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世界自然遺産 小笠原諸島の秘密を鳥類学者・川上和人先生に教りました!【後編】

2021.8.30
世界自然遺産 小笠原諸島の秘密を鳥類学者・川上和人先生に教りました!【後編】

小笠原諸島が世界自然遺産に登録されたのは2011年。奄美・沖縄のケースと同じく独自の生態系が評価されてのことでした。とはいえ、南西諸島とはその生態系は大きく異なります。その秘密を鳥類学者の川上先生に教わりました。今回は、小笠原諸島の秘密を前後編記事でご紹介。

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同じ島でも生態系は大きく違う
「大陸島」と「海洋島」

島は、その成り立ちの違いにより、大陸プレート上にできる「大陸島」、海洋プレート上にできる「海洋島」に分けられる。大陸島は、もともと大陸の一部だったエリアが地殻変動で引き離されたり、海水面が上がって大陸と山の間に海水が流れ込むなどしてできる。そのため氷河期などに海水面が下がると大陸と陸続きになることがある。一方の海洋島は、水深2000〜3000mにもなる大海原で海底火山が隆起するなど、マグマが吹き出すホットスポットなどから生まれる。それぞれの島に暮らすいきものは大きく違う。大陸島は、基本的に大陸由来のいきもので構成されるが、一部の種が絶滅することで特殊な種構成になったり、大陸で絶滅した種が昔の姿のまま島で命をつないでいることも。それに対して、海洋島は過去に大陸とつながったことが一度もないため、海を越えられたものだけが生息するという非常に偏った生態系になる。小笠原にもともといるほ乳類は翼があるコウモリだけで、カエルの類がいないのもそのためだ。

小笠原諸島へのアクセスは、
鳥か波か風か

「オガサワラオオコウモリ」
小笠原諸島に現存する唯一の固有の哺乳類。果実や花粉や蜜を食べるため、島固有の植物の種子を運び、花粉の媒介をする大切な担い手。夜行性だが、果実の少ない南硫黄島では葉も食べて日中も活動するなど、島の特性が見られる

海にポツンと誕生した海洋島に、翼がないいきものはどうやってたどり着くのだろう。その秘密は3つの「W」の力にある。①Wing(鳥の翼)、②Wave(波)、③Wind(風)だ。①は、植物の種子が鳥の体にくっついたり糞の中に潜んで島に運ばれる方法。川上さんの調査では海鳥の約1割に種子が付いていた。羽毛にカタツムリが張り付いていたり、水鳥が水中の小動物を脚に付けたりして空を飛ぶこともある。②は、波の力で流木などに乗って島に流れ着く方法。爬虫類や木の中に住む昆虫などが海を渡るにはもってこい。そもそもヤシの実は自力で海に浮かび、波に身を任せる。③は、綿毛をもつ植物の種や胞子類、極小の昆虫が、文字通り風にのって運ばれるという手段だ。成長しても1㎜程度という微小貝は、ハリケーンなどの大風で旅することができる。

鳥のように飛びたいな。でも……
鳥は本当は飛びたくない!?

「メグロ」
小笠原で現存する固有の鳥。メジロよりひと回り大きく、目の周りに黒い三角形の模様がある。島にはキツツキがいないため、木枝や地上などとともに、樹幹も利用するようになったようだ

鳥が空を飛ぶ理由は大きくふたつ。捕食者から逃げるためと、食べ物を得るためだ。鳥とはいえ、重力に逆らって飛ぶにはものすごいエネルギーが要るから、飛ばずに済むなら飛びたくないらしい。陸上にキツネやイタチなどの天敵がいなくて、飛ばなくても手に入る食べ物が豊富な島であれば、頑張って飛ぶ理由がないのだ。だから沖縄島北部に暮らすヤンバルクイナは、潔く飛ぶことをやめてしまった。小笠原諸島にも同じように飛ばない進化をした鳥がいそうだけれど、残念ながらそういう鳥は記録されていない。それでも島に来ると、鳥たちは移動性を失うという進化がよく起こる。海を越えて見知らぬ地に向かうより、近場で暮らすタイプのDNAをもつものが生き残りやすく、その性質が次世代へと受け継がれてきたのかもしれない。メジロの仲間のメグロはサイパンなどの南の島から遠く小笠原諸島まで飛んできた飛翔能力がありながら、海を越えて隣の島に行くことはしないのだ。

日本で最も絶滅に近い鳥
オガサワラカワラヒワを救え!

かつて小笠原諸島に広く分布していたオガサワラカワラヒワ。現在は母島列島の無人島(母島属島)と南硫黄島にしか繁殖地が残されていない。姿を消した島々のすべてに捕食者となる外来のクマネズミが侵入しており、それが原因だと考えられている。木登りが得意なクマネズミが卵やヒナを襲うのだ。母島属島は、クマネズミはいないがドブネズミがいる。木登り上手ではないものの、やはり巣が狙われている。また、食べ物を求めて母島に飛んできた際にノネコにつかまってしまうことも。そこでまずはネズミの駆除、そして母島でのノネコ対策。さらに、域外飼育をして自然に返す域外保全も計画している。並行して、カワラヒワの糞や血液を調べ、足輪をつけて放つことで、食べているものや遺伝的特性、行動範囲といった実態把握を進めている。いま危機的な状況にあるオガサワラカワラヒワを救うために、官民が一丸となって保全活動を行っているところだ。

「オガサワラカワラヒワ」
小笠原諸島にのみ生息するカワラヒワの仲間。本州の住宅地や公園で普通に見られるカワラヒワと祖先は同じだが、枝分かれして100万年以上経つ。これまでカワラヒワの亜種とされてきたが、独立種(小笠原の固有種)とすべきと考えられている

text: Yukie Masumoto 写真提供=小笠原村観光協会、川上和人(南硫黄島、オガサワラカワラヒワ)
Discover Japan 2021年8月号「世界遺産をめぐる冒険」

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