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《ひみつビール》
酵母ファースト×農業ベースで醸造する、伊勢発マイクロブルワリー

2024.8.21
《ひみつビール》<br> 酵母ファースト×農業ベースで醸造する、伊勢発マイクロブルワリー

「いつか二人でブルワリーを開業したい」。そんな学生時代からの夢を実現させたマイクロブルワリー「ひみつビール」は、古くから神宮の御塩づくりが行われていた伊勢市二見町で誕生しました。ブルワーとして活躍するのは、高校時代からの友人である藪木啓太さんと佐々木基岐さん。互いに別々の道を歩んでいた二人は、どのようにして夢を実現させたのだろうか。新進気鋭のブルワーに、ブランド誕生の背景を伺いました。

ひみつビール
2021年に三重県伊勢市で創業した新興ブルワリー。酵母の声を聴きながら大切に育てていくスローな造りが特徴で、副原料に旬の農作物などを使用。心地よい居場所づくりを目指している。

ビールの概念を覆したIPAとの出合い

「僕らは飲んだり食べたりすることが本当に大好きで」。そう話すのは、ひみつビールの代表である藪木啓太さん。昔から雇われて働くことにイメージをもてなかったという藪木さんは、友人の佐々木基岐さんと高校・大学をともにするなかで「将来は一緒にビール会社をつくろう」と夢を語っていたという。

ところが大学院を修了した佐々木さんは、酒造会社・日本盛(にほんさかり)に研究職として就職。一方、薮木さんは広告業界の営業職と、ブルワーとは程遠い場所から二人の社会人生活はスタート。当時は地ビール第一号が民事再生を受けたタイミングであり、二人が働きたい、造りたいと思うようなブルワリーが国内に存在しなかったゆえの身の振り方だったのだ。

ひみつビール代表・藪木啓太さん(右)と副社長の佐々木基岐さん(左)

そんな中「クラフトビールと呼ばれる、おもしろいアイテムが海外にはあるらしい」といった情報をキャッチした佐々木さん。すぐさま薮木さんとともに大阪まで出向き人生初となるIPAを口にするのだが、この瞬間こそ、ひみつビール誕生のターニングポイント。「これだ、これだと。昔話していたビール会社を立ち上げるために今すぐ動こうとなったんです」。

約15年の時を経て実現した
念願のブルワリー

当時20代後半に差し掛かっていた二人は、ひとまず酒類製造免許を取得しようと動きはじめるが、修業先となるような求人は一向になし。そこで薮木さんは、どうにか業界に潜り込めないかとはじめた志賀高原ビールでのアルバイトがきっかけで、南信州ビール、ヨロッコビールへとキャリアを積み上げていくこととなる。

一方、佐々木さんはといえば、研究職としてのキャリアを着実に築いてはいたものの、薮木さんがクラフトビール業界に足を踏み入れたことで焦りを感じるように。転職活動をスタートさせたところ運と縁が重なったのか、ちょうど品質管理担当が抜けるタイミングだった伊勢角屋麦酒に採用が決まったのだ。

畑作業をする藪木さん

各クラフトビールメーカーでノウハウを培ってきた二人は、2021年、いよいよ開業の準備へと取り掛かる。「畑作業をやりながらビールを醸造するといった夢が叶う場所だし、初期費用も抑えられますからね」と拠点に選んだのは、薮木さんの地元である伊勢市二見町。祖父が使用していた農業用の納屋をリノベーションした念願のブルワリーが誕生したとき、かつて夢を語っていた学生は34歳になっていた。

「起業をしたいと思っている僕らのような人たちは、社会からすると浮いている存在ですよね。けれども、それを農業に置き換えると、農薬を使わずに育てた画一的ではないおもしろい作物なんです」と、ひみつビールのベースには無農薬栽培に似た伸びやかな哲学がある。「自分たちのように社会から浮いた存在にとっての“居場所をつくること”も、ひみつビールが掲げるスローガンです」。

酵母の声を聴くことで、にぎやかな味わいに

「うちは酵母の都合に合わせて人が動いているので、完成までのスケジュールが見えないんです。のんびりとした酵母を使っていることもあり醸造期間が長いのですが、ゆっくり発酵する中でのわずかな酵母の活動が、にぎやかな味わいにつながるんです」と、たった二人のブルワーが酵母ファーストで醸造するとあり、週一回の仕込みで出来上がるのは約3000缶が限界だとか。「しんどい作業も多いのですが、大切に育ててきたビールだからこそ、自分が本当に大切にしている人にだけ教えてほしいなと。そういったつながりで、みんなに知ってもらえたら素敵ですよね」。

自家栽培のコシヒカリとローカルミルクの大内山牛乳を使った「アザラシミルク」。濃厚なミルクの味わいと優しい米の甘さで飲みやすい

ブルワリーを立ち上げるまでは、ほとんど地元に帰ることはなかったというが、伊勢志摩スカイラインを駆け上がるような爽快感ある「SKYLINE」や、二見町の名産「岩戸の塩」を絶妙な塩梅で使用した「海の記憶」など、どれもが地元へのリスペクトにあふれている。「ブルワリーのすぐ裏が海なのですが、子どものときに泳いでいるとタツノオトシゴが足に絡まったりね。そういうところからラベルのデザインイメージが湧いてくるんです」と無邪気に笑う薮木さんのインスピレーションこそ、ひみつビールらしさかもしれない。

秋に収穫したさつまいもを副原料とした「焼き芋ドッペルボック」

そんなビールのアクセントとなるのは、ブルワリー近くの畑で栽培された麦、米、果物、ハーブといった地物による副原料。「定番商品はどれかと聞かれるのですが、年間を通して見るとすべてが定番かなと。農業をベースに仕込むので、この時期には人参、この時期は柑橘という風に、収穫と仕込みが連動しているんです」と、ひみつビールは“旬を告げるビール”でもあった。

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