料理人《三浦真央子》
“シェフ・イン・レジデンスSAGA”で
出合った佐賀の食文化とは?
後編|食の源流を訪ねる旅へ


ガストロノミーが盛んな佐賀に、気鋭の料理人が数日間滞在する「シェフ・イン・レジデンス SAGA」が、徐々に注目を集めはじめている。シェフの滞在に密着してみると、佐賀が食の先進地である理由が見えてきた。今回は、料理人・三浦真央子さんが農園や醸造元、窯元、飲食店などさまざまな場所に足を運び、地域に息づく文化や生業の魅力を知る。
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生業ではなく、
“土地の文化”と会話する。

佐賀ではこれまで、食の本質的な魅力を広く伝えるために多くの料理人を招聘し、積極的に産地ツアーを行ってきた。こうした取り組みは全国でも見られるが、佐賀の一番の強みは、歴史あるうつわの一大産地であることだ。
今回、三浦さんがシェフ・イン・レジデンスSAGAに参加したのは、その土地で育まれる食文化の成り立ちや背景に対する強い関心から。うつわもまた食文化を語る上で欠かせない要素で、三浦さんは「文祥窯」に強い興味を抱いた。

「採石にはじまり、さらに焼成で薪を使い、二酸化炭素を排出する。そのことに対して『環境破壊をしている自覚があります』という馬場さんの言葉。そしてその考えから原料を無駄にしないことなど、できる限りの循環を実現しようとしていらっしゃる。感銘を受けたという言葉では言い表せない時間でした」

原料を無駄にしない考え方は「サガ・ビネガー」でも垣間見た。時に〝農家の救世主〟と称される酢の醸造元。その理由は本来なら廃棄される野菜や果物を原料にした酢を多数手掛けてきているから。
「農家の方々から規格外の農作物をどうにかしたいと相談を受け、これまで50種以上の酢を試作してきました」と話す右近諭志さん。そうやって生まれた熟成玉ねぎ酢は、いまや同蔵の看板商品でもあるSDGsなプロダクトだ。

今回の滞在では、地域資源に敬意を払い、それらを活用している人に出会った三浦さん。もともと佐賀には自然との共生が当たり前に存在するが、「名尾手すき和紙」はその最たる例かもしれない。
三浦さんが料理の世界に入ったのは薪火料理レストラン「Maruta」の広報という立場から。多角的な視点で食の魅力を伝えていた経緯もあり、名尾手すき和紙には純粋な興味を抱いていた。訪れたのは年10日程度しか行わない「かごむし」という作業の日。和紙の原料となるカジノキを煮て、熱いうちに樹皮をむく工程で、近所の人や友人らの力を借りて行っていた。その様子はまさに人の手でしかできない伝統的な和紙づくりの原風景。

「貴重な作業を実際に見ることができて幸運でした。料理の世界にいても異業種の方から影響を受けることは多く、和紙づくりからも料理以外の表現のヒントが見えてきた」と三浦さん。思いついたのは、和紙を用いた佐賀での体験・経験の言語化。つまり出版物の制作だという。こういったシナジーが起こるのもレジデンスのおもしろいところだ。
地域に息づく生業や文化は、外から見ると大きな魅力である。料理人という存在が地域に入り込むことで、双方に気づきが生まれ、ひいては地域の誇りへとつながる。レジデンスは、そんなよい循環を生み出す一助にもなっている。
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「出会いのすべてから土地と対話する生き方を学びました」── 三浦真央子

「和多屋別荘」を拠点に佐賀をめぐった三浦さん。同館のラボキッチンで表現したのは、いままでの経験に佐賀で得た知見を生かした大根餅。大根の葉、皮も捨てずに活用。サガ・ビネガーの柿酢を使った大根と干し柿の和え物を添えて。

「嬉野温泉 和多屋別荘」を拠点にめぐりました!
住所|佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙738
Tel|0954-42-0210
料金|1泊2食付1万8850円~(税・サ込)
IN|15:00 OUT|10:00(リノベーション客室は11:00)
https://wataya.co.jp
シェフ・イン・レジデンスSAGAのスケジュールを公開!
1日目 「カレーのアキンボ(佐賀県佐賀市大和町大字川上475)」で食事。
2日目 「佐賀県茶業試験場」を訪問し、嬉野茶の製造工程を学ぶ。
3日目 フリータイム
4日目 カレーのアキンボ・川岸真人シェフの食材調達に同行。仕込みを手伝う。
4日目以降 滞在拠点である「和多屋別荘」のラボキッチンで試作を繰り返す。
5日目 うつわ作家・徳島あや氏(Instagram:@dedao_wen)の工房を見学。
6日目 「森の香 菖蒲ご膳(佐賀県佐賀市富士町大字関屋3798-33)」で一日研修。
7日目 「丸秀醤油」、「サガ・ビネガー」、「名尾手すき和紙」を訪問。
8日目 茶師・松尾俊一氏の「茶小屋」、「文祥窯」、「黒木農園」を訪問。
9日目 フリータイム
10日目 白石町の郷土料理「須古寿司」の歴史、調理法を学ぶ。
11日目 フリータイム ~ 終了
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今回、三浦さんが訪れた場所
《文祥窯》

失敗の数だけ解釈は増える
有田町の泉山で採石し、自然に風化。そこから陶土をつくり、ろくろをひき、登り窯で焼く。まさに昔ながらの伝統的なうつわづくり。博物館で目にした古伊万里に惹かれ、約400年前の陶工の想いと向き合う、唯一無二の作風だ。
住所|佐賀県伊万里市二里町大里甲1561-22
https://bunshogama.com
《サガ・ビネガー》

効率よりも大切にするべきは伝統
発酵90日、熟成90日の計180日間の静置発酵法による酢造りにこだわる。丁寧な醸造はもちろん、減農薬米、野菜、果物など地場の素材を厳選。ここ数年、佐賀の有名酒蔵の酒粕からつくる「佐賀の赤酢」も注目を集めている。
住所|佐賀県佐賀市嘉瀬町中原1969-3
Tel|0952-23-6263
営業時間|9:00〜18:00(土曜~16:00)
定休日|不定休
www.sagavinegar.jp
《名尾手すき和紙》

継承と継続の330年
330年存続している理由は、原料から育て、日々真摯に和紙を漉き、問屋を挟まない堅実な体制を築いてきたから。大量生産ではなく、質のよい和紙をできる範囲でつくり続ける。昨今、品質のよさ、裏側に流れる物語が全国的に注目を集めている。
住所|佐賀県佐賀市大和町大字名尾4674-1
Tel|0952-63-0334
営業時間|9:00〜17:00(工房見学も可)
定休日|土・日曜、祝日(直営店KAGOYAは定休日なし。ただし正月、盆期間は除く)
https://naowashi.com
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text: Tsutomu Isayama photo: Kenji Okazaki
2025年4月号「ローカルの最先端へ。」