京都・老舗料亭《六盛》
平安貴族の気分を味わえる饗応料理とは【前編】
老舗料亭の3代目当主が、平安時代の正式な饗応料理がベースの王朝料理を考案。文献にあたり、専門家のアドバイスも受けながら完成させたコースは、普段目にすることのない様式にも心が躍る。平安時代の貴族の食事を味わえる饗応料理とは?
創業125年の料亭、
京料理のルーツと歴史を研究
2024年で創業125年を迎えた「六盛」。仕出し店にはじまる料亭の名を世間に知らしめたのは、ハイカラ好みの先代が1966年に考案した「手をけ弁当」。
当時、昼ご飯を提供する料理店はごくわずか。そんな時代に京の老舗桶店の手桶を見て、それを使った斬新な弁当を思いついている。目新しさと美味しさは瞬く間に評判となり、もっと広い店舗が必要になったことから現在の左京区岡崎へ移転。疏水べりの桜並木を窓外に望む料亭となった。
父の仕事を見てきた3代目の堀場弘之さんも、無から有を生み出すことを得意とする。30年ほど前には、お客から京料理の定義をたずねられたことをきっかけに、本腰を入れてルーツを調べるようになった。「京料理のルーツは平安時代の王朝料理にあるのではないか」と考えた弘之さんは、自身で文献にあたり、宮中の食文化に詳しい奥村彪生(あやお)さんにも教えを請うた。
「奥村先生は、宮中の格式ある饗宴で用意されたものを、文献を基にすぐに再現してくださいました。ただそれは現代人からするとそれほど美味しいものではなく、そのままではお客さまに楽しんでもらえないと思い味を調整。様式や食材は可能な限り踏襲し、味つけや内容は京料理の技を取り入れるかたちで創作平安王朝料理としました。1994年の平安遷都1200年を機にはじめた取り組みですが、王朝時代の料理の研究は、いまでは私のライフワークです」
創作の平安王朝料理を愉しむ空間
様式を調える際には、伊勢神宮の式年遷宮の御装束を任される老舗「井筒」の井筒與兵衛(よへい)さんにも多くのアドバイスをもらったという。食器類は、店にもともとあったものだけでは間に合わず、瓦器(かわらけ)や漆器類の大半を誂えることになった。ずっしりと重みのある純銀製の箸や平安時代の匙である櫂も新調している。
誂え品はうつわやカトラリーだけにとどまらず、机や敷物にも及んだ。四方をきらびやかな裂地で装飾した褥(しとね)は、平安時代の貴族が使った敷物。お客が座る敷物ひとつにも手を抜かず調えたことで、より本格的な世界観をつくり上げている。
創作平安王朝料理は個室で提供される。1週間前までに予約をし、当日はまず1階の応接室で、王朝の正餐(せいさん)や、はじめて見るような献立名「祝菜(ほがいな)」、「脯鳥(ほしどり)」、「楚割(すわやり)」などについて解説した資料を読む。
予習の後は2階の個室へ。ろうそくの明かりで照らしていた、ほの暗い平安時代の雰囲気を味わってもらおうと、通路や部屋の照明は落としている。細部にまで目を配った演出に気持ちが高まりつつ部屋へ入ると、床の間には貴族らが日常的に使っていた檜扇が。かたわらには王朝時代をイメージした香りの練香も焚かれて、いよいよはじまるコースに期待が膨らむ。
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創作平安王朝料理を徹底解剖!
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text: Mayumi Furuichi photo: Toshihiko Takenaka
Discover Japan 2024年11月号「京都」