日本の伝統文化を応援!日本伝統三道スペシャルプログラム連載【第三回】ホテル ザ セレスティン京都祇園×書道
「ホテル ザ セレスティン銀座×華道」「ホテル ザ セレスティン東京芝×茶道」「ホテル ザ セレスティン京都祇園×書道」と、3館を通して日本伝統三道をテーマとしたスペシャルプログラムを展開しているザ セレスティンホテルズ。今回紹介するのは、ホテル ザ セレスティン京都祇園で行われている、書道家・武田双雲さんによる展示。双雲さんと総支配人・柴田律幸さんの対談から、“一方通行ではないおもてなしの楽しみ”が見えてきた……。
アートは空間の世界観を決定するエネルギー調整器
建仁寺を目の前に、八坂通りに面する美観地区に佇む「ホテル ザ セレスティン京都祇園」。重厚感のある扉を抜けると、古都を思わせる落ち着いた香りに満たされた開放感のある吹き抜け空間が広がる。ロビーは決して広くはないが、高さ6mを超える大きな窓の外には竹林を一面にのぞみ、まるで茶室に招かれたような錯覚を覚える。
その空間を引き締める“掛け軸”のように、吹き抜けのロビーに掲げられているのが、ウエルカムの心を示す「迎」の文字。地下一階のロビーのどこからでも見上げられる場所に掲げられた文字は、しんにょうの内側の部分が、胸の前で手を合わせてゲストを迎え入れている人物の形のようにも見える。そしてチェックインカウンターには「山紫水明」の書が。
これらは書道家・武田双雲さんによるもので、「ザ セレスティンホテルズ×日本伝統三道」のスペシャルプログラムの一環として展示されている(〜2020年2月23日)。書はほかに、ホテル内のレストラン『八坂圓堂』に展示される「優雅」「寿」があり、それぞれの空間を墨一色で厳かに彩っている。
ホテル ザ セレスティン京都祇園のイメージで、まず思い浮かんだ文字は『雅』。
はじめに、双雲さんに今回の展示に向けた思いをうかがった。
「僕は書を含めたアートは、空間のエネルギー調整器だと思っています。音楽のタイトルのように世界観を決定づけるもので、今回でいえば書を飾ることによってホテルという空間の世界観が決定づけられます。世の中はとてもカラフルなので白黒のアートである書はとても目立ちますし、日本の伝統的な文化である書を、京都の中でも特別な祇園という場所にあるホテルで、海外の方含めさまざまな方に見てもらえるのはとても光栄です。
今回、書く文字を決めるにあたってホテル ザ セレスティン京都祇園のイメージを考えたときに、まず『雅』という文字が浮かびました。雅にもいろいろありますが、セレスティンの場合は派手なラグジュアリーさではなく、押し付けのない上品さや謙虚さがあると感じました。そこで、憂いに人が寄り添っている文字『優』をつけた『優雅』という言葉を選びました。優しいというのは強く、優れていないとできない行為です。“優しい”と“優れている”という両方の意味を、バランスよく書で表現することができたと思います。
書くときはまず、キャラクターを考えます。漫画家が登場人物のキャラクターを考えるように、どんなキャラクターの文字にしようかと考えるのですが、今回はホテルのイメージもふまえ、京都美人、京都美男子を揃えました。いわば美人画を見るような感覚で、書を楽しんでいただけるとうれしいですね」
作品としての書とおもてなしの共通点
書いている瞬間は何も考えず“無”の状態をつくるというが、先述の“キャラクター”を決めるときや事前準備の段階では、「ホテルの空間をどう演出できるか」「どうしたら、見る人に楽しんでもらえるか」を考えて文字のキャラクター像をつくりあげていく。すべては人を喜ばせるための書であり、自分自身のために書くことはないという。さらに、書道は潔い瞬間芸でもある。アートが何度も塗り重ねて作品を作っていくのに対し、書は一度筆を進めたら最後まで止まれない。わずか1〜2分で迷いなく仕上げる。下書きも二度書きもできない断崖絶壁の状況でつくりあげる。失敗の許されないものだからこそ作品の集中力やパワーを感じてもらうことができるのだとか。
この点に、書とホテルのおもてなしの共通点があると柴田さんは語る。
「ホテルのサービスも、事前の準備が欠かせません。それはプランをこちらでつくるということではなく、お客様の要望に合わせていかに答えられるか、たくさんの引き出しを準備しておくということです。サービスにはある程度のマニュアルはありますが、お客様はひとりひとり異なりますし、万人に通用するおもてなしがあるわけではありません。今回失敗したら次に頑張ればいいということが通じない世界でもあります。みなさん、ホテルに足を運んでいただくのが最初で最後かもしれませんし、実際に『両親の最後の旅行と考えている』という方もいらっしゃいます。
私たちは毎日同じ仕事をしていますが、宿泊してくださるということは、ゲストにいただいたチャンスです。そのチャンスを、毎回つかみとりにいかなくてはならないという仕事をしていると思います。そこで気に入っていただければ、次回にも来ていただけるかもしれない。同じことを続けるのではなく、1日1日のおもてなしを20年、30年続けて積み重ねていくという意識は、スタッフ全員にもってもらいたいと思っています」
ゲストのクリエイティビティによっておもてなし文化はさらに高まる
柴田さんによると、スタッフにとって、ゲストに喜んでもらったことが自分の喜びにつながっているという。相手の幸せを喜び、「ありがとう」の言葉に感謝をする。ゲストひとりひとりの要望に寄り添い、喜んでもらうためにも、部屋への案内に10〜15分をかけ、個と個のコミュニケーションをとる。「明日はどこか行かれるのですか?」「前回来ていただいたのは雪の季節でしたね」などの会話からゲストの嗜好や要望を把握し、ホテル側ができる提案やサポートを見つけていくのだ。
それに対し、双雲さんはゲスト側が「もてなされ上手」になることを提案する。
「僕はホテルが大好きで、仕事柄、国内外問わずランクもさまざまなホテルに泊まるのですが、宿泊した際にスタッフに向けて手紙を書きます。もちろん素性は明かさず、『きれいに掃除してくださってありがとうございました』とか「気持ちよく過ごすことができました」というように、ホスピタリティへの感謝を書き残していくんです。せっかく縁あって来ているのに、何も感じずに過ごすのはもったいない。それがセレスティンのように、おもてなしのプロのいるホテルならなおさら。いいボールを投げてくれるのだから、『インテリアが素敵ですね』『料理がおいしかったよ』など、ゲストが名キャッチャーになっておもてなしのナイスキャッチをしたらお互いに気分がよくなります。見返りを求めるとか、自分が善人だからということではなく、ホストとゲストが一緒に文化を高め合っていけたら楽しいですよね」
2020年1月25日(土)には、双雲さんによるロビーでの書き初めデモンストレーションを予定している。この日のために双雲さんが選んだのは、新年にふさわしい「飛躍」という言葉。この二文字には、「ネガティブニュースの多い現代だが、そんな情報にまどわされず、希望だらけの世の中で気持ちよく自由に飛び立とう」という意味が込められている。
ラテン語で「天空」を意味するセレスティンに、どんな「飛躍」の文字が浮かびあがるのか。また、コラボレーションによって『ホテル ザ セレスティン 京都祇園』のおもてなしがどう昇華していくのか、今から楽しみだ。
ホテル ザ セレスティン京都祇園のHPはこちら
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文=山本章子 写真=山北茜