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「能作」高岡に誕生したクラフトツーリズムの聖地を徹底解剖!
後編|能作・社長が考える高岡と日本の未来

2021.5.15
「能作」高岡に誕生したクラフトツーリズムの聖地を徹底解剖!<br>後編|能作・社長が考える高岡と日本の未来

構想10年の挑戦をかたちにした「能作」の代表取締役社長・能作克治さん。かねてから富山県の伝統産業や職人が正しい評価をされていないと感じていたという能作社長にお話を伺いました。

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能作代表取締役社長
能作克治(のうさく・かつじ)
1958年生まれ。2002年代表取締役社長就任。2016年11月には、経営革新功績で藍綬褒章を受章。

「地域が盛り上がるということは、日本が盛り上がるということ」

能作社長が高岡に来て37年。その当時から、伝統産業や職人という職が、正しく評価されていないと感じていたという。「どういうことかと考えてみると、職人の仕事を実際には知らなかったり、既成概念があるからなんですね。ですから、ものづくりの工程をきちんと見せてやっていこうと思ったんです」。

2000年1月当時のある新聞記事では、旧工場の一部を改良し、一般の人が見学できる施設をつくりたいと社長自身が話している。

「今回このようなかたちで完成するまでにも、子どもたちを含め多くの人が見学に来てくれました。12年前に当時小学校5年生で旧工場の見学に来た女の子が、研磨職人になりたいと2016年度に入社しました。5年、10年続けると必ず反応が起きる。一番大切なのは続けること。これからも県外や海外の方々にも鋳物技術を知ってもらう機会をつくり続けたいです」。

新工場完成までの2年の間、チームを組むクリエイターたちとともに、月に一度は必ず集まって繰り返しアイデアを出し、2016年には社内に産業観光部を立ち上げた。

「僕が提案したのは真鍮製の日本地図と富山県のかたちをしたテーブルをスクリーンにしたプロジェクションマッピング。うちの職人にも、訪れる人にも、日本全体に視野を広げてほしいという想いからこのふたつをつくりたかった。日本人にもう一度日本や地域を好きになってほしいというコンセプトです。工場までの二次交通はバス会社がいろいろ考えてくれていますし、富山県総合デザインセンター、高岡市デザイン・工芸センターも一緒に取り組もうという話が出ています。単体で頑張るのではなく、皆で協力してやっていくのが産業観光の本当の姿。時代は『競争』でなく『共想』。地域が盛り上がることは、日本が盛り上がるということですから」

左から)
建築担当/広谷純弘・石田有作
アーキヴィジョン広谷スタジオ。新社屋の建築設計を担当する。
什器・内装/小泉 誠
Koizumi Studio。製品デザインとともに、展示会や店舗の環境デザインを担う。
プランニング/立川裕大
t.c.k.w。ディレクターとして長年にわたり能作のブランディングに携わる。
ロゴデザイン/水野佳史
水野図案室。能作のロゴ・パッケージデザインやサイン全般を担当する

能作 本社工場
住所|富山県高岡市オフィスパーク8-1
営業時間|10:00〜18:00(工場見学・鋳物製作体験の時間は、Webページ参照)
休業日|年末年始(工場見学は、日曜、祝日休 ※土曜は月により変更あり)
Tel|0766-63-0001(予約問い合わせ専用)
www.nousaku.co.jp

クラフトツーリズムの聖地「能作」の工場を徹底解剖!
前編|富山観光の“ハブ”とは?
中編|ファクトリーツアーへ
後編|能作・社長が考える、高岡と日本の未来

text : Kaeko Ueno photo : Junjiro Hori
2017年7月号「この夏、島へ行きたい理由」


 

専務取締役の能作千春さんに聞きました!
「能作」の更なる進化とは?

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SDGs視点で読み解く、富山県の魅力

2021年3月現在
解説協力:サステナブル・ラボ株式会社

人間、地球及び繁栄のための行動計画として、持続可能な開発目標として国際的に採択されたSDGs。17の目標のうちゴール12の「つくる責任つかう責任」に注目してみると、富山県は「ごみのリサイクル率」が47都道府県の中で第8位です。

日本海側屈指のものづくり県である富山県。ものを製造して終わりなのではなく、生み出した後のことも考え、資源として循環させる意識を持っているようですね。

自宅に眠る錫製品に新たな命を。「能作 錫リサイクルプロジェクト」
能作では使用されなくなった自社製の錫製品を回収し、リサイクルするプロジェクトを2021年7月に期間限定で実施。回収された錫製品は、能作の職人の手によって新たな命が吹き込まれ、スプラウトプランターに生まれ変わります。スプラウトプランターは2021年10月発売予定。

主な原材料はすべて再利用可能、環境に優しい製造方法
能作の錫製品はそのほとんどが錫100%からできています。錫以外の金属が加えられていないということは、再生しやすくリサイクルに適しているということです。能作の製造現場では、日々の製造工程で出る金属片が熔解されたのちに再利用されます。生型鋳造で使用される砂も繰り返し使用するなど、主な原材料は無駄なく循環するしくみが構築されています。能作の錫製品は環境に優しい製造方法がとられているのです。

製造設備も持続可能性を追求
2017年に建てられた能作の社屋では、真鍮を溶かす溶解炉に電気炉を採用。炉は金属の熔解に欠かすことのできない設備で、高炉や電気炉などいくつかの種類がありますが、能作が採用している電気炉は高炉に比べて温室効果ガスの排出量が少ないという利点があります。さらに2021年中に太陽光発電パネルを本社工場に設置し、自家発電率100%を目指している能作。伝統工芸の継承、産業観光の創造に加え、環境に配慮したものづくりで産業の持続可能性を追求しています。

ものづくり×観光×SDGsで地域の活気と未来の創造
能作の新施設オープンから3年目の2019年の入館者数は13万人を超え、2020年は新型コロナウイルスの影響で減少したものの、今や高岡市内屈指の人気観光スポット。ここから新しい伝統工芸の体験価値が醸成され幅広い層の来館者が増えたことで、市内の新規雇用創出にも寄与し、地域が活気づいた様子も伺うことができます。

2018年の「就業者当たりの県内総生産 対前年増加率」に目を向けてみると、富山県は全国3位。マイナス成長の都道府県も多い中、富山県は能作の新施設がオープンした2017年から翌年にかけて着実な成長を見せています。能作をはじめとする富山県の産業の底力は、SDGsゴール8「働きがいも経済成長も」を実現させる原動力となるでしょう。

ものづくりと観光、そしてSDGsを掛け合わせることで、訪れる人にワクワクを与え、未来に希望をつなぐ能作のクラフトツーリズム。進化する伝統工芸の価値に注目が集まりそうです。

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