日本のホテル事情2024
“地域のハブ”がキーワード?!
全国に次々と新しいホテルが開業しています。中には日本初進出の外資系ホテルも多数。知っておくとおもしろい裏話からお得な情報までいまの日本のホテル事情を5つのQ&Aでご紹介します。
監修・沢柳知彦
一橋大学経済学部卒、コーネル大学ホテル経営学部修士課程修了。国内銀行・外資系証券会社を経て外資系不動産会社にてホテル開発・投資に関する助言業務に20年間従事。現在、立教大学観光学部観光学科特任教授
Q1. 外資系ホテルなぜ次々に日本に上陸?
A. 外資系ホテル開業が相次ぎ、ホテル好きには楽しみの多い2024年。外資系ホテルの経営は、不動産をオーナー(日本企業)が所有し、運営する企業(外資系ホテル)がブランド・ノウハウ・総支配人を送り経営にあたる「マネジメントコントラクト」方式が主流。つまり、日本にある外資系ホテルは、ホテル名が外資系でも、オーナーのほとんどは実は日本の企業なのだ。
ではなぜ海外ブランドの名を冠したホテルが増えているのだろう? 外資系ホテルはインターナショナルな知名度があり、圧倒的に強いロイヤリティゲストプログラム(ポイント制度)をもっていることが理由のひとつに考えられる。大手外資系ホテルチェーンはインバウンドに強いだけでなく、日本人の会員数が多い。外資系のホテルチェーンなら、さらに、国内系高級ホテルに比べて高い客室単価を設定できるので、高騰する建設費や人件費などを考えると、利益を見込める外資系ホテルの日本進出は、ビジネス目線で考えると自然な流れといえる。
Q2. 東京・大阪・京都だけじゃない!
地方にも外資系ホテルが?
A. 外資系ホテルというと、以前はインバウンドを誘致できることが強みだったため、東京や京都、大阪といった“ゴールデンルート”への進出が一般的だった。現在は前述の通り、日本人のロイヤリティゲストプログラム加入者も増加しており、必ずしもインバウンドが多くない地方都市でも集客が見込めることがわかってきた。そのためニッチな場所と思われる地方にも外資系ホテルがつくられるようになった。
最近のホテルの傾向でいうと、ラグジュアリーホテルとエコノミーホテルの二極化が進んでいる。なぜなら、建築費や人件費も高騰しているから。数年前と同じ売上があったとしても利益が出づらい状況が続いているため、着実に利益を得ようと思うと、1部屋あたりの単価を上げるラグジュアリーホテルか、部屋を狭くして運営コストを下げ、稼働率を上げるエコノミーホテルをつくるのが賢明という判断になる。
これまで地方には“◯◯グランドホテル”といったローカルなホテルがあったが、倒産してしまったホテルも少なくない。人口が減少し、結婚式需要も見込めない現在では、地方で一定規模の中堅ホテルを継続させることは難しくなったといえる。
Q3. ホテル=地域のハブになる?
A. 日本には1泊2食付きの旅館のシステムが定着していて、旅館やホテルによる「ゲストの囲い込み」が行われてきた。このケースだと、チェックインからアウトまで宿の中で過ごすゲストのみを相手にしていたため、宿泊施設と街や地域とのつながりは薄くなりがちだ。
これからの地方のホテルは、ゲストに目を向けるだけでなく、地域とつながり、地域のハブになるという意識が必要。たとえば、地域外から訪れるゲストに快適な宿泊を提供する一方、地元の人にとって魅力的なカフェやレストランを充実させるといった取り組みも必要と思われる。また、宿泊客には連泊して街に出てもらい、街中の飲食店や体験の利用を積極的に促すことも大切。そういった意識改革によって、ホテルは、地域活性を担うキーポイント的な存在になっていくだろう。
Q4. 観光立国になるキーはホテルにある!?
A. 日本の観光業は、外貨獲得ビジネスにおいて自動車、化学製品に次いで第3位。その観光業の中で、ホテルや旅館の貢献度は最も高いと考えられる。ホテルが重要というと、日本では「おもてなし」の強化を図る傾向があるが、もてなしを磨くことが差別化になるとは限らない。ベルガールに重い荷物を持たせる、仲居さんが部屋に入るといった、いわゆる「おもてなし」を嫌う外国人も実は多い。もてなしをプラスするよりまずは不満要因を取り除くことに注力する必要がある。たとえば、地方都市で高級車両のタクシーやレンタカーの手配ができない、ディナーのラストオーダーの時間が早過ぎる、海外から新幹線の予約がしづらいなど、解消すべき課題はまだまだ山積み。利用者の目線に立ったサービスを充実させることが観光立国・日本の急務だ。
Q5. ホテルをお得に楽しく利用するコツとは?
A. 国内にも外資系ホテルが急増しているため、とりあえず無料会員になってポイントを集めるのはおすすめ。たくさん宿泊する予定があるなら、提携クレジットカード会員となり、ポイント修行僧となってエリート会員を目指すのも楽しみ方のひとつに。出張のビジネスホテル宿泊でポイントを貯め、プライベートで高級ホテルに宿泊できるのも、外資系ホテルチェーンならでは。また、多くのホテルでは需要に合わせて価格を変動させるので、特にラグジュアリーホテルは平日やオフシーズンに、自社のウェブサイトから早割プランの予約を検討するとぐっとお得。
旅館や特色のあるホテルの滞在であれば、個性の強いオーナーの宿に行って、そのカルチャーを学ぶのも手。日本には全国各地に独自の文化があり、工芸品制作体験やガイドとめぐる街歩きなど、趣味とまでいかなくても教養として知っておくと楽しいコンテンツがたくさんある。
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text: Akiko Yamamoto
Discover Japan 2024年5月号「進化するホテル」