京都・老舗料亭《六盛》
平安貴族の気分を味わえる饗応料理を徹底解剖!【後編】
老舗料亭の3代目当主が、平安時代の正式な饗応料理がベースの王朝料理を考案。文献にあたり、専門家のアドバイスも受けながら完成させたコースは、普段目にすることのない様式にも心が躍る。後編では京都・老舗料亭「六盛」の平安貴族の気分を味わえる饗応料理を徹底解剖!
文献が残る
一進「祝菜(ほいがな)」を愉しむ
貴族たちの饗応がそうであったように、創作平安王朝料理も酒を一献飲むところからはじまる。そのときお膳に並んでいるのは、文献を基に創作再現した主役の一進「祝菜」。台盤(だいばん)と呼ぶ折敷風のお膳の中央には御物(おもの)【ご飯】。おかずは定番のものが8種並ぶ。「蘇(そ)」は、古代日本の乳製品。京都の牛乳を煮詰めてつくられている。「蒸鮑(むしあわび)」は平安時代の法典『延喜式(えんぎしき)』に見られるほど古くから食されてきた。
「焼蛸(やきたこ)」は文字通りの調理法で、平安時代はシンプルに焼いて食べていたようだ。「脯鳥(ほしどり)」とは野鳥の料理で、当時と同じく雉を使っている。「醢(ししびしお)」は現代でいうところの塩辛。かつては、海鼠腸(このわた)やウニが用いられ、このコースでは海鼠腸を取り入れている。
「脯宍(ほじし)」は本来、猪や鹿の肉を細く切り、二杯酢で味つけたものだが、再現した祝菜では猪の時雨煮となっている。「楚割(すわやり)」は鰹の燻製。「腊魚(ほしいお)」は、魚の身を切って干したもの。キスを使っている。
「四種器」と呼ばれる酢、酒、醤、塩の調味料を置いたのは、当時は現代のような調理法がなく、焼く、蒸すなどのシンプルな料理のため、各人で味を調整する必要があったからだそう。
どの料理も高さを出すように、立体的に盛りつけているのは、平安時代の食を記した『類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)』に倣ってのこと。文献にはどれも4㎝ほどの高さに盛られている。見た目が限りなく文献に近いのは円筒状にしたご飯。3膳分はなかなかの量だが、当時もいまも食べ残していいルールになっている。
京料理の手法を取り入れた
二進以降の料理
貴族たちの格式高い饗応料理を味わった後は、京料理のコースを楽しむような料理が次々と運ばれてくる。二進以降に見られる「羹(あつもの)」や「割鮮(かっせん)」の名称の中には、平安時代になかったものもある。野菜料理を意味する「調菜(ちょうさい)」はまさにオリジナル。
コース全体のバランスを考え、美味しく食べられることを念頭に置いて献立を組んだという。締めには果物や、宴には欠かせなかった菓子「唐菓子(からがし)」も提供される。当主が本腰を入れて完成させた創作平安王朝料理は、発表から30年たったいまも人気が衰えず、ほかにはない食体験が喜ばれている。
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六盛(ろくせい)
住所|京都市左京区岡崎西天王町71
Tel|075-751-6171
営業時間|11:30~14:00、17:00~21:00(最終入店18:00)
定休日|月曜(祝日の場合は翌日休)、ほか不定休あり
www.rokusei.co.jp
text: Mayumi Furuichi photo: Toshihiko Takenaka
Discover Japan 2024年11月号「京都」