佐賀県「USEUM SAGA」
“食”の先端エリアで優れた食材、器、料理人の感性が共演
佐賀県の食と文化の関係を考察するガストロノミーを土台にしたイベントUSEUM SAGA。器、食材、料理人が競演し、「佐賀県が誇る美術館(MUSEUM)クラスの名器、デザイン性、品質に優れた器を使う(USE)」をテーマに掲げている。2021年7月に2日間催し、県内外の食文化に感度の高い人々から高い注目を集めた経緯がある。
実は、USEUM SAGAは明治維新から150年を迎えることを記念し、2018年に開催されたのが始まり。さらにさかのぼると、有田焼誕生400年の節目だった2016年、USEUM ARITAが行われたことに端を発している。
つまり佐賀県におけるガストロノミープロジェクトは、すでに5年以上に及び、全国的にみても先進的な取り組みを積極的に行ってきたことになる。
2022年もUSEUM SAGA開催
そして、2022年4月のUSEUM SAGA。大きく2部構成で実施され、今回レポートするのは4月16日、17日の2日間にわたって行われた「2 Senses Fusion」。文字どおり、料理人とソムリエ、2人の感性のコラボレーションだ。
会場となったのは「松の井」。唐津城を望む閑静な立地であり、耳をすませば波音が聞こえてくるほど海が近い。冒頭、森次氏は「2021年11月から本格的に動き出して、佐賀県内の生産者の方々を招いて試食会も頻繁に行ってきました。大越さんはもちろん、新たな出会いもたくさんあり、多くの人々とつながりをもつことができました」とあいさつ。大越氏は「佐賀県は食材、お酒、器などたくさんの魅力が詰まった土地です。将来有望な若きシェフも多く育っていて、私自身、今日という日を心待ちにしていました」と語り、イベントがスタートした。
120余年続く料理宿の若き才能と、世界的ソムリエの共演
コースは、森次氏が腕を振るうスペシャルメニューに、大越氏がフルペアリングする。ドリンクはアルコールとノンアルコールを用意し、どれもお品書きに記された内容からワクワクさせるものばかり。
たとえば、「すっぽん 南禅寺蒸し」はすっぽんからとった野性味あふれるダシをベースに、ほのかに山椒の風味と香りを感じる一品。大越氏は、アルコールには黒ブドウ由来のスパイシーさと、野趣あふれる土っぽい香りを感じるシャンパン、Krug Grande Cuvée 169 ème Éditionをペアリング。ノンアルコールでは嬉野・副島園の烏龍茶にシナモン、カルダモンの香りをまとわせた創作ドリンクを合わせた。このような料理とドリンクのペアリングを2時間半かけて、ゆったりと楽しむ贅沢な時間。もちろん料理が供され、ドリンクがペアリングされる度に驚きと発見の連続だったのはいうまでもない。
さらに、そんな時間をよりプレミアムにしてくれるのが料理を引き立てる器たち。すべて佐賀県内の窯元やガラス工房で作られたもので、中には人間国宝が手掛けたという銘品も。美術館などで“見る”ことはあっても、実際に“使う”体験は稀有。焼き物の名産地、佐賀で催されるUSEUM SAGAがもつ、際立った特徴といえるだろう。
点と点を線で結び、
佐賀でしかできない“食”のつながりを作る
2016年のUSEUM ARITA、2018年のUSEUM SAGAは、世界的なスターシェフが注目を集めた。そして2021年、さらに今回のUSEUM SAGAは、ともに地元に眠る隠れた若き才能を発掘し、ますます高みを目指す道筋を示すような、そんな取り組みに見える。それもそのはず、2021年から佐賀県では料理人のスキルアップを目指し、「サガマリアージュラボ」という研究会を立ち上げているという。
USEUM SAGAは、そのラボで磨き上げた感性を発信する場という位置づけでもある。ラボでは料理人、生産者、窯元などが交流し、それぞれの知識や経験、技術などを積極的に共有。佐賀県内にある高いポテンシャルを秘めた点と点が、ラボを通して線へとつながる。さらにその線が編み込まれ、新たなシナジーを生んでいく。今後、佐賀県が日本でも有数の“食”の先端の地となっていく予感しかない。
text=Tsutomu Isayama