ノアソビSDGs/北海道芽室町
芽室、十勝を世界一のグローバルリゾートに
北海道十勝平野の中西部に位置する芽室町(めむろちょう)。スイートコーンの生産量日本一など農業王国として知られる緑豊かな町は、日本有数の晴天率を誇り、ノアソビ(野遊び)をするにも、もってこい。郷土愛にあふれた芽室では、行政と民間の事業者や住民が一体となって「ノアソビSDGs」のツアー開発に取り組んでいる。
「ノアソビSDGs」とは?
「野遊び」とは、豊かな自然と四季を身近な存在として親しんできた日本独自の文化であり、心の安らぎや充足感、ストレスの解消などを自然環境の中で得る営み。その野遊びを通してSDGsや地方創生の実現を目指すのが「ノアソビSDGs協議会」だ。“ノアソビ”のカナ表記には、“モッタイナイ”のように、日本から生まれた概念がグローバル化し世界の合言葉になるように、という意味が込められている。
〈お話をうかがった方〉
渡辺浩二(わたなべ こうじ)さん
芽室町役場 魅力創造課長補佐兼魅力発信係長。帯広市出身。18歳で芽室町役場に採用となる。仕事でもプライベートでも、町民有志とともにまちづくりを展開。2022年度中の始動を目指し、ノアソビSDGsのツアーコンテンツを開発中。
めむろ新嵐山スカイパークからはじまる
芽室町のノアソビ
「以前、ノアソビSDGsにつながる『野遊びアクション』という活動を芽室で開催したことがありました。空間づくりや食体験を駆使して世界一の価値を目指そうというものだったのですが、その中で朝5時にめむろ新嵐山スカイパークの展望台に上がってヨガをするアクティビティがありました。その日は朝日のタイミングで十勝平野に雲海が広がって、本当に気持ちよかった。地元民である私も、それまで朝5時の展望台の景色を見たことがなく、身近にある魅力に気づいていませんでした。こういったことがほかにもあるのではと思い、ノアソビSDGsのツアー開発では、地元の皆さんに協力してもらって、いいところ、美味しいものなど芽室の魅力を磨き上げる作業を行いました」
そう語るのは、芽室町役場 魅力創造課の渡辺浩二さん。芽室のノアソビSDGsの最大の特徴は、行政と民間の事業者、住民が一体となってツアー商品のコンテンツを開発しているところにあるだろう。それは、新しく芽室町役場に置かれた「魅力創造課(魅力創造課・魅力発信課)」という部署とも関連している。
「こういった事業は、少し間違ったやり方をしてしまうと外に発信することばかりに気を取られ、地元の人が冷めてしまうという構図が生まれがちです。そうならないよう、まずは地域の中から魅力を掘り起こしたり、創造したり、地元の人がすてきだと思うもの、自慢できるものを共有し、それから外に発信する。それが本来の流れだと考えて、2021年に創造と発信で連携していく部署ができました」
「魅力創造課」が中心となって活動する芽室のノアソビSDGs。現在は、今年度中の実践を目指し、ふたつのツアーを準備しているところだという。ひとつは、めむろ新嵐山スカイパークを拠点にグランピングや早朝ヨガ、屋外レストランをはじめ、併設するワイナリーの見学などが楽しめるプラン。もうひとつは、芽室だけでなく十勝平野をフィールドにした、芽室から車で40分ほどの場所にある十勝川温泉に宿泊するプラン。十勝エリアには芽室を含めた19の市町村が集中しているが、このエリアは自治体ごとの縦割りではなく十勝全体での連携ができるのが特徴。実際に旅行する人の目線でプランを構築できるのも大きな強みだ。
芽室の魅力は農業、自然、食、
そして「人」。
ノアソビSDGsのコンテンツ開発を進めるにあたり、渡辺さんの印象に強く残ったのが、町民から芽室の魅力は「人」だという声が多く聞かれたことだそう。
「たとえば『あの人の思いに触れてほしい』、『あの農家さんの生産者魂に触れてほしい』というように『人に会う』ことが芽室の魅力になると考えている町民の方が多かったのがうれしかったですね。絶景や美食の体験はほかのエリアでもできますが、チャレンジ精神と郷土愛にあふれた地元の人の話が聞けるのは芽室ならでは。ツアーでもできるだけ多くの方と交流する機会をつくりたいと考えています。そういった方々に会いにきてもらえれば、何か感じていただけるもの、得られるものがあるのではないかと思っています」
芽室ノアソビSDGsのメンバー紹介1
川上 徹さん
めむろプラニング取締役。結婚、出産をきっかけに妻の故郷である芽室町に移住。実家の飲食店を継ぎながら、小さな子ども連れでも参加しやすい「ちいさな森のマルシェ」を開催するなど、まちの交流や活気を生み出す仕掛けをつくる。野遊びアクションのイベントでは、コース料理の手配を担当。当日はスイートコーンや枝豆など地元の特産を使った料理はもちろん、地元農家が育てる生のホップをビールに浮かべ、香りを楽しむ“追いホップ”を紹介して大好評に。ノアソビSDGsでも、馬車を活用したプログラムなど多くのアイデアを提案し、実践に向けて始動している。
芽室ノアソビSDGsのメンバー紹介2
中村真也さん
デスティネーション十勝 外部専門家 統括マネージャー。帯広出身。玩具メーカーでの国内外における勤務を経て故郷の帯広へ。「北海道十勝のモノ、トキ、ヒトでアジアへ感動を」という理念の下、グローバル視点での地域商社として活動。ノアソビSDGsでは、サイクリングや渓流釣り、湖に穴を開けて水風呂として楽しむサウナ体験など、十勝エリアのつながりの強さを生かしたコンテンツを提案し、人と人をつなげる役割も担っている。
渡辺さんは「ノアソビSDGsの活動を通して外の人に芽室を認めてもらうことが、町民の方の自信や誇りにつながり、郷土愛の輪がより大きくなっていくと考えています」と話す。
「ノアソビSDGsで芽室は世界に通用する価値があると教えてもらったことで、世界を目指すことで自分の地域の見え方ががらっと変わるという経験もしました。世界を意識したときに、まだまだできることがあるのではないか、もっといいものがあるのではないかと、妥協がなくなったと感じます。いま、ノアソビSDGsは、大館市、いなべ市と3自治体が仲間になっていますが、地方創生やSDGsにとって、仲間と連携して磨き合う姿勢が不可欠。参加する自治体が増えると、もっと新しい可能性が生まれると思うので、中にも外にも仲間を増やし、世界を意識するまちづくりが日本全体に広がっていったらいいなと思います」
五色湖を中心に、世界遺産をフィールドワーク
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text: Akiko Yamamoto