日本の伝統文化を応援!日本伝統三道スペシャルプログラム連載【最終回】「ザ セレスティンホテルズ×日本伝統三道」の相乗効果
2019年10月から本格的に始動した「ザ セレスティンホテルズ×日本伝統三道」の取り組み。「ホテル ザ セレスティン銀座×華道」「ホテル ザ セレスティン東京芝×茶道」「ホテル ザ セレスティン京都祇園×書道」と、それぞれの伝統文化の未来を担う若手作家に活躍の場を提供してきた。
最終回となる今回は、これらの取り組みによって生まれたホテルやスタッフの変化、そして書道家・武田双雲さんの書道パフォーマンスを通して感じた“おもてなしの精神”について紹介していこう。
展示作品によって生まれたコミュニケーション
今回の「ザ セレスティンホテルズ×日本伝統三道」の取り組みは、ゲストに日本が誇る伝統芸能のすばらしさをあらためて感じてもらうものであり、「ザ セレスティンホテルズ」が大切にしているコンセプトのひとつ「ローカルエクスペリエンス(その土地ならではの体験)」を感じてもらう機会でもある。
「ホテル ザ セレスティン銀座」では、もともとゲスト用のソファを配置していた場所に作品を展示。いけばなの作品を置くようになったことで、その場がスタッフとゲストとの間で作品や華道に対して会話をうむコミュニケーションのタッチポイントになったという。
いけばな作品のテーマや感想を言葉にできないと、ゲストが作品に興味をもってくれたときにその趣旨を伝えることができない。銀座には、アートに造詣が深いゲストも多い。そのため展示作品が変わるたびに、まずスタッフ間で作品の感想やイメージを出し合い、自分なりの言葉でゲストに伝える工夫の創出も自発的に行われていたそう。今回の取り組みは、スタッフ教育という観点でも、スタッフの感性やモチベーションを高めることに一役買っていたようだ。
現場のスタッフからは、「日本伝統三道のおもてなしの精神を知り、芸術作品に触れることによって感性を高めることができた。日本伝統三道に限らず伝統文化でホテルとして携われる取り組みがあれば、ぜひ続けていきたい」という声が聞かれた。「日本の文化を意識して体現しているホテル」という認識が定着すれば、今後、この活動がホテルのブランド価値の向上にもつながるはずだ。
「ホテル ザ セレスティン京都祇園×書道」の取り組みでは、武田双雲さんの書がホテル内に飾られた。京都のスタッフは、ロビーに「迎」と「山紫水明」の作品が展示されたことにより、場の空気が大きく変わったと語る。
「書に対して初心者ではありますが、作品の有無でこんなに雰囲気が変わるものなのだと驚きました。毎日出勤したときに“迎”の作品を見ると、よし今日もがんばろうとモチベーションが高まります。ゲストと書についてお話する機会も増え、臨書(お手本を見ながら字を書くこと)を体験できる書道セットも、多くのゲストに楽しんでいただきました。今回の取り組みを通して、接客やおもてなしでも、ゲストに京都ならではの“ローカルエクスペリエンス”をお届けできるのだなと実感できました」
「ホテル ザ セレスティン京都祇園×書道」武田双雲さんによる書道パフォーマンス
2020年1月25日には、今回の取り組みのハイライトともいえる、「書道家武田双雲さんによる書道パフォーマンスとトークショー」がホテル ザ セレスティン京都祇園で行われた。書道パフォーマンスで書かれたのは、2020年の幕開けにふさわしい「飛躍」。双雲さんによると、この2文字には次のような意味が込められているという。
「情報化社会が進んだ現代では、それがマイナスに動いてしまって毎日陰惨なニュースばかりが入ってきます。そういった不安情報のアラームを聞くと、人間はアドレナリンが大量に出て筋肉がキュッと緊張し、自律神経が乱れてあらゆる不調が起こります。でも本当は、世の中は希望だらけだし、飛躍できるんです。情報化にまどわされず、気持ちよく自由に飛び立つ気持ちを持ち続けたい、そんな意味合いをこの字に込めました。躍の字には足がついているから、ふわふわ飛んでいるというより、自分の足でウキウキ踊っているイメージでしょうか。飛び立って躍動する、そんな2020年の新しいパワーを皆さんに感じてもらいたいですね」
パフォーマンスが始まると、双雲さんの提案で、最初と最後の一画で観客全員が掛け声を揃えることになった。その場にいた全員の掛け声がかかると同時に、大きな真っ白のキャンバスに飛の一画目が書き込まれる。筆先のリズミカルな動きに場のすべてのエネルギーが集中し、誰もが思わず息をのむ。躍の文字の最後の一画を前に、再び双雲さんの声がかかり、さらに観客の「オー」という地響きのような声とともに、作品が仕上げられた。
双雲さんいわく「その場にいた全員で書き上げた作品」は、掛け声があるのとないのとではまったく仕上がりが異なるのだという。観客にもその場を一緒につくりあげた体験が残り、作品が、ストーリーをもつ特別な存在となる。
双雲さんが提案する“一方通行でないおもてなし”
双雲さんは、書道とホテルには共通するもてなしの精神があるという。書道では、自分のためだけに作品を書くことはなく、作品の先に必ず“誰か”が存在する。誰かは“人”にかぎらず、今回のようなホテルという“場”もあるが、相手を楽しませるため、あるいはもてなすためのツールとして、作品をつくりあげているのだとか。それは、ホテルのスタッフとゲストの関係にも共通する。
また、作品を鑑賞するゲストはそんな双雲さんの心を受け取り、「感動した」「すばらしかった」とフィードバックを行う。それがさらに、次の作品にも反映される。この循環にこそ、双雲さんのいう“一方通行ではないおもてなしの楽しみ”の真髄があるように思う。
ホテルという場において、ゲストは「どれだけおもてなしを受けるか」という一方通行のおもてなしを期待しがちだ。しかし一流のおもてなしは、スタッフとゲストの相互関係によって成り立つものなのかもしれない。場をつくる一員として、ゲストは、感動や喜びをフィードバックできているだろうか?
さて、一流の“もてなされ上手”になるにはどうしたものか……。今回の「ザ セレスティンホテルズ×日本伝統三道」取材を通して、ホテルステイの楽しみが、またひとつ増えた。
記事の感想をお寄せください!
文=山本章子 写真=たやまりこ、山平敦史