東京・押上の名店《焼酎Bar[秘蔵]》に聞く焼酎ニューウェーブ
前編|進化系焼酎で香りの個性を味わう
使う素材や製法の自由度が高い焼酎は、味わいが近年いっそう進化を遂げている。焼酎を知り尽くした名店・焼酎Bar[秘蔵]から、いまのトレンドと楽しむコツをうかがった。
今回は、焼酎トレンドの変遷を辿るとともに、香りの個性が味わえる進化系焼酎6本を紹介する。
「時代に合わせて新たな酒造りに挑戦する蔵が増え、焼酎の味わいや香りは、ますます多様化しています」。そう語るのは焼酎アドバイザーの資格をもち、東京・押上で焼酎Bar[秘蔵]を営む店主・土山章裕さん。店内には鹿児島や宮崎の芋焼酎から、黒糖焼酎や泡盛まで、種類豊富な焼酎約1300銘柄がずらりと並ぶ。
芋や麦、米などの原材料に麹と酵母を加えて発酵させたものを、蒸留することにより生まれる焼酎。昭和時代以降、日本の酒業界では3回の焼酎ブームが起こったといわれており、特に昨今まで大きく影響を与えているのは2000年代前半に起こった3度目のブームだ。それまでは「芋焼酎=芋臭い」というイメージをもつ人も多かったが、フルーティで華やかな飲みやすい芋焼酎の登場により、焼酎は地域で楽しまれる地酒から全国で飲まれる存在に。素材の味わいが感じられるロックや水割り、お湯割りが広く流行した。
しかし2000年代後半になると、世の中にハイボール旋風が到来。当時、いまでは定番となった本格焼酎のソーダ割りを邪道ととらえている蔵元も多かったが、若手蔵人を中心にトレンドを踏まえた新たな酒造りがはじまる。
「芋焼酎に使われるサツマイモの9割は、黄金千貫という品種です。しかし最近では紅芋や紫芋、カロテンが多く含まれる鮮やかな色のオレンジ芋を使う蔵も増えてきました」と土山さん。紫芋は赤ワインに近い酸味を出し、オレンジ芋ではフローラルやトロピカルな香りを生むなど、サツマイモによって芋焼酎の味わいは大きく変化する。最近では、バナナのような甘い香りや、熟成させたサツマイモを使ったライチのような華やかな香りが感じられる焼酎もトレンドに。さらにはワインに使われる酵母や、花から抽出する酵母などを用い、酵母によって香りの違いを出す蔵も登場している。
原材料の生産から酒造りまで行う「ドメーヌ」という言葉を、ワインだけでなく日本酒などでも耳にする機会が増え、そのムーブメントは焼酎業界においても健在だ。「宝山」などの銘柄を販売する鹿児島・日置市の「西酒造」では、焼酎に使うサツマイモを自社栽培。九州以外でも、’24年3月には伊豆諸島で造られる焼酎が「東京島酒」として、国として地域ブランドを保護するための地理的表示(GI)に登録されたばかり。蔵人たちの努力によって、各地で地域ならではの焼酎が造られている。
数年ごとに移り変わる流行に合わせ、造りや味わいが変化している焼酎。昔ながらの焼酎を楽しんでいる世代や、焼酎をこれまで飲んでこなかった人にこそ、進化した“いまの焼酎”をぜひ味わってほしい。きっとこれまでの焼酎の印象が、大きく覆されることだろう。
香りの個性が味わえる進化系焼酎6選
(写真右から順に)
のんのこワイン酵母仕込(宗政酒造)
ワイン酵母を使った焼酎の先駆け的存在の麦焼酎。宗政(むねまさ)酒造でしか手に入らない佐賀・伊万里産の大麦「煌二条」を使用。蒸留器内の気圧を下げて蒸留する「減圧蒸留」により、白ワインに近いすっきりした味わいに
江戸酎(八丈島酒造)
東京・八丈島で採れたサツマイモだけを使い、麦麹で仕込み熟成。白黄色芋系、紫色芋系、橙色芋系のすべてを配合することによって、1種類のサツマイモでは出せないハーバルで複雑な味わいに。ソーダ割りがおすすめ
Kesen to Haruka(天星酒造)
シナモンの原料である樹木の一種「けせん」の枝を、蒸留前に添加して香りづけ。べにはるかのもつ甘い香りの中に、わずかにスパイシーさも感じられる芋焼酎。清涼感があるため、水割りやロックで華やかな香りを楽しみたい
MIYAGAHAMA Aroma(大山甚七商店)
2023年に販売を開始し、鹿児島県限定で流通する銘柄。オレンジ芋の一種「玉茜」を用い、アールグレイを思わせる香りに仕上げた。幅広い飲み方に対応するが、燗酒にするとホットティーのような感覚で味わえる
宝山 芋麹全量(西酒造)
米麹を使わず、芋麹を採用することで100%サツマイモだけで仕込んだ一本。収穫した芋を寝かせることで甘みが増し、マンゴーを思わせるトロピカルでジューシーな香りに。ロックやソーダ割りで芳醇な香りを体感して
pentatonic one(松露酒造)
2回蒸留を行う独自製法によって生まれた数量限定酒。雑味を削ぎ落とし、ヨーグルトやレモンのような甘酸っぱさが感じられる芋焼酎に仕上げた。紫芋を用いるため、ロックや水割りで味わえば赤ワインに近い美味しさに
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text: Akane Sato photo: Shimpei Fukazawa
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