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俳優・八木莉可子 × 書家・華雪
書で心身をととのえる
後編|言葉の奥にある思いを探る

2026.6.28
俳優・八木莉可子 × 書家・華雪<br> 書で心身をととのえる<br>後編|言葉の奥にある思いを探る

小学生の頃に習字をはじめ、高校時代は書道部で書に親しんだ俳優・八木莉可子さん。この日は、手本をまねるのではなく、言葉の奥にある思いを大切にする書家・華雪さんのワークショップをはじめて体験した。「日」の一字を書いて感じたこととは?

俳優・八木莉可子(やぎ りかこ)
2001年、滋賀県生まれ。デビュー直後に清涼飲料水のCMでも話題に。俳優としてテレビ、映画など幅広く活躍する。主な出演作は『First Love 初恋』、『舞いあがれ!』、『森英恵 Butterfly beyond』など。

書家・華雪(かせつ)
1975年、京都府生まれ。漢字の成り立ちや意味に興味をもち、文字の背景を綿密にリサーチし、現代の事象との交錯を漢字一文字として表現する作品に取り組む。ワークショップでは文字表現の可能性を探求。著書に『書の棲処』(赤々舎)、作品集『花』(パピエラボ)など。

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「日」という字を書くということ

正しく書くのではなく、おばあちゃんへの思いを乗せて自由に書いた一枚。言葉では伝えきれない思いが表れる

――「日」を書き終えた二人に、一字に込めた思いや感想を話してもらった。
華雪 今日は八木さんの心に浮かぶ一日の「日」を書いていただきました。いかがでしたか?

八木 これまで「ある一日」を思い出して字を書くということはなかったので、自分の中でたくさん発見があってびっくりしました。

華雪 私は2010年から、日記代わりに「日」の一字を書くようになりました。手元にある紙にとにかく書けば、その日の感触は残ると思って。見返すと、何があったかまでは覚えていなくてもその日の手触りは浮かんできます。

八木さんが滋賀で過ごした子ども時代を思い出しながら書いた「日」。下の線を長くしたのは、静かな琵琶湖の湖面がどこまでも広がる様子が浮かんだためだそう

八木 最初に書いた「日」(上の画像)は、天真爛漫だった子どもの頃の自分を思い浮かべました。2回目の「日」(下の画像)は、おばあちゃんを思い出して。おばあちゃんは天使のような人なんです。誰に対しても優しくて、会うとじわじわとその優しさがにじんでくるような感じがして。同じ「日」でもこんなに違うんだと、自分でも驚きました。

おばあちゃんの優しさに包まれた「日」(八木莉可子)

華雪 1回目と2回目で筆を替えましたね。2回目は、筆をゆっくり動かされているのが印象的でした。

八木 柔らかい馬のしっぽの筆はおばあちゃんの雰囲気に合うのと、優しさが広がっていく印象があります。おばあちゃんのありがたさにあらためて気づいて、涙が出そうになりました。

華雪 手を動かしているからなのか、いままで忘れていたことをふと思い出すことがあります。たった一枚の「日」という字ですが、確かに私はこの日を生きていた。それが一枚ずつ増えていくという些細なことに、私は生きていると感じられるのです。

言葉の網をすり抜けてしまう
気持ちまでも表せる

華雪さんが毎日書いている「日」。東日本大震災を経て一日一日が大きなものに感じられ、続けてきた。鉛筆で書く日もあれば、飲みかけのワインや口紅で書く日も

八木 今日は字を書いているときにいろいろな気持ちがわき上がってきて、書いた後、すっきりしました。自分がもっている、まだ言葉にもかたちにもなっていない、いろいろな質感というか。きっと認識にも上がってきていないモヤモヤしたものがたくさんあって。

華雪 ワークショップをしていて思うのは、いまの時代、すごく言語化を求められるということ。SNSでの発信もそうですよね。でも言語化すればするほど言葉にならないことも増えていく感覚があります。

八木 自分の中に、言葉の網から落ちているものがたくさんある気がしています。言葉は意味をもっていますが、それを文字で表現するのが難しく感じるときもあるというか。

八木さん、華雪さん、それぞれの心に浮かぶ「日」を書くひととき。姿勢を正し、思考を整理し、静かに自分と向き合う時間は心身ともにリフレッシュできる

華雪 おばあさまを思って書かれた「日」。八木さんが最後、囲みをどこまで外側に書いていかれるのだろうと思って隣で見ていました。やめるかなと思ったら、もうひとめぐり書きはじめられた。その佇まいから、言葉にならないものを探るように、一生懸命書いているのだろうなと思いました。今日一番忘れられない瞬間でした。

八木 文字に思いを乗せて、文字のかたちを自由にすることで、気持ちが軽くなれるところがあると思います。自分の中で昇華できるというか、リフレッシュされるような印象です。

華雪 私の書の先生は、字のかたちを書くのではなくて、その奥にある言葉を書きなさい、とよくおっしゃっていました。なぜその字を書きたいのか、その奥にある思いは何かを探りなさいと。現代美術の世界で作品を発表するときは特に言語化を求められますが、本当は見る人にちゃんと伝わっているのではないか。言葉にしなくても、見てくれる人にきっと通じるものがあると信じたい自分がいます。

書に向かう時間は
瞑想のよう

墨を少し濃くし、腰がありつつ柔らかな筆で力強く一気に書き下ろした「養生」の文字。書で自分と向き合う時間も「養生」だ。今号の表紙を飾っている

八木 書は小さい頃から習い事として続けてきたので、自分の中に組み込まれていたのですが、いまは機会が減ってしまって。今日、あらためて感じたのは、ただ文字と向き合う時間がとても貴重だったということ。いまは時間があれば、次の作品のためにこの情報を入れておこう、とやることがたくさんある中で、一心不乱に書くことに集中する時間は無心になれるというか、すごく大切だと気づきました。

華雪 そうですよね、無心ってこういうことなのかもしれませんね。

八木 たまに写経に挑戦したりもするのですが、書いている時間は瞑想に近いかもしれません。私は瞑想しようと呼吸を意識したりすると、なんだか息苦しくなるのですが(笑)、書なら大丈夫。墨の香りも心が落ち着きます。

華雪 筆は、鉛筆やボールペンほど筆圧が必要でなく、力が抜ける分、字を書くときの身体の感覚が違いますよね。筆で書いていると特に無心になれる感じがします。

八木 それと同時に、自分を振り返る時間にもなっていると思います。書きながら、あの日は夏の暑い時期だったなといったことを思い出したのは、ほかの情報が遮断されているからかもしれません。特定の一日に思いを馳せて、自分に向き合うことが、デトックスにもなる。それがすごく楽しくて、これからも書き続けたいと思いました。

華雪 毎日日記を書くことは継続できなくても、一文字書くだけなら気軽にできます。気持ちをととのえる習慣として、取り入れてみてほしいです。

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text: Yukie Masumoto photo: Masanori Ikeda hair & make-up: Akihiro Motooka stylist: Shohei Kashima
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