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一棟貸しの宿《竹の熊 正倉》
熊本・南小国の自然を生かした
建築が地域の未来を開く

2026.4.10
一棟貸しの宿《竹の熊 正倉》<br>熊本・南小国の自然を生かした<br>建築が地域の未来を開く

美しい里山の原風景が広がる熊本・南小国町。2025年12月、人口約3600人の小さな農村に誕生した宿「竹の熊 正倉」は、日本の林業が抱える課題の解決と地域創生のヒントが詰まっている。

大径木の個性を生かした宿が
林業の課題を解決?

Forequeは、穴井俊輔さん・里奈さん夫妻が二人三脚でスタート。現在、日本各地から移住した女性が7割を超えるスタッフとともに、林業や小国杉を循環させ、伝統文化を未来へとつなげる活動を行う
写真=水崎浩志

熊本県の北東部に位置する南小国町は、林業と農業を主幹産業とする小さな農村だ。2025年12月、この地に日本の林業が抱える課題の解決につながる可能性を秘めた一棟貸しの宿「竹の熊 正倉」が誕生した。手掛けるのは祖父の代から続く「穴井木材工場」の3代目・穴井俊輔さん。東京で働いた後、帰郷した際に衰退していく地元の林業を目の当たりにし、2016年に林業を基軸に事業を展開する「Foreque」を創業。翌年に立ち上げたインテリア・ライフスタイルブランド「FIL」、そして美しい里山と調和した「喫茶 竹の熊」は、人口約3600人の町が国内外から注目を集め、旅の目的地となるきっかけをつくった。

「竹の熊 正倉」は、ただの宿泊施設ではない。南小国の風土や歴史を宿した宿泊と建築体験の場として、この地に新しい文化を生み出すものだ

この取り組みに共通するキーマテリアルが小国杉だ。耐久性が高く、豊富な油分で時が経つほどつやが増す小国杉は、九州のブランド杉のひとつで、南小国町の総面積の約4割を人工林が占めている。

「竹の熊 正倉は、我々の暮らしと仕事が一体となった“山の都合”に耳を傾けることで生まれました」と穴井さんは話す。

製材事務所とショールーム機能も兼ねた「竹の熊 正倉」。利用しにくい大径材を箱形に組み上げることで、高い強度と断熱性を備えた縦ログハウスの構法を取り入れている

「戦後復興のために全国で杉や檜が植えられ日本の森は豊かになりました。それが半世紀以上の時を経て40㎝超の大径木となり利用期を迎えた頃、蓋を開けたら需要がない。建材に選ばれるのは扱いやすい樹齢30~40年の中小径木で、加工が難しく高コストの大径木は山に残され、資源を生かしきれていない問題を抱えています」

そういった人間の都合を優先するのではなく、山の現状に寄り添い、忘れ去られた大径木を生かしきって建てたのが、竹の熊 正倉だ。

小国杉の資源を生かしきる、
製材事務所と宿泊滞在型ショールーム

小国町在住の建築家・川嵜さん(左)と話し合いしながら、この地の風景や森に流れる時間を切り取って建築に取り込んでいった。2026年夏には大学と共創する新しい施設もオープン予定

設計を進める上で建築家・川嵜義彦氏と注目したのは、この地域に倉建築が多く残っている点。土蔵に代表される「倉」という建築の在り方を木造へと置き換え、現代の技術で再定義していく中で着想したのが、穀物や財を大切に保管し、時を超えて恵みをたくわえてきた「正倉」という建築思想だ。

壁に使用しているのは、小国杉の丸太を手仕事でむいたときに出る皮。「杉皮を壁材として使用した意匠は、国内で類を見ません」

1本の丸太を半割りにして2本のかまぼこ型の部材をつくり、縦方向に丸太を積層する前例のない「縦ログハウス」造、南小国町に多い倉建築に採用されている「置き屋根」の技術など、地元の小国杉と対話し、山の恵みを尊びながら、最小限の加工で細部にまでこだわり抜いたという。強度や断熱性といった基準をクリアするだけでなくデザインとしても斬新で、大径木の課題解決のヒントがちりばめられているエポックメイキングな建築は、デザイナーや建築家、木材関係者から注目を集めている。

地域の豊かさをたくわえる倉をイメージし、あえて窓は小さくしているとか

「小国杉の心地よさ、温もりを体感してほしい。その体験が、世にあふれるモノや情報にはない“本当の豊かさ”とは何か、自然と自分がどうつながり、社会はどうあるべきかに思いを馳せてもらえるきっかけになればうれしいです」

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特徴的な杉板葺きは、断熱された屋根の上に置き屋根をのせることで温熱環境を調整しながら漏水リスクも低減する倉建築の伝統技術が取り入れられている
茅の笠をまとった照明が趣深く空間を照らす

 

林業と暮らしに耳を傾ける
「Foreque」の挑戦とは?

 
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竹の熊 正倉
住所|熊本県阿蘇郡南小国町赤馬場1909
Tel|0967-42-1010
客室数|1棟
料金|1泊朝食付6万円~(定員4名、税・サ込)
カード|AMEX、DINERS、DC、JCB、VISAほか
IN|15:00
OUT|11:00
アクセス|車/JR阿蘇駅から約50分、阿蘇くまもと空港から約40分
施設|ショールーム、リビング、ゲストルームなど
https://takenokuma-shoso.jp/

01|一棟貸しの宿《竹の熊 正倉》
02|林業と暮らしに耳を傾ける「Foreque」の挑戦

text: Ryosuke Fujitani photo: Yoshikazu Shiraki, Isamu yamamoto

2026年2月号「地域を変える企業」

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