「御宿 富久千代/草庵 鍋島」
佐賀の酒蔵オーベルジュで九州を味わう。後編
2021年4月に開業した、日本酒「鍋島」を醸す富久千代酒造によるオーベルジュ「御宿 富久千代」。前編では鍋島と九州食材のフルコースを紹介したが、酒蔵オーベルジュの魅力は、それだけではない。おもてなし、意匠など細部に宿る文化も楽しみたい。
「鍋島」の 文化に触れて、
美食の旅は完結する。
富久千代酒造が手掛ける、酒蔵オーベルジュ「御宿 富久千代」。広さ250平米を超える空間を有する同施設は、もともと味噌や醤油づくりをしていた商家を改築。入り口のカウンターには、酒を搾る機材「槽」を活用したほか、酒樽用の置石を配するなど、随所に酒蔵ならではのしつらえが施されている。土地が育んできた新旧の文化を味わいながら語り合える空間をつくり上げた。
今回、我々がうかがった「草庵 鍋島」は、1日わずか6名だけが入ることを許される。「私たちがおもてなしできる最大限の人数でした」と笑いながら語る飯盛さんからは、利益主義ではなく、町を守りたい、来訪する方々をおもてなししたいという純粋な想いが感じられた。
1日6名という特別感もさることながら、草庵 鍋島では、コースの中で供される日本酒を最大3本まで購入できる。中には流通していない銘柄もあるため、ぜひ購入を勧めたい。
また、御宿 富久千代の宿泊客限定で、普段は非公開の酒蔵内を見学することもできる。「鍋島」がどのようにして生まれているのか、その背景にも触れられるのは、酒蔵オーベルジュならではの体験といえるだろう。
そもそも鍋島は、飲食店のメニューに「酒 一合」とだけ書かれているような時代に、純米酒の市場をつくるべく、4軒の酒販店とともに生き残りをかけて1998年に誕生。しかも銘柄名は一般公募で決められたという。「育ての親がたくさんいます」と語る飯盛さんの言葉通り、地域に愛される酒を造りたいと生み出された鍋島は、世界的なワインコンテストであるIWC2011の「SAKE部門」で最優秀賞を獲得するなど、いまや世界に名を轟かせる、“地域が誇れる銘酒”となっている。
酒蔵オーベルジュのはじまりは、町を守りたいという想いから。「鹿島に生まれたんだと、ゆくゆくは子どもが誇れる町にしていきたい」。飯盛さんが見据える先には、常に町がある。御宿 富久千代を起点に鹿島という地を好きになる。そんな未来が見えてきた。
宿泊者だけが 潜入できる「鍋島」の現場へ
御宿 富久千代
住所|佐賀県鹿島市浜町乙2420-1
Tel|0954-60-4668
料金|1泊2食付6万6000円~
客室数|1室(1組4名まで)
カード|AMEX、DINERS、DC、JCB、UC、VISAなど
IN|15:00 OUT|11:00
食事|夕食、朝食(和食/草庵 鍋島)
定休日|水・木曜(※12月1日より月・火曜休)
https://fukuchiyo.com
草庵 鍋島
住所|佐賀県鹿島市浜町乙2420-1
Tel|0954-60-4668
料金|2万2000円~(要予約。定員最大6名まで。日帰り夕食のみも可能。ただし宿泊者優先)
営業時間|17:00~22:00(17:00一斉スタート)
定休日|水・木曜(※12月1日より月・火曜休)
text: Discover Japan photo: Atsushi Yamahira 撮影協力=佐賀県
2021年10月号増刊「ニッポンの一流ホテル・リゾート&名宿 2021-2022」