FOOD

《球磨川アーティザンズ》
人吉球磨の豊かさを、余すところなく凝縮したひと瓶

2024.5.30
《球磨川アーティザンズ》<br>人吉球磨の豊かさを、余すところなく凝縮したひと瓶

日本三大急流のひとつ球磨川を拠点に、この地の豊かさを保存食に変えて国内外へと発信する「球磨川(くまがわ)アーティザンズ」。市場に出回らない規格外の農作物を正規の価格で買い取り、そこにアイデアをプラスした品々は、どのようにして生まれたのだろうか。限界集落に新しい風を呼び込む代表の田畑奈津さんに、ブランド立ち上げの経緯や製品誕生の背景を伺いました。

球磨川アーティザンズ
地方にいながら世界とつながるビジネスモデルが構築できないかと、熊本県人吉市出身の田畑さんが2019年にスタートさせた地域総合ブランド。後継者不足にあえぐ第一次産業の発展と、国内の食料自給率アップをミッションとしている。

豊かな風土の裏にあるフードロスと農業の衰退

太古から続く地殻変動や火山の爆発などにより、肥沃な土壌が形成されてきた熊本県人吉球磨地方。盆地ならではの気候に恵まれた“隠れ里”は農作物の宝庫だが、限界集落化が目の前に迫っている。球磨川アーティザンズの代表・田畑奈津さんも、高校卒業後は地元である人吉を離れ、長らくアメリカで暮らしてきたが、「地方にいながら世界とつながるビジネスモデルを確立してみたい」と、齢50を目前に地元へと戻ってきた。

東京ビッグサイトで開催されたショーで、製品を発信している様子

球磨川アーティザンズが手がけるのは、上質な砂糖を使用したジャム・スプレッド・シロップなどの保存食。「田舎には貨幣経済だけでなく物々交換があり、さらに思いやりの経済があるんです。その豊かさや優しさをどう製品にのせようかと考えたときに思いついたものが、常温保存の利く安全な食べ物だったんです」と誕生秘話も興味深い。

球磨川で活躍する“アーティザンズ”

蓋を開けると豊かな気持ちになるものを。そんな球磨川アーティザンズの製品は、人吉球磨を中心に活躍する“職人(アーティザンズ)”なくては成り立たないが、その職人とは原材料である農作物を手がける生産者のこと。「第一次産業の担い手が経済的に豊かになれば、若い人たちも絶対に参入してくれるはず」と、球磨川アーティザンズでは市場に流通しない規格外の農作物を正規価格で買い取ることで、地域の“職人”をバックアップしている。

地産の農産物が日常を彩るひと瓶へと生まれ変わる

製品ラベルには誕生順に番号がふられており、2024年4月現在はNo.29まで存在。「熊本県錦町で生産される新ショウガは花のような香りが広がるので、マスカットに似た香りのエルダーフラワーを合わせればショウガが生きるのでは」との発想から誕生したコーディアルに、地元の白桃と黄桃にトンカ豆を合わせたコンフィチュールと、地産の農産物に海外生活の長い田畑さんらしい発想が加わることで、唯一無二のひと瓶が完成する。

中でも製品第一号であるNo.1の「青梅ピュレ」は、美しい翡翠色を表現するのに数ヶ月もかかったとか。初夏の風物詩である梅仕事をアップデートさせた、突き抜けるような爽やかさが特徴の逸品だが「ぜひ、マスカルポーネチーズと合わせてトーストに乗せてみてほしい」と、おすすめの食べ方も世界中を旅してきた田畑さんらしくおもしろい。

最初につくられたno1の「青梅ピュレ」

「球磨川や人吉球磨と聞いただけで食を想起させるような場所になれば、交流人口が生まれたり移住を検討したりと、いい方向に向かいますよね」。そう話す田畑さんだが、とはいえ地元を守りたいといった崇高な気持ちからはじめたわけではないという。「自分や周りが誇りを持って楽しく働ける場をつくりたかったんです。若い人たちが安心して未来を設計できるよう、仕事に幸せや楽しみや喜びを求めても企業が存在できることを試してみたかったのかもしれません」。

“食”で田舎と世界をつなぐ実証実験

人吉球磨で働く田畑さんと同世代の人々は、誰しも限界集落化へと向かう状況をどうにかしなければと思っていた。その矢先に誕生した球磨川アーティザンズとあり「地元の人にはものすごく助けてもらった」と、テストマーケティングのときから周囲は協力的。幸先もよかった。

立ち上げから、わずか5年。各国に輸出を行うまでに成長した球磨川アーティザンズだが、社員はわずか3名と猫の手も借りたいほど。そこで現在は、地元の高校生やインターン生に手伝ってもらっているが、限界集落間近の人吉球磨で彼ら学生が見ている世界は、とてつもなく狭い。だからこそ、地元を飛び出し世界中を旅してきた田畑さんは「色々な大人の話を聞いて考え方を学んだほうがいい」と彼らに口酸っぱく言い続けているが、そんな言葉に影響を受けたのか、地方創生を将来の目標に定めた学生もいるとか。広い世界を見聞きした学生たちが、これから日本各地のアーティザンズとイノベーションを起こすかもしれない。

球磨川アーティザンズにインターンしている学生

「いまは配信で世界中の映像が観られるし、ネットショッピングもある。だからどんな田舎であっても、所得さえあれば幸せなんです。空港まで行けば、海外なんてすぐですからね」。そう笑う田畑さんは、次なる製品アイデアを求めて海外に行きたいと、うずうずしていた。限界集落であってもアイデアさえあれば世界とつながれる。そんなお手本が、ここにはあった。

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text: Natsu Arai photo: Norihito Suzuki(main cut)

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