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京都・老舗料亭《六盛》
平安貴族の気分を味わえる饗応料理を徹底解剖!【後編】

2024.12.15
京都・老舗料亭《六盛》 <br>平安貴族の気分を味わえる饗応料理を徹底解剖!【後編】

老舗料亭の3代目当主が、平安時代の正式な饗応料理がベースの王朝料理を考案。文献にあたり、専門家のアドバイスも受けながら完成させたコースは、普段目にすることのない様式にも心が躍る。後編では京都・老舗料亭「六盛」の平安貴族の気分を味わえる饗応料理を徹底解剖!

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文献が残る
一進「祝菜(ほいがな)」を愉しむ

饗応料理の一種一器のルールにのっとって、ご飯の周りに8品のおかずを並べている。高く盛りつけたご飯は「御物(おもの)」と呼ばれる主役的位置づけ。箸や櫂ですくいながら蒸鮑や焼蛸と一緒に食べる。おかずの数が多いほどごちそうとされた。平安時代は調理する際に調味料を用いなかったため、平安貴族は自分たちで酢、酒、醤、塩を使い、味を調整しながら食べたという

貴族たちの饗応がそうであったように、創作平安王朝料理も酒を一献飲むところからはじまる。そのときお膳に並んでいるのは、文献を基に創作再現した主役の一進「祝菜」。台盤(だいばん)と呼ぶ折敷風のお膳の中央には御物(おもの)【ご飯】。おかずは定番のものが8種並ぶ。「蘇(そ)」は、古代日本の乳製品。京都の牛乳を煮詰めてつくられている。「蒸鮑(むしあわび)」は平安時代の法典『延喜式(えんぎしき)』に見られるほど古くから食されてきた。

「焼蛸(やきたこ)」は文字通りの調理法で、平安時代はシンプルに焼いて食べていたようだ。「脯鳥(ほしどり)」とは野鳥の料理で、当時と同じく雉を使っている。「醢(ししびしお)」は現代でいうところの塩辛。かつては、海鼠腸(このわた)やウニが用いられ、このコースでは海鼠腸を取り入れている。

「脯宍(ほじし)」は本来、猪や鹿の肉を細く切り、二杯酢で味つけたものだが、再現した祝菜では猪の時雨煮となっている。「楚割(すわやり)」は鰹の燻製。「腊魚(ほしいお)」は、魚の身を切って干したもの。キスを使っている。

『類聚雑要抄』/ColBase

「四種器」と呼ばれる酢、酒、醤、塩の調味料を置いたのは、当時は現代のような調理法がなく、焼く、蒸すなどのシンプルな料理のため、各人で味を調整する必要があったからだそう。

どの料理も高さを出すように、立体的に盛りつけているのは、平安時代の食を記した『類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)』に倣ってのこと。文献にはどれも4㎝ほどの高さに盛られている。見た目が限りなく文献に近いのは円筒状にしたご飯。3膳分はなかなかの量だが、当時もいまも食べ残していいルールになっている。

京料理の手法を取り入れた
二進以降の料理

貴族たちの格式高い饗応料理を味わった後は、京料理のコースを楽しむような料理が次々と運ばれてくる。二進以降に見られる「羹(あつもの)」や「割鮮(かっせん)」の名称の中には、平安時代になかったものもある。野菜料理を意味する「調菜(ちょうさい)」はまさにオリジナル。

コース全体のバランスを考え、美味しく食べられることを念頭に置いて献立を組んだという。締めには果物や、宴には欠かせなかった菓子「唐菓子(からがし)」も提供される。当主が本腰を入れて完成させた創作平安王朝料理は、発表から30年たったいまも人気が衰えず、ほかにはない食体験が喜ばれている。

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二進「羹(あつもの)」
冷たい料理が並んだ一進の次は温かい吸い物が目の前に。羹とは海藻や野菜を使った温かい吸い物の意。この日は秋の味覚を堪能できる鱧(ハモ)と松茸のすまし仕立て
三進「割鮮(かっせん)」
割鮮とは刺身のこと。平安時代は生の魚を食すのが最高の贅沢で、貴族たちは天皇の前で魚をさばく包丁の技を披露したそう。鯛とイカの2種を一種一器のルールで別々に盛りつけている
四進「炙(あぶりもの)」
一塩ものの甘鯛にハジカミを添えて京料理の焼物を思わせるひと品に。平安時代の調理の大半は素焼きで、そこに味噌を付けたり、蒲焼きにしたりと工夫していくのは室町時代以降のこと
五進「調菜(ちょうさい)」
松茸と水菜、菊花を醤油でさっぱりと味つけたひと品。平安時代は、現代のような野菜料理はなかったそう。調菜の名称は野菜や乾物を使った料理をつくる調菜人から取っている
六進「挙物(あげもの)」
サザエ、貝柱、ニンジン、占地(しめじ)の天ぷら。平安時代に油で揚げた料理はなく、こちらの一品も京料理の揚げ物がベースのオリジナル。揚げ物が登場するのも室町時代以降
七進「窪坏物(くぼつきもの)」
天ぷらの後の口中を洗うさっぱりとしたひと品。この日は水前寺のりと長芋を醤油で風味づけ。窪坏物で生ものを使う場合は細かく切って酢で洗う程度の調理が施された
八進「姫飯(ひめいい)」
赤米の上に焼いた甘鯛をのせ、ワサビと三つ葉を添え、あられを散らしてから銀あんをかけている。赤米は品種改良がされておらず、当時の味わいを楽しめる。漬物は大根のぬか漬け
九進「木果子(きがし)」
平安時代の貴族がお菓子として好んだ果物。柿や桃、栗、杏などをよく食べたという。饗応料理にも木果子は出され、貴族たちの詩歌に詠まれることもあったという。この日は梨が登場
十進「唐菓子(からがし)」
中国伝来の唐菓子は別名「からくだもの」とも。小麦と水飴などでつくられ、この日はすくも虫に似せた「かっこ」や、うるち米をへそのかたちにつくって揚げた「てんせい」など

六盛(ろくせい)
住所|京都市左京区岡崎西天王町71
Tel|075-751-6171
営業時間|11:30~14:00、17:00~21:00(最終入店18:00)
定休日|月曜(祝日の場合は翌日休)、ほか不定休あり
www.rokusei.co.jp

text: Mayumi Furuichi photo: Toshihiko Takenaka
Discover Japan 2024年11月号「京都」

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