重森三玲庭園美術館、無鄰菴、白龍園…
京都の美しき秋の庭園で心を浄化。
この秋に京都市中を訪れるなら、キーワードは“予約”。一度は訪れたい定番スポットから、いまだから見られる特別拝観まで、事前予約ならゆとりをもって楽しめます。今回は、京都が誇る数々の庭園を紹介。その歴史をひも解きます。
神髄を見ずして、京都の庭園は語れない
「重森三玲庭園美術館」
稀代の庭園家が
終の住処につくった庭
昭和を代表する庭園家・重森三玲。斬新なデザイン感覚による力強い石組みやモダンな苔の地割りで構成される美しい枯山水様式が特徴で、東福寺の方丈庭園や光明院の庭園などを作庭したことで知られている。現在、小さな個人美術館「重森三玲庭園美術館」として公開されているのは、1943年に吉田神社の神官から譲り受けて三玲自身の住まいとした邸宅のうち、書院と庭園部にあたる。邸宅の一部は江戸期の建造で、’70年には三玲自身の設計により茶室や庭園が新たにつくられた。歴史ある建築とモダンな趣のある新しい建築、そして庭園が見事に融合した傑作だ。
注目の庭は、美しい模様が映える青石を用いて、中央に4つの島を見立てて配置。石は苔で覆われた築山に据えられており、築山の周りは海を表現した白砂で囲まれるなど、庭全体を貫く世界観が見事で、細部まで美意識が行き届いている。こうした庭が生まれた背景には、三玲自身が日本各地の庭園をめぐり、熱心に研究を積み重ねてきた事実がある。多くの庭園様式に触れる中で、古来日本人が庭に込めてきた祈りの心や精神性を見出し、現代の庭として昇華させたのが彼の作品であるといえるかもしれない。
「永遠のモダン」と評された彼のデザイン哲学は、終の住処としたプライベート空間でどのように発揮されているのだろう。生涯にわたる美意識が結実した庭園の美しさを、ぜひ実際に訪れて確かめてほしい。
三玲が好んだ眺めから波を見る
モダンデザインは
王朝文化から着想を得ていた!
重森三玲庭園美術館
住所|京都府京都市左京区吉田上大路町34
Tel|075-761-8776
拝観料|1000円〜(季節により料金、拝観内容に変動あり)
拝観時間|11:00〜、14:00〜(所要時間は約1時間)
休館日|月曜、祝日 ※前日17時までに要予約
流れる琵疏湖疏水から、京都発展の歴史を垣間見る
「無鄰菴」
一時代を築いた政治家が愛した
近代日本庭園の傑作
明治維新を牽引した「維新十傑」と呼ばれた武士や政治家たち。彼らの後を継ぎ、生まれたばかりの明治政府を主導していった政治家が、初代内閣総理大臣を務めた伊藤博文や、ここ無鄰菴の施主・山縣有朋だ。
政治家として辣腕を振るうかたわら和歌を嗜む文化人でもあった山縣は、作庭についての造詣も深く、東京の本邸は「椿山荘」としてよく知られている。ここ京都の南禅寺界隈に建てた別荘もまた、庭園にこだわり造営された場所だ。それまで庭園デザインの主流とされてきた、池を海に、岩を島に見立てる象徴主義的な庭園に代わり、山縣が指示したのは里山の原風景をそのまま再現したような自然主義的なつくり。庭を流れる川も山縣の好みで、実は琵琶湖から直接水を引いて流れがつくられている。明治の大公共事業といわれる琵琶湖疏水の開通に政治家として深くかかわった山縣は、別荘の庭に自ら疏水の水を引き入れたのだ。サイフォン原理を使った利水方法は当時のまま、現在も利用されているという。
洋館の2階には、伊藤博文らと歴史的な政治会合が行われた一室もある。無鄰菴は美しいだけでなく、日本の歴史を学ぶこともできる庭園なのだ。
歴史的な会議がこの中で!?
山縣が眺めた景色とともに
喫茶を楽しむ
無鄰菴
住所|京都府京都市左京区南禅寺草川町31
Tel|075-771-3909
入園料|入場券600円、喫茶付入場券1600円、喫茶とお土産付き入場券2200円
開園時間|9:00〜18:00 ※1時間ごとの事前予約制、空きがあれば予約なしでも入場可
借景も庭園の一部!秘境の紅葉は5度楽しい
「白龍園」
人の思いと自然が調和する
庭と山々の壮大な競演
鞍馬の二ノ瀬、安養寺の山麓に、京都の“秘境”ともいうべき庭園「白龍園」が開かれている。安養寺山(つつじ山)は古来、霊域とされ、不老長寿の白髪白髭の翁と白蛇を御祭神として人々の崇敬を集めていた山だったが、一時は熊笹と竹やぶに覆われ、荒れた土地に成り果ててしまっていた。
1962年にこの地を手に入れた老舗アパレルメーカー・青野の創業者、故・青野正一氏はこの地に伝わる歴史伝説と信仰に感銘を受け、生涯をかけて山をよみがえらせ、開発することを決意。
庭園を開発するにあたっては専門業者が入ることはなく、社員家族と地元の手伝い衆などいわば“素人”たちの手づくりで行われている。長い年月をかけてコツコツ築いてきた庭園は2012年の秋にはじめて一般公開されて以来、毎年春と秋の2回、特別公開が行われるようになった。
園内をめぐると、これまた手づくりの5つのあずま屋があり、それぞれを額縁にして、借景の山々と庭が相まって多様な表情を楽しむことができる。
いまでも丁寧に人の手を入れ受け継がれている白龍園。自然を大切に敬う人々の思いに応えるかのように、今秋も山々は赤く美しく染まるのだろう。
人工と自然が合わさった美しさ
一面に広がる苔のじゅうたん
text: Miki Yagi plan: A2WORKS
Discover Japan 2021年10月号「秘密の京都?日本の新定番?」