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レストラン&オーベルジュ
《nôtori/ノウトリ》
故郷の美味を世界へ。
富士北麓キュイジーヌの挑戦とは?②

2025.4.27
<small>レストラン&オーベルジュ</small><br>《nôtori/ノウトリ》<br>故郷の美味を世界へ。<br>富士北麓キュイジーヌの挑戦とは?②

山梨県の富士山のふもとに新たなレストラン&オーベルジュ「nôtori(ノウトリ)」が誕生した。国内外で活躍し、同じ志を抱いて富士北麓にUターンした兄弟が目指すこととは?

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懐かしく新しい。
富士北麓でしか味わえない記憶に残る体験とは?

温かみのあるサービスと、料理に調和するドリンクを担当。飲食店で働いているときにワインに開眼。海外暮らしが長く、mojoという愛称で呼ばれている

季節のコースの食材は、富士北麓を中心に選んだ山梨のものが90%以上を占める。浩平さんは東京で働いていた頃から山梨の生産者を訪ね、交流を深めてきた。

「山梨はフルーツが充実しています。北杜市の『Crazy farm』や都留市の『FOREST ISLAND』、甲府市の『53farm』などの野菜も美味しいし、近所にある『HERBSTAND』は薬草の知識が豊富。深掘りしていくと塩やオリーブオイル、サフランをつくっている生産者もいて、当初はここまで県内の食材で勝負できるとは思っていませんでした」と話す浩平さん。調理においてはそんな山梨の食材の持ち味を最大限に引き出すことを意識している。

「海なし県なので、うちでは海の幸を使いません。旨みという点で弱い部分は発酵を活用して、肉醤などの自家製調味料を味の骨格に使って美味しく感じてもらえるように工夫しています。そして料理を見たら、シェフである僕の顔が浮かぶような料理をつくっていきたいと思っています」

ふるさとの味をアレンジした「やさいめし」。土鍋で炊いたミルキークイーンに、自家製シイタケ醤や出汁を含ませた野菜、炭火で焼いたきのこなど、20〜30種類の旬の野菜で彩る。冬は「おじや」が登場する場合も

唯一無二のエッセンスとして大切にしているのが“記憶”。富士北麓で育った兄弟の記憶や、富士講の御師の家で出されていた鯉を取り入れるなど、土地に刻まれてきた記憶を料理に注ぎ込む。その象徴といえるひと皿が「やさいめし」だ。もともとは醤油やみりんで味つけした根菜や山菜をご飯に混ぜた料理で、兄弟揃って好きだった母の味をアレンジした。

「おばあちゃんや母がつくってきた料理を僕が引き継ぐことで、やさいめしの思い出がつながればいいなと。ハレの日に食べることが多かったので、おもてなしの意味も込めています。うつわは実家で使っていた記憶がある皿に近い骨董品を親戚に見つけてもらいました。そうやって僕たちの思い出を反映することで、お客さんにも郷愁を感じてもらって、最終的には新しい記憶をもち帰ってほしい」

富士山をイメージしたカラーリング
レストラン棟の内装は富士山の五合目から上をイメージし、溶岩や土の赤茶けた色を基調としている。一方、宿泊棟は富士山の五合目から下、出身地の富士吉田市をイメージした明るい色使いに。神秘性と通俗性という2面をもつ富士山を表現している

目標は山梨を代表する店となり、nôtoriに行ったときに見た富士山がきれいだったと思い出してもらうこと。うつわ、カトラリー、テキスタイルなど随所まで山梨産にこだわり、宿泊施設も備えた。

「いまは地元のつくり手の力をお借りして、いずれは大きく育って還元できれば。富士山だけを見て帰るのではなく、文化的要素を感じられる観光地になれるように尽力したいです」と茂一郎さん。また、地元の人にも山梨のものを紹介したいと、立食スタイルで特別メニューを提供するオープンデイや子ども連れでも気兼ねなく来られるファミリーデイを開催する取り組みも行っている。

同じ志を抱く兄弟は家族と土地の記憶を紡ぎ、旅の目的地になることを目指す。

山梨のいいものと出合う
入り口の場にもなりたい

〈地元の生産者さんをめぐる〉

約40の地元生産者とつき合いがあり、直接食材を取りに行くことも。そのひとつが、金子さおりさんが営む「Mt.Fuji Craft! Farm」。グラスフェッドミルクと手づくりチーズを愛用。「富士の裾野の草原で放牧されて育つ牛の乳は青い香りがして、コクがあるところが好み。自家製ストラッチャテッラチーズをつくることが多いです。」

 

〈1組限定の宿泊機能も〉

オーベルジュとしての一面も。外にはテラスや焚き火を楽しむスペースもあるので、自然の中でゆったりと寛ぎたい人に最適。インテリアはかつて兄弟が過ごした実家の子ども部屋をイメージ。部屋のカーテンや寝具、パジャマ、スピーカー、アメニティ類も山梨のものにこだわっている。オプションでボックスタイプの朝食を頼むこともできる。

 

〈うつわや調味料、しつらいにも山梨を〉

「kiki craft」のうつわ、「あしたば硝子工房」や小牧広平さんのグラス、「忍野窯」のカップ、石引治さんのカトラリー、「TENJIN-factory」のエプロン、温泉からつくった自然塩、ワインビネガー、南部茶など、山梨のいいものを厳選。メニュー表は「西嶋和紙」の和紙製で、季節ごとに変わるイラストは茂一郎さんが描いている。

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富士北麓の魅力を感じる
季節のコースをご紹介

 
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レストラン&オーベルジュ《nôtori/ノウトリ》
01|富士北麓キュイジーヌの挑戦とは①
02|富士北麓キュイジーヌの挑戦とは②
03|季節のコースをご紹介!

text: Rie Ochi photo: Maiko Fukui
2025年3月号「ニッポンのまちづくり最前線」

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