東京・押上の名店《焼酎Bar[秘蔵]》に聞く焼酎ニューウェーブ
後編|秘蔵流、5つの焼酎ペアリング
使う素材や製法の自由度が高い焼酎は、味わいが近年いっそう進化を遂げている。焼酎を知り尽くした名店・焼酎Bar[秘蔵]から、いまのトレンドと楽しむコツをうかがった。
今回は、味の相乗効果が楽しめる、秘蔵流の5つの焼酎ペアリングを紹介する。
秘蔵という店は、あくまで焼酎バーだと店主の土山さんは語るが、メニューを見ると、さつま揚げやきびなごの一夜干しなど九州の郷土料理から、ローストポークにパスタ、カレーまで幅広いジャンルの料理があることに驚かされる。
「焼酎を中心に考えた結果、いまのかたちに落ち着いたんです。焼酎は一般的に、郷土料理や和食に合わせるイメージが強いですが、それだけとは限りません。蒸留技術は中東で生まれて、さまざまな地域に蒸留酒とその製法が伝播。日本においては、東南アジアから琉球に伝えられたり、中国や朝鮮半島からも伝わって、後に泡盛や焼酎となりました。そういった伝来のルーツをさかのぼれば、それぞれの経由地の料理とも合うのではないかと考えています」
1000種類以上も焼酎があると、どの料理にどんな焼酎を合わせるべきか迷いそうになるが、「料理と焼酎のトーンを合わせたり、味の補完関係を考えるのがおすすめ」と土山さん。燻製された料理には樽で熟成させた銘柄を合わせ、イタリアンやフレンチにはワイン酵母で仕込んだ銘柄を選択。カレーにはスパイスを使った焼酎で味の相乗効果を狙う。
焼酎のおもしろさは、好みに合わせて飲み方を変えられる点にもある。料理や気分に合わせて、ロックや水割り、お湯割りなどと楽しんでほしい。銘柄によってアルコール度数が異なるが、焼酎は25度前後が主流。夏定番のソーダ割りの場合は焼酎:ソーダ=1:3の割合で、度数が高い銘柄ならソーダの割合を増やし、6〜7度くらいの度数になるように割ると飲みやすいのだとか。
焼酎は温度管理がほとんど必要なく、味わいや香りが開封後も劣化しにくいため、自宅でゆっくり楽しむ酒にも最適。秘蔵を訪問すれば、きっと自分好みの銘柄や飲み方に出合えることだろう。
味の相乗効果を楽しむ、秘蔵流焼酎ペアリング
01|タコとトマトのアヒージョ×球磨川
トムヤムクンに近いエスニック風の味つけをした、夏限定のアヒージョ。豆乳入りのパンは、外がカリッと中がモチモチで、オイルがよく染み込む(1200円)
球磨川(大和一酒造元)
2020年の熊本豪雨で起こった球磨川の氾濫により、蔵に新たにすみついた天然酵母で造られた玄米焼酎。香ばしさや力強さをロックで堪能して(900円)
02|合鴨のスモーク×神喜の目醒め シェリー樽
塩コショウのみのシンプルな味つけで、合鴨のもつ甘みや旨みが引き立つ。燻製の香りが、樽で熟成されたウッディな焼酎とよく合う(800円)
神喜の目醒め シェリー樽(朝日酒造)
自社でサトウキビづくりから行う蔵が、タンクで10年以上寝かせた後、シェリー樽で2年熟成させた黒糖焼酎。香りが引き立つソーダ割りがおすすめ(1600円)
03|トリッパのトマト煮込み×みやこざくら ワイン酵母仕込み
レモンの皮やパセリをたっぷり加えて軟らかく煮込み、まろやかな味わいに。トマトベースのため赤ワイン風の焼酎と相性がいい(900円)
みやこざくら ワイン酵母仕込み(大浦酒造)
ほのかな酸味をもつ紫芋と、赤ワイン酵母を用いて仕込み、甕貯蔵で長期間寝かせた一本。水割りで味わえば、華やかさの中にヨーグルトのような風味も(700円)
04|豚バラ軟骨とろとろ煮×萬膳
3〜4時間煮込んだ豚軟骨は、驚くほどトロトロの食感。醤油やみりん、酒などで煮込んだ正統派の味つけで、店の名物メニュー(900円)
萬膳(万膳酒造)
芋らしさがどっしりある昔ながらの芋焼酎で、べたつかずキレがよい。深いコクを燗酒またはお湯割りで味わいたい。和食に合う究極の食中酒(850円)
05|特製スパイスカレー×CHILL GREEN spicy & citrus
トマトジュースをベースにオレガノやローリエ、ジュニパーベリーなど多様なスパイスを組み合わせ、無加水でつくった夏らしいカレー(900円)
CHILL GREEN spicy & citrus(濱田酒造)
山椒のような辛みとレモングラスの香りをもつマーガオを蒸留前に加えた麦焼酎。ソーダ割りはすっきり爽やかな味わいで、まるで“大人のラムネ”のよう(800円)
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焼酎Bar[秘蔵]
住所|東京都墨田区向島4-26-6
Tel|03-3625-1856
営業時間|18:00〜23:30
定休日|水曜
text: Akane Sato photo: Shimpei Fukazawa
Discover Japan 2024年6月号「おいしい夏酒」