻布にある世界初のビオ日本酒専門店「twelv.」。そのディレクションを担当したのが、「世界唎酒師コンクール」で3位に入賞した経験を持つロシア人唎酒師ブーラフ・ドミトリーさんだ。彼が自然派の日本酒を探し求めていたときに出合ったのが「木戸泉」。「独自醸造法で自然派を徹底する孤高の酒蔵の哲学を宿した1本」と絶賛する、「木戸泉」の魅力について語ってもらった。
「木戸泉」に出合ったのは3年ほど前。店をはじめるにあたって「自然派の日本酒専門店をやりたい」と酒屋さんに相談したら教えていただき、蔵に見学に行きました。明治時代から続く趣深い蔵も素晴らしかったですが、何より感銘を受けたのは、酒造りのこだわり。原料米まで無農薬の自然派の酒造りを1970年代前半から徹底して行っている。さらに、当時から欧風化する日本の食卓を予見して〝酸〟の大事さに気付いていた。そのために熟成させて価値を高めることを続けていて、’70年代のヴィンテージが普通に蔵に並んでいたりと驚きの連続だったのを覚えています。
そうした話を、5代目である現蔵元の荘司勇人さんが声高にアピールするのではなく、当たり前のように淡々と話されていて、その姿勢に共感し、お店で扱うようになりました。いまは蔵を代表する「木戸泉afs」だけでも7種類ほど常備し、私が提案したオリジナルの「afsスパークリング」を勇人さんに開発いただくなど、当店のシグネチャーになっています。
造りの特徴は、独自の醸造方法の「高温山廃酛」。通常は蒸米と米麹に水を混ぜて低温から発酵させるのですが、「木戸泉」は水ではなく55〜60℃のお湯を合わせる。そうすることで、いったん強制消毒されて、そこから自家培養で育てた乳酸菌を加え、乳酸菌や酵母菌を一気に発酵させる。蔵がある千葉県いすみ市は温暖な気候で微生物が立ちやすいので、雑菌が繁殖しないようにいったんお湯で強制消毒して優良な菌を入れているんです。
私は、日本酒は〝お米のワイン〟であり“最強の食中酒”と思っているのですが、「木戸泉」はまさに直球ど真ん中。乳酸発酵由来の柔らかな酸があり、旨みも豊かでキレ味もいい。特に今回ご紹介する「特別純米 無濾過生原酒 PURE PURPLE 2017」は、生原酒ですが、大ぶりのグラスで飲むとヨーグルトや穀物に加えブドウのような香りが穏やかに立ち、フルボディの白ワインのように甘・旨・酸のバランスが魅力的です。フレッシュな状態で飲んでもいいし、冷蔵庫で寝かせてもまた美味しくなる。燗酒にしてもいいですね。
料理は和、洋、中なんでも合いますが、特におすすめしたいのが、当店が提案し続けているイタリア産の熟成チーズとのマリアージュ。どちらも乳酸発酵のニュアンスが合って、濃厚でとろっとしたチーズに負けず、口の中で融和してスっと切ってくれる。チーズと日本酒は最近注目されていますが、まだまだ広めていきたいですね。
今後は、当店オリジナルの「木戸泉」を増やす予定ですので、ぜひ楽しみにしていてください。
文=藤谷良介 写真=上樂博之
2019年1月号 特集「風土を醸す酒」
「木戸泉 特別純米 無濾過生原酒 PURE PURPLE 2017」
店頭価格:1200円/90㎖
原料米:備前雄町
精米歩合:60%
使用酵母:7号
製造区分:純米酒
アルコール度数:16度
問:木戸泉酒造
Tel:0470-62-0013
住所:東京都港区西麻布4-2-4 THE WALL西麻布 B1F
Tel:03-6805-0764 ※完全予約制
営業時間:レストラン営業20:00〜22:00、バー営業21:00〜
定休日:日曜、祝日
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