日本の伝統文化を応援!日本伝統三道スペシャルプログラム連載【第四回】ホテル ザ セレスティン東京芝×茶道(前編)
Local Experience(その土地ならではの体験)、Private Style(第二の我が家のように過ごせる場所であること)、Personalized Hospitality(ゲスト一人ひとりにあわせたおもてなし)の3つのキーワードを大切にしているザ セレスティンホテルズ。ゲストのステイ体験をより豊かなものにするため、「ホテル ザ セレスティン銀座×華道」「ホテル ザ セレスティン東京芝×茶道」「ホテル ザ セレスティン京都祇園×書道」と、3館を通して日本伝統三道をテーマとしたスペシャルプログラムを展開している。
「ホテル ザ セレスティン東京芝」では、ロビーでの若手茶道家による茶道体験と、鹿児島茶生産農家×若手茶道家によるトークショーを実施。連載第四回目の今回は、茶道体験で亭主を担った裏千家茶道家・土井宗満さんと「ホテル ザ セレスティン東京芝」総支配人・小野寺克浩さんの対談を紹介。茶道とホテル、それぞれのおもてなしの精神とは? 今回の取り組みを通してその共通点が見えてきた。
文化と人の行き交うホテルで一服のお茶のおもてなし
“茶人の正月”といわれる11月、「ホテル ザ セレスティン東京芝」のロビースペースにおいて、裏千家茶道家・土井宗満さん監修による茶会の催しが行われた。茶道に触れるのははじめてという国内外のゲストも多い中、和やかな雰囲気で抹茶とお菓子がふるまわれた。
小野寺(ホテル ザ セレスティン東京芝) ロビースペースでの茶会では、ありがとうございました。たくさんのお客様に足を止めていただいて、体験といえども、本格的なしつらいで貴重な体験をしていただけたと思います。
土井(裏千家茶道家) こちらこそ、すてきな空間でお茶を点てさせていただきありがとうございました。外国人のお客様も多くいらしてくださり、興味深そうに、ときには不思議そうにしっかり観察していらしたのが印象的でした。お茶もおいしいとしっかり飲んでくださいましたね。お菓子も鹿児島の「かるかん」で、外国人の方にも食べやすかったのではないでしょうか。
小野寺 当ホテルの敷地は、明治維新の立役者となった薩摩藩の江戸上屋敷跡という由緒ある土地で、現在も鹿児島からの要人にご宿泊いただく、薩摩や鹿児島県とゆかりのあるホテルです。
そこで今回は、鹿児島をテーマにしたお菓子やお道具をご用意いただきました。館内のあちこちには、薩摩切子や島津家の十字紋をモチーフにしたインテリアが施されていますし、今回のお茶会でもお客様にここでしか味わえない体験Local Experienceを味わっていただけたのではないかと思います。
土井 今回用意した水指(みずさし。水をためておく道具)は鹿児島の第14代沈壽官作の手桶です。柄の入った華やかな白薩摩で、美しい振袖を着た若い女性がお点前をする今回の茶会の雰囲気にもよく合っていました。そして抹茶も鹿児島産のものです。茶葉まで県産を揃えることができるのは珍しいことですが、味が濃く風味がしっかりしていて美味しいお茶でした。
準備を万端にしてお客様を迎えるために
小野寺 今回の取り組みにあたり、茶道の歴史や精神をスタッフにご教授いただきましたが、2時間のお茶会のためにどれだけ時間を費やしていただいたかを間近で拝見し、その奥深さを実感することができました。どんな方が来るというのがわかって準備をするのではなく、どういう方が来るかわからない状態で、それでも来る方の思いを感じとっておもてなしの準備をする。そういうところは、ホテルのおもてなしとも通じるものがあると感じます。
