高岡の伝統産業を牽引する
「能作」の進化が止まらない!
1916年から鋳物の製造を開始し、錫(すず)製品が人気の「能作(のうさく)」は、2017年4月に新社屋を完成させ、ものづくりと産業観光のふたつにつながりをもたせた。産業観光のトップを走る「能作」の新たな試みを、専務取締役の能作千春さんに伺った。
高岡の伝統産業×観光の中心として
曲がる金属「錫」の特性を生かし大ヒットした「KAGO」シリーズをはじめ、数々の錫100%製品を生み出し続ける鋳物メーカー「能作」。2017年4月に新社屋を完成させてから、地域の産業観光のハブとして役割を担ってきた。富山県高岡市の豊かな水源と静かな田園に抱かれた高岡オフィスパークの一画に現れた約4100坪の敷地に、山脈を思い起こさせるような建物は、この6年間、確実に人と人や企業と企業、国と国をつないできた。
エントランスを抜けて、まず目に入るのが、「TOYAMA DOORS」。能作社員がおすすめのスポットを取材し作成した観光カードから、地元の人しか知らない富山県の情報を得ることができる。予約制鋳物製作体験「NOUSAKU LAB」で自分だけの錫製品をつくり、「IMONO KITCHEN」で地元食材をふんだんに使用した食事を錫のうつわで楽しむ。予約制工場見学でものづくり技術に触れ、工場の様子を見たら、お土産は本社工場限定品が手にはいる「FACTORY SHOP」で。
視察や団体での利用はもちろん、地元の人が友人を連れてくるケースも多い。地域に根ざしながら、関係人口を増やしている好例といえるだろう。
職人の技術を多様なかたちで体感する
新型コロナウイルスの脅威は、能作にも大きな変化をもたらした。2019年には年間13万人にまで増えた来場者が、2021年には8万人に。しかし、団体旅行から少人数の旅行へシフトしたことにより、消費者満足度はコロナ前よりも上がったのだ。工場内には入れないけれどガラス越しに丁寧に説明することで、訪れた人とより深い関係が築けるようになった。「11月1日からは1回15人限定で体験も再開しました! また、お客さまにより鋳物を楽しんでいただけて、とてもワクワクしています」と能作千春さんは言う。
「いまはコロナによって、人と顔をあわせる機会が減った子どもたちに企業として何ができるかということを常に考えています。2020年3月には2000人の卒園児に、チョコレートで鋳物のつくり方を勉強できるキットを無償で配りました」。人に幸せを届ける企業の軸は、コロナ禍を通じてより強くなったようだ。
ものづくりだけに囚われない産業観光の在り方を
現在、製造業だけにとどまらず、旅行業として「想い旅」、ブライダル業として「錫婚式」を展開している能作。能作千春さんは、自らやろうとしていることに多くの可能性を見出している。「このコロナ禍で企業として、さまざまな資格を取りました。それは今後に向けて、多様な種を蒔いていくことになると思うんです」と語る。
「ここを訪れた人がどこに泊まればよいですか? と聞いてくれたら、それに応えたい。そのほかのことも、自分たちができることがあればやりたいんです。2017年に能作は、台湾にも店舗を構えました。海外観光も技術交流をはかりながら、現地の方々と連携していきたいと思っています」
鋳物の製作にとどまらず、時代に合わせて挑戦を続けてきた能作。これからどんな進化を見せてくれるのか、その動きに注目したい。
能作
住所|富山県高岡市オフィスパーク8-1
営業時間|10:00~18:00
定休日|なし(工場見学は土・日曜、祝日の工場非稼働日)
Tel|0766-63-0001(見学・体験窓口)
www.nousaku.co.jp
text: Kaeko Ueno photo: Atsushi Yamahira,Junjiro Hori
2022年1月号「酒旅と冬旅へ。」
日本料理店「茶寮 和香」