FOOD

うつわの勉強会「基 -もとい-」に教わる
毎日の食卓を楽しくするワザ【後編】
|うつわと料理談議②

2024.1.9
うつわの勉強会「基 -もとい-」に教わる<br>毎日の食卓を楽しくするワザ【後編】<br><small>|うつわと料理談議②</small>

うつわ作家や料理人、茶人が集う、うつわの勉強会「基-もとい-」。そのメンバー7名が一堂に会して、向付をテーマに毎日の食卓を楽しくするワザの数々について語り合う座談会を開催。後編では、向付を日常の料理で上手に使う方法や盛りつけのコツについて教えていただきました。

≪前の記事を読む

家庭で向付を上手に取り入れるには?

「染付魚形向付」
作家名|新道工房 宮本茂利さん 価格|7700円 サイズ|H25×W200×D90㎜

浅場 いまは向付を懐石のシーン以外でも使っていますが、最初はお刺身以外を盛ることに抵抗がありました。特別なうつわというイメージが強くて、家庭で使うには気が引けてしまっていたかもしれませんね。
 
宮本 “そばちょこ”といううつわがありますよね。あれはもともと、小さいうつわという意味のちょこで、お酒も飲めるし、小鉢にも使える万能食器でした。それが明治以降にそば店が使って“そばちょこ”という名前がついてしまったことで、そばつゆ専用(と思われる)うつわになってしまいました。向付も同じように、名前や固定観念に縛られがちですが、個性的なかたちを見てもわかるように、本来は自由なうつわです。
 
安達 家庭だとどうしても「使いやすい」を基準にうつわを選ぶ傾向があります。一枚でいろいろな料理やシーンに使えるうつわは確かに便利です。でも私自身、向付ありきでそこにのせる料理を考えるという体験が何度かあって、それがすごく楽しかった。向付は決して使いやすさだけを重視したうつわではありませんが、使いたくなるうつわだと思います。自分のうつわを使ってくださる方に、そう感じて向付を選んでいただけたら幸せですね。
 
渡辺 僕は以前、それこそ蕎麦店で使う「使いやすい」うつわをつくっていました。独立してからも、それを家庭向けにつくったらどうなるかという観点で作品をつくっていましたが、向付をつくりはじめたことで少し気持ちに変化が出てきました。向付は何げない一品を特別なものにできるうつわです。何をのせるかは使う方の自由ですが、どんなシーンで使ってもらえるかをイメージしてつくることが楽しくて、こういう意識は大切だと感じました。今日持ってきた向付(酢の物)には雲形の装飾を施しています。実用的とはいえませんが、使う方に縁起がいいようにというメッセージを込めています。
 
宮本 僕の向付(刺身)は、魚が好きな息子にと思って古典から写したもの。息子はボウロを入れて食べていましたが(笑)。料理はもちろん、季節や食材、相手を思ってうつわをチョイスするというのは家庭でも自然にやっていること。どう使うか難しく考える必要はなくて、実際に使ってみると、その自由さや楽しさがわかってもらえると思います。ということで町田さん、盛りつけをお願いします!

うつわと盛りつけで料理は美味しくなる

小さめに切った「唐揚げのネギソース」に柑橘をのせて。和食では女性がひと口で食べられるサイズで提供するのが基本。食べる人への配慮は美しさにもつながるので、家庭でもまねしたい

町田 デパ地下のお総菜を向付に盛るのははじめてですが、使い方をイメージできれば、ご家庭でももっと自由に使ってもらえそうです。向付は一人前を提供するうつわ。サイズに合わせてお総菜の具をカットするとか、盛るときの量を調整するなど、ひと手間を加えることで非日常感を演出できます。私が勤めている「菊乃井」は京都に本店を構えていますが、弊社の社長と京都大学の教授が行った実験から、料理について何も知らずに食べるのと、「こういう人がつくった素材で、こういう調理をして、お出しする時間も考慮してご用意しました」などと聞いて食べるのとでは、後者のほうが3割増しで美味しく感じるということがわかりました。人間は舌だけでなく五感をフルに使い、脳で食べているのです。ですから見た目の「美味しそう!」という情報をインプットすることも、非常に大切です。

盛りつけをもっとクリエイティブに!

総菜の定番、肉じゃがも銘々に盛りつければ料亭風に。ポイントは向付のサイズに合わせて具材をカットし、具材ごとに分けること。向付の深い藍も効いて、炊き合わせのような上品さに

鈴木 家庭では大皿に盛りがちですが、こうやっていろいろな向付を使って銘々におかずを盛るのも特別感が出ていいですね。
 
宮本 あえて全部バラバラのうつわにして楽しむのも、向付の醍醐味のひとつだと思います。これは向付に限った話ではありませんが、和食には陰陽の考えがあり、つるっとした磁器のものと焼締めを合わせたり、丸い皿と四角い皿を合わせるといった風に、できるだけ違うものを取り合わせます。統一感とは真逆の、日本ならではの美意識ですよね。
 
浅場 色の決まりはありますか?
 
宮本 色彩は西洋的な考えです。ヨーロッパのあたりだと真っ白のお皿をキャンバスに見立て、ソースで絵を描くような盛りつけ方をしますが、その感覚はもともと日本にはありません。強いて言えば、白黒写真でも映えるような盛り方をする。だから、うつわのかたちを変えたり質感を変えて変化をつけるのが、和食の考え方になっているのだと思います。
 
町田 煮物に焼締めを使ったり、黄色いうつわに黄色っぽい食材を盛ったりもしますよね。日本は、色の名前が多いことからもわかるように、ちょっとした色のグラデーションを楽しむ文化があります。四季があり、よい食材や自然の色にあふれているのが当たり前で、ベースとして色彩感覚が優れているので白いうつわに盛るだけでは物足りないのかもしれません。
 
安達 焼物の質感の多様さや、自然観にも通じてきそうですね。向付を使うだけで盛りつけもワクワクします。
 
宮本 忙しくてデパ地下のお総菜を買ってきた日でも、向付に盛りつけることで食卓がパッと明るくなる。料理をすることだけでなく、うつわ選びもクリエイティブな作業としてもっと楽しんでいただきたいですね。

line

 

向付(むこうづけ)とは?
歴史や成り立ち、黄金比を学ぶ。

 
≫続きを読む

 

text: Akiko Yamamoto photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2023年12月号「うつわと料理」

RECOMMEND

READ MORE