土井 どのようなお道具を選んでどんな準備をするか。準備を含めてのおもてなしであって、当日はその準備が凝縮したものが出てくるというイメージです。どれだけ準備をしても当日に失敗することはあります。お茶をこぼしてしまうことや、お茶杓を落とすこともあります。そういうときに慌てると余計に上塗りしてしまうので、どう対処をするかに経験が問われます。それも準備をしていないとできないことなのです。もちろん滞りなく終わるのがいちばんですが、茶会の時間をお客様に心地よく過ごしていただき、あとは何事ものなかったように日常に戻っていただければいい。あとでふと「美しい着物のお点前さんにお茶をいれてもらったな」とか、「あのお道具きれいだったな」とか、その方に何か印象を残すことができれば嬉しいですね。
小野寺 ホテルも同じです。表面的には大差なくても準備が足りていないとそれがお客様に伝わってしまいます。チェックアウトまで何事もなく、お客様に気持ちよく過ごしていただくことがなによりですが、そのためには、お客様の思いやリクエストを受け取り、洞察する力が大切です。一瞬一瞬が勝負ですし、ご満足いただくおもてなしをするためにはやはり経験も必要になります。
土井 信用は少しずつしか積み重なりませんが、壊れるのは一瞬ですからね。そういう意味では、お茶の場合、お客様の前でお点前をする人は、ひと通りできる技術があれば経験が少ない人でも大丈夫ですが、裏方である「半東(はんとう)」や「水屋(みずや)」といった役割は、ベテランで訓練ができていないと担当ができないものです。お茶には「一座建立」という言葉ありますが、その場をみんなでつくりあげていくものです。亭主やお点前、半東、水屋、そしてお客様がそれぞれの役割を果たしながら場をつくっていく。それによってホストとゲストの気持ちが通いあう状態が生まれます。
小野寺 我々も表に出ているチェックインカウンターのスタッフの奥に、何かトラブルが発生したときに対応するマネージャークラスが構えているので、似た構図でしょうか。それぞれが役割をしっかり果たすことで、ゲストが自分の家でくつろいでいるような滞在体験をしていただけるのではないかと思います。
自分なりの工夫で“おもてなし”を楽しむ
小野寺 ホテルはマニュアル通りのサービスではお客様に響きません。若いスタッフには、いかに楽しむかということを伝えているのですが、私自身も若い頃から自分の中であるゲームをやっています。それは、通勤途中の電車の中で、顔や服装、雰囲気などを見て勝手に職業を想像するというものです(笑)。フロントカウンターでチェックイン対応をしていたときも、筋肉質で短髪、この雰囲気なら消防士さんかな? などと予想して職業欄を確認してみると正解していたり。自分の中では小さな楽しみですが、お客様のお顔を覚えることにもつながりますし、積み重なっていくと洞察力を鍛えることにもつながります。もてなす側が楽しく仕事をしていないと、お客様にも伝わると思うので、スタッフにも自分なりに工夫して楽しんでもらいたいと考えています。
土井 お茶においても、お客様をもてなす亭主自身が楽しむことがなによりも大切だと思っています。
お茶にはいろいろな歴史がありますが、私はしばらく経験を積んだら、“自分のお茶”を見つけていくことが楽しむコツ。なんのためにお茶会をするのか、お道具の中にどう自分らしさを出していくか、そういうことを考えながらつくっていかないとおもしろくないですよね。自分なりに楽しまないとお客様も退屈になってしまいます。ホテルもお茶席も一期一会の空間。ホテルのゲストとしてその場をつくる役割を担うなら、支配人のように楽しんでお仕事をしている方に、もてなされたいですね。
日本では「どうぞ、お茶でも」という一言は、昔からよく聞かれる言葉だ。忙しない現代ではその精神が忘れられがちだが、日本三道のひとつである茶道に触れることは、そんな日本人のおもてなしの心を思い出させてくれる。
今回の取り組みによって、日常の中に非日常を感じることができたゲストも多いはず。そんな経験の積み重ねが、ホテルのオリジナリティがあるおもてなしにつながっていくのだろう。
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文=山本章子 写真=山平敦